先生とお話ししましょう
暑い日が続くので気を付けましょうね。
「ようは塔を覆う蔦は回路のようなもので、特定の場所に魔力を流せば扉が出てくるってことか」
「概ねそうですね。場所は毎回変わるので、流す場所を覚えればいいというわけでもないんですよ」
この塔のセキュリティを作ったのはメロー先生らしく、塔に出入りする人間は彼女に鍛えてもらって魔力の感知を出来るようにしているんだとか。
因みに外部の人が来る時には、あらかじめそのセキュリティを解除しておくらしい。
「でもスーリアはなんで分かったの?」
「えっと…一箇所だけ不自然に光が途絶えていたので、試しにそこに魔力を流したら開きました」
「失礼ですがスーリアさん…貴女は盲目だとお聞きしたのですが」
ミューロ先生にはスーリアの目のことは話してある。
本人に了承を得て、祝福のことは伏せて話したから、恐らく盲目と祝福は結びついていない。
「完全に何も見えていないというわけではないので…」
「先生、スーリアのことは内緒でお願いします。というかもし俺達のやる事の中で、他の人が出来ないことがあったら教えてもらえますか?」
「なるほど…賢明な判断ですね」
そう。ミューロ先生達に会いたかった理由の一つはこれである。
俺達に足りないものは、ズバリ周りとの認識の擦り合わせ。
俺達は世間に疎すぎる。
俺は領地に引きこもってた世間知らず。
スーリアは森で暮らしてたから情報に疎い。
ユキトは他の国出身だからシグマ王国に疎い。
情報に疎い三銃士の出来上がりである。
俺達の中で価値観や認識が合っていても、周りと違っていたら疑われるもとになりかねない。
集団から敵認定されたら旅どころじゃなくなるし、スキルとか今この世界の情勢の擦り合わせをしておいた方がいいと思ったのだ。
「じゃあまずスーリアさんの魔力が見えたというのは、この塔の外では控えましょう」
「は、はい」
「あとはアリオくん、旅に出る前に魔物…ワイルドベアを討伐したと君のお父上からお聞きしましたが、それも公表はしない事をおすすめします」
「俺達がアイアンランクだからですか?」
「それもありますが、行動の幅が狭くなる可能性があるからです」
「行動の幅?」
首を傾げた俺に対して、ミューロ先生は真剣な表情で頷く。
「強い魔物を狩れるということは、ランクに関係なく重宝されます。そうなればギルドからは魔物討伐の依頼が多く流れてきますし、強い者を王家も放っておくことはしないでしょう」
「間違いなく囲われます」とニッコリ笑ったミューロ先生に、俺は嫌な汗をかく。
せっかく王家とかいう面倒ごとから逃げたのに、また目をつけられたらたまったもんじゃない。
これはなんとしても避けねばならない。
「それに、今メローは近くの村の復興に出ているのですが、この頃魔物の群れ…つまりはスタンピードの報告が上がっています。これから増えるとも予想されるので、引く手数多になるでしょう」
「え、ちょっと待って。じゃあ街でやたらと食べ物をくれたのって…」
「恐らくは子供が三人、その村から逃げてきたと思ったのでしょう。大道芸人等も、子供達に安心感をもたらす為に雇われた人材です」
なるほど。じゃあギルドに冒険者が多かったのも、近隣の村でスタンピードが起こったから、その報告やらなんやらってとこかな。
「あれ?じゃあミューロ先生の用事って?」
「スタンピードの魔物討伐報告に、うちで作成した痛み止めやポーションの納品ですね」
「んん?ミューロ先生も討伐に行ったの……?」
「えぇ勿論。久しぶりの戦闘とはいえ、流石に鈍っていました…おかげで鍛え直しですよ」
ミューロ先生が左手の手袋を取ると、真新しい包帯が巻いてあるのが目に入る。
まだ傷が塞がっていないのか、包帯には血が滲んでいる。
「先生それ…」
「お気になさらず。軽い方ですよ。村はともかく、冒険者から死者が出なかったのは運が良かった」
