ぜっっっったいそれ…
「いやー…あっちで言うエナドリだよこれ……」
近隣のスタンピードによる混乱から逃れるようにミューロ先生達の研究室に篭っていたのだが、二日ほどでそれはようやく落ち着いた。
逃げてきた人達も、色んな冒険者の協力によって新たな村を作り始めている。
ちなみに研究室で俺達は何をしていたかというと、MPポーションの開発である。
なんとこの世界、MPポーションという概念が存在しなかった。
HP…というか傷薬みたいなポーションはあるから、てっきりあるのかなと思っていたらなかった。
ミューロ先生とメロー先生に聞いたら二人揃って首を傾げていたし、他国出身ならどうだと思ったが、ユキトの反応もイマイチ。
なんならMPではなく魔力だし、MPの数値というものも存在しない。
魔力切れはあるものの、それは寝たり食べたりなど、体を休めなければ回復しない。
…あれ?カリスとはMPで通じた気がするんだけど気のせいかな?
もしかしたら、あの時は俺が混乱していただけでMPとか口走ったことを補足説明でもしていたのかもしれない。
「アリオさん、『えなどり』ってなんですか?」
「いや!?な、なんでもないよ!?!」
「でもなんだか可愛いですね!鳥さんみたいです!」
「おぉう…エナドリがエナ鳥になった……翼授けてるわ…」
メロー先生から借りた白衣を纏いながら楽しそうに笑うスーリアに、見えないことを良いことに俺は苦笑いを返す。
そう。結果から言うとMPポーションは作れてしまった。
スーリアとミューロ先生達からの薬草の知識をもとに、体に良いというものを組み合わせ、煮出したりなんなりしていたら、そりゃあもういとも簡単に出来ました。
これの為に魔力をギリギリまで使ってくれたミューロ先生は、エナドリもどきを飲むと、不思議と体が楽になったと言っていた。
ただ、その過程で出た失敗作はなんとも酷い味になってしまい、試飲をしてくれていたメロー先生とユキトをそろって沈ませた。恐るべし。
「では、これは商品化したらエナ鳥という名前にしましょうか」
「味もなんとかなりましたし、女性にも求めやすい名前ですね!」
「俺はどこからツッコめば…いや、いいか。うん。ここ日本じゃないし…」
ノリで言ってみたらすぐに材料を集めてきたミューロ先生とメロー先生のフットワークの軽さたるや…
商品名にも悩まない即決さたるや……
試作途中も目を輝かせていたし、本当に研究が好きなんだろうな。
失敗作も分析しながら飲んでいたし。
「それにしても驚きました。まさか魔力そのものを回復させる手段ができるとは…」
「俺自身も作れちゃったことが驚きなんですよねー…」
「これは画期的な物ですが、売り出すとしても数量を小分けにして、乱用を防ぐ必要がありますね。レシピは漏れないように私達だけの秘密にしておきましょう」
「いいね。なら父上に話通しておけばいいと思います」
「そうですね。私とメローは元々平民ですから、影響を考えるとアリオくんのお父上の威光をお借りした方が確実ですね」
「え!?ミューロ先生達って元平民なの!?」
なんとたまげた。
振る舞いや所作が貴族のそれだったから、今の今まで貴族かと思っていた。
父上との関係を見るに、伯爵よりかは下なのかなと踏んでいたけど、まさか平民だったとは。
前世平民の俺からすると、親近感爆上がりだ。
「ふふ…ならそこまで悪い振る舞いはしてないということですね」
「あの…ミューロ先生もメロー先生も、凄く紳士的なので、私もずっとどこかのお貴族様なのかと思ってました」
スーリアの言葉に俺は勢いよく頷く。
「私はだいぶ猫を被ってますよ?元々一人称や喋り方は違いましたしね」
あ、確かにそうですね。
前にメロー先生が暴走していた時にポロッとそんな感じの喋り方してましたもんね。
「まだ私もメローも小さかった時に、色々悪事を働きましてね…その時返り討ちにされたんですよ、アリオくんのお父上とその従者の方に」
まさかの父上とドゥールでしたかっ!!!
懐かしむように目を閉じたミューロ先生に、驚きのあまり俺は口を開ける。
というか想像できない…!
