祝福をもらいましょう
やっと異世界っぽい感じになって来ました。
翌朝、少し寝惚けた頭を頑張って起こしながら、朝食を摂って出掛ける準備をする。今日も今日とて美人な母、シルファ・シーディアは俺のことを満面の笑みで抱き締める。
「アリオ、気をつけて行くのよ」
「はい母上!」
「あ、ちょっと待てアリオ」
「兄さん?」
母の後ろでちょいちょいと手招く兄に近付くと、耳元に口を寄せたカリスは「驚くなよ」と俺に忠告をして一層声を潜める。
「昨日の夜、初めて予知が出来たんだが…アリオ、今日はお前にとって運命を変える出来事が起きるみたいだ」
声が出そうになるのを、手で押さえて止める。兄が“預言者”の要である予知魔法を使えたことへの歓喜と驚きももちろんあったが、それよりも俺にとっての運命を変える出来事とはどういうことだろうか。
「兄さん、それは良いことですか?それとも…」
「すまないがそこまでは分からなかった…ただ、教会でアリオが凄く驚いた顔をしていたことは確かだ」
教会ということは間違いなく、俺の運命を変える出来事というのは祝福によるものだろう。終活にめちゃくちゃ役立つ祝福とかでも来るのだろうか。もしくは、普通に日常を過ごせる程度のもので拍子抜けしたとかかもしれない。何はともあれ、教えてくれた兄には感謝だ。これで心の準備が出来る。
「教えてくれてありがとうございます兄さん!それとおめでとうございます…!」
最後の方は周りに聞こえないよう声量に気を付けてそう言うと、兄は笑いながら俺の頭を撫でた。
「約束忘れるなよ、アリオ!」
「もちろんです!」
盛大に見送られた父と俺は、共に馬車に乗り込む。領地の南側にある港街ウォールには、この世界の神を祀る教会が、街の中央に存在している。シーディア家の持つ領土の中で、ウォールは一番盛んに商業を行っていて、今やシーディア家の心臓部を担っている。なので、その顔となる教会へのお布施もたっぷりだ。
まぁ、その分他の街よりも教会は綺麗だし、父上曰く神官達の仕事もしっかりしているのだとか。そういった理由もあってか、ウォールの子供達や近隣の街の子供はこの教会を訪れることが多い。俺は誕生日ごとの礼拝くらいしか訪れていないから、あまり教会事情には詳しくないんだよな…
「緊張しているか?」
「はい…正直に言うと緊張しています」
俺の終活がかかっているからね。それに兄の言っていたことも相まって、なかなかの緊張感だ。
祝福によってこの世界の家族に何を残せて、どう人生を終えるかが見えてくる筈だし、祝福次第では方針も変わる。断じて異世界転生の醍醐味にワクワクしたりだとか、チートな魔法に憧れているとかではない。いや、うん。嘘言いました。正直楽しみすぎて昨日寝れなかったです。
「安心しろ。どんな祝福だろうが、お前なら上手く使うことが出来るだろう」
「ありがとうございます!俺も父上や兄さんのように精進します!」
「努力すれば報われる。それを忘れてはならぬぞ」
「はい!」
父親の言葉は説得力が違う。父であり、シーディア家現当主のラグダル・シーディアは努力の人だ。祝福は“剣士”だったものの、彼は王都では三本の指に入る程の強さを誇ると称される。“剣士”だと言うと、100%の確率で嘘だと言われる程、父親はマジで強い。それ故に、弟子入り志願をする冒険者達も度々我が家を訪れる。そんな人が何故伯爵という爵位に収まっているのか謎だろう。答えは簡単。父親は爵位に一切の興味がないからだ。褒賞関係は爵位以外でなんとか躱しているらしいし、もしかしたら社交関係が面倒なのもあるのかもしれない。
「教会までもうすぐだ。気を引き締めなさい」
家から港街ウォールまではそれほど距離はなく、言ってしまうと目と鼻の先だ。ウォールに入ると、領主の馬車が来たということで街の人達が顔を出す。シーディア家は、父親と母親の影響もあって領民からの人気が高い。治安も海が近いにも関わらず安定しているし、良い街だ。
教会に着いた俺達は馬車から降りると、白い髭を生やしたいかにもという神官に出迎えられる。
「ラグダル様、アリオ様、お待ちしておりました」
「うむ、神官長、カリスの時同様今回もよろしく頼む」
「お任せくださいませ…ではどうぞこちらへ」
案内されるがまま教会の中に入ると、巨大な三体の女神像の前に通される。このアルシテアという世界には三人の女神がいるとされ、右の髪の短い女神は大地を、左の吊り目がちな女神は海を、そして中央のナイスボディな女神は空を作ったと言い伝えられている。ちなみにどうでもいいが、俺の好みは中央のナイスボディお姉さんだ。
「さぁ…目を瞑り、祈りを捧げてください」
言われるがままに女神像の前で跪き、手を前で組む。この時当人は何を考えてもいいらしいが、大体は教典の暗唱とか神への感謝を込めている人が多い。まぁ、祈りの内容は他者にはバレないし、俺も好きなことを祈ろう。
お願いします!!
俺にとびっきりいい祝福ください!!
もし祝福を得た暁にはこの世界の役にたってから、後世の邪魔にならないようにスパッと消えるので!!!!
どうかいい終活の為にと、表情には出さないように気を付けながら届くか分からない願望を唱え続ける。すると、体が熱くなる感覚があり、暫くしてそれが治ると同時に背後から神官長の驚きの声が上がった。
「これはまたなんと珍しい…」
もう目を開けてもいいのかなと、戸惑いながら目を開ける。すると突然目の前に現れた半透明のなにかに、驚いて思わず一歩後ろに下がる。
落ち着いてよく見てみると、一番上には俺の名前と歳、そして種族が書いてある。その下に数値こそ書いてはいないが、HPとMPと思しき緑と青のバーが見えて、瞬時にステータス画面だと理解した。異世界感に感動したのも束の間、神官長が祝福の内容を父親に伝えるのと、俺が祝福の項目を見つけたのはほぼ同時だった。
「ラグダル様、御子息の授かった祝福は“不死者”でございます」
…は???
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