「あの、スタンピードが増えていると言っていましたが、俺達が王都に来る途中で狼型の魔物に遭遇したのもなにか関係があるんでしょうか」
ユキトの質問に、ミューロ先生は考えるように顎に手をやる。
「スタンピードから逸れた魔物…或いはスタンピードになり得る魔物、その二つの可能性が挙げられますね。よければ頭数と遭遇した場所を教えていただけますか?」
「数は五頭。俺達が入ってきたのは…」
「確か南門でしたよね。関所からは半日ほど離れているように感じました」
「そうそう。あと、出会った五匹の中に一匹体が大きめな狼がいたよね。アイツがボス格だったのかな?」
俺達の話を真剣に聞いていたミューロ先生は、手袋を付け直すともう一度ギルドに行ってくると告げ席を立つ。
ただならぬ雰囲気に、俺もいそいそと席を立とうとするが、それはミューロ先生によって止められる。
「言ったでしょう?行動の幅が狭くなると。魔物出現の情報源は子供、それも五体のガロウルフから無事に逃れたということだけでも大事です」
「いやでも、それだと先生が周りから何か言われるんじゃ…」
俺の心配に反して、ミューロ先生は表情は明るい。
ミューロ先生は、俺達三人のことを優しく抱きしめると、ゆっくりと体を離す。
「貴方達が無事でよかった。面倒なことは大人に任せて、今は休みなさい」
最後に頭を撫でると、ミューロ先生は俺達に一つずつ鍵をくれた。
「階段を登ると客室になっていますので、自由に寛いでいてくださいね」
鍵をありがたく受け取ると、ミューロ先生は再びギルドへと行ってしまった。
そして俺達は、ミューロ先生の言う通り部屋で寛いでいたのだが、夕方、メロー先生の帰宅によってその平穏は一瞬で崩れた。
「きゃー!!アリオくんがいますぅー!!!」
「おわっ!メロー先生!?」
「アリオさんどうし…きゃっ!!」
「可愛い女の子!!貴女がスーリアちゃんですねぇ!?きゃー!やっと会えましたぁ〜!」
「二人ともうわっ!?」
「なんですかなんですか〜!?!可愛い子しかいないですぅ!!」
三人まとめてふわふわに抱き締められる。
塔の扉が開いた音が聞こえて部屋から出てみたらメロー先生がいた。
そして一瞬でこの有様である。
久しぶり男のロマン。
こんにちは魅惑の柔らかさ。
メロー先生はテンション爆上がりなのか、俺達のことをぎゅうぎゅうと抱き締める。
俺としてはこれでまたロマン死しないか心配なのだが、その心配は杞憂で終わる。
「メロー?」
「ぴっ!お、お兄様…」
笑顔で般若を従えたミューロ先生の姿が見えたからだ。
メロー先生はサッと俺達から離れると、何事もなかったように衣服を正す。
が、それでミューロ先生の般若がいなくなるわけでもなく、冷ややかな視線を向けると、指を下の階——彼らが研究室として使用している——に向けた。
「報告書、追加していいんですよ?」
「深く反省しておりますぅ…!!!」
「ならよろしい。子供が好きなのはいいですが、節度は守るように」
ミューロ先生の圧と、報告書の追加という所で前世を思い出して胃が痛くなるが、それを振り切るように固まったままの二人へと視線を移す。
ユキトは真っ赤になった顔を手で必死に隠しているが、耳まで赤くなっていてあまり意味がない。照れていることがバレバレだ。
スーリアはというと、何故か自分の胸に手を当てて真剣な表情で考え込んでいる。
大丈夫かと聞いてみれば、「頑張りますね」という素っ頓狂な返事が返ってきた。
何を頑張るのか分からないが、とりあえず頷いておいた。
「あうぅ…せっかくの癒しが……」
しくしくと悲しみに暮れるメロー先生をよそに、ミューロ先生は「ご飯にでも行きましょうか」と爽やかな笑顔見せた。
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