閑話・お節介のその後
「爆炎」
アリオ達が去ったあと、残りの魔物と戦っていた兵士達は、突然頭上から降ってきた火球に慌てて距離を取った。
複数の炎の球は紅く揺らめき、兵士達を追っていた魔物を包むと轟音を立てて弾け、一匹残らず焼いていく。
助かったとはいえ、近くでその炎を見た兵士達の中には腰を抜かす者もいた。
「お、オイ!終わったのか!?もう魔物はいないよな?!」
「はい。たった今行動を停止しました」
火球の主は、自らのスキルと同じように空から舞い降りた。
黒のロングコートを纏い、フードですっぽりと姿を隠したその人は、見た目では男とも女とも区別がつかない。
その黒服は周囲を確認すると、傷一つない馬車の扉を開けた。
「おぉ!本当に魔物が死んでいる!お前の魔法は素晴らしいな!」
「…ご無事で何よりですアーフォン王子」
アーフォン王子と呼ばれた少年は、得意げに笑うと、自分が乗っていた馬車をチラリと見た。
「はっはっは!お前が施した術には魔物も敵わぬようだな!ぶつかり転ぶ様はなかなか良い余興だったぞ!」
「お喜びいただけたようで光栄です」
命懸けで魔物と対峙していた兵士達は、怯えていたくせに何を言うかと眉間に皺を寄せたが、当のアーフォンは気付いていない。
兵士に労いの言葉をかけるわけでもなく、傷を負った兵士達を見てフンッと鼻を鳴らした。
「モルガは一撃で葬ったというのに、お前らの怠慢には呆れるわ」
「…まだ周囲に魔物がいるかもしれません。応援が来るまで念の為、馬車で待機をお願い致します」
モルガと呼ばれた黒服は、遮るようにそう言うと恭しく礼をする。
アーフォンもモルガの言葉に素直に頷くと、再び馬車の中で寛ぎ始めた。
兵士達はと言うと、威張ってばかりの第一王子を黙らせたことへの感謝もありつつ、実力で負けていることへの妬みの視線をモルガへと向けた。
しかしモルガはそんな兵士達のことなど既に眼中にない。
スタスタと兵士達の前を通り過ぎ、魔物の死体へと歩み寄る。
それはモルガが燃やしたものではなく、不自然に穴の空いた死体だった。
「…コレは誰が?」
「馬に乗った三人組です。顔は見えませんでしたが子供のように見えました」
兵士達の報告を聞きながら、モルガは二つの死体をまじまじと見る。
一つは腹のあたりに穴があり、離れたところにあるもう一つは頭がなかった。
二つとも、そこだけくり抜かれたように何も残っていない。
(馬車を無視したことで賊の線はない。でも子供にしては死体が綺麗すぎる)
何より訓練された兵士達ですら手一杯になる魔物を、三人組とはいえ子供が二体も仕留めることが信じられなかった。
また、モルガの知る限り、この二つの死体の断面に一致する魔法は存在しない。
(陛下に報告…第一王子の耳には入らぬよう気を付けないと)
以前港街を仕切るシーディア家の次男坊が前例のない祝福を授かるという預言を、王家お抱えの預言者が報告した。
すると、それを耳に挟んだあの第一王子は、碌な連絡を入れることもなくシーディア伯爵の屋敷へと馬車を走らせた。
そして、お目当ての次男坊がいないと知ると、子供のように駄々を捏ねてシーディア伯爵を呆れさせた。
その他にも、代わりに長男であるカリス・シーディアを連れて行くなどとめちゃくちゃな物言いや、王族にあるまじき振る舞いを多々した為、シーディア伯爵と学友であった王は裏で伯爵に謝罪をした。
モルガは自分の主に内心大きな溜め息を吐くと、頭のない死体のある方向へと視線を向ける。
(見たことない魔法を扱う怪しげな三人組…か…)
もはやモルガの頭の中には好奇心の文字しか存在しない。
多種多様の魔法を扱える“賢者”。
それがモルガの持つ祝福だった。
祝福故に若くして王家に身を置くことを強いられたモルガにとって、忠誠心よりも大きいものは魔法への探究心だった。
(絶対に見つけてみせる)
自分の知らない魔法。
それを持つ謎の三人組を。
かくしてアリオのやったお節介は、本人の知らぬ所で一番関わりたくない王家へと繋がりを設けることになる。
そして、意気込むモルガや、報告を受けた王達は魔物を倒した人物を探し始めるのだが、それがあの前例のない祝福を受けたシーディア家の息子であると知るのはまだ先のことである。
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