このミューロ先生とメロー先生しか知らない俺には、二人が悪事を働いたとか信じがたい。
「それでその後武術から礼儀作法までみっちり仕込まれて、貴族社会でも通用するくらいになったのですよ」
「あの…今までの話を聞いていると、アリオさんのお父様もお貴族様ですよね……?」
「話していなかったのですか?」
「あー…話すタイミング逃しちゃって……」
頰を掻きながらそう言うと、何かを察したのかミューロ先生はなるほどと頷いた。
「スーリアさんの想像通り、アリオくんのお父上は爵位を持つ御方です」
「やっぱりそうだったんですね!?あの、私全然ご挨拶にも伺えず……!」
「気にしなくていいよスーリア。俺が話してなかったのもあったし」
わたわたと慌て出すスーリアに軽く返すが、それでも気になるのか不安げだ。
まあ一緒に旅に出まーすって奴が貴族の息子だったら驚くよね。
なんならまだ領主っていう爆弾残ってるけど。
「それに偉いのは俺の父親であって俺じゃないし。俺はただのアリオだから変わらず接してほしいかな」
そう言うと、スーリアは少し落ち着きを取り戻す。
そばでやり取りを見ていたミューロ先生はというと、何度も頷きながら俺にイケメンスマイルを向けていた。
くっ、眩しい。
「でも…いつかはご両親に挨拶に行きたいです。あ、でもいきなりとかはご迷惑ですよね!?」
「それなら〜アリオくんの所に来る手紙鳥のお返事に書けばいいと思いますよ〜!」
扉からひょこっと顔を出したのはメロー先生で、その右手には亜麻色の羽に青い瞳の小鳥が鎮座している。
どうやらユキトよりも一足先に回復したメロー先生は、エナドリ開発に躍起になっていた俺達のご飯を買いに行ってくれたみたいだ。その帰りに塔の周りをウロウロする鳥を見つけたらしい。
「さっきそこで飛んでいたので捕まえちゃいましたぁ!」
「あぁ、塔の中には入れませんからね」
メロー先生から手紙を受け取ると、その中身を確認する。
手紙には近況報告と、あの馬車のことが書かれていた。
『——あと、未来が変わったから書いておくね。』
『アリオ…あの馬車に関わっただろ。』
『今回視えたのは時期は分からない…だけど少なくともアリオのことを探している人物がいる。』
『抽象的ですまない。もっと多くの情報を与えられたらいいんだけど…』
『ともあれ魔物の発生報告も増えてきている。旅には十分に気を付けてね。』
Oh…バレてる。
それもそうかと思うが、兄さんの予知、なんか俺が旅に出る前より絶好調になってきてますね!
兄さんの伸び代羨ましい〜
というか俺探されているんですね。
そんなに派手なことやった覚えないけど、やっぱりあの馬車お偉いさんとか乗っていたのかな?
「あ、そういえばお兄様聞きましたぁ?」
「何がですか?」
紙袋からサンドイッチを取り出したメロー先生は、それを俺達に差し出す。
そして「お店で聞いたんですけどぉ」と人差し指を上げた。
「なんかぁ…王家の馬車も魔物に襲われたみたいなんですぅ」
俺は思わずサンドイッチを食べようとしたままの体制で止まると、メロー先生達の方へと視線を向ける。
「そんなことが…一体いつです?馬車には誰が?」
「えっとぉ、確かアリオくん達が来る前くらいでぇ」
ごくりと喉が音を立てる。
王家という時点で、冷や汗が流れ始めた。
「乗っていたのは第一王子であるアーフォン様だったと聞きましたぁ。対峙したのは五体の狼型の魔物、ガロウルフだったともぉ」
ミューロ先生がグギギッと音が出そうな感じでこちらを見る。
同じことを考え、俺が考えていることもなんとなく察しているのだろうその顔には苦笑いが浮かんでいる。
俺は一旦サンドイッチを机に置くと、静かに目を閉じた。
……俺らが助けた馬車、ぜっっっったいそれ………
ミューロ「第五回試飲大会〜」
ユキト「いえーい!」
メロー「いやですぅ!いやですぅ!!もう飲みたくないですぅ!」
ミューロ「覚悟を決めなさいメロー。貴女が飲まなければユキトくんが飲むことになるんですよ!?」
ユキト「俺は構いませんよ」
メロー「飲みますぅ!こんな純粋な子に凶器を飲ませたくないですぅ!」
アリオ(ポーションが凶器と言われるとは……)
ここまで読んでいただきありがとうございました。
面白いと感じたらいいねしてくれると嬉しいです!
感想等も受け付けております。




