俺と馬車とお節介
「うーむ…まだまだ先は長いかな…?」
ユキトの提案のもと、ダミーとして馬に軽めの荷物を持たせて草原を歩く俺達の手には、早朝に届いた地図が一枚握られている。
この地図をくれたのはほかでもない俺の兄であるカリスからだ。
朝食を摂りながら話していると、突然俺達の目の前に亜麻色の羽に青い目を持つ鳥が降り立った。
この鳥は、事前に見せてもらった手紙鳥というやつだった。
そういえば手紙を出してくれると言っていたなと思っていると、手紙鳥という鳥は俺の手に収まるとその姿を一通の封筒へと変えた。
封筒には綺麗な文字で兄の名前が書いてあり、中には手紙と地図が入っていた。
手紙には俺とスーリアのことを心配する旨と、預言者としての助言が書いてあった。
そしてそれは旅の行き先を示すもので、ちょうどそのことを話していた俺達は顔を見合わせた。
「でも、アリオさんのお兄さんが言っていた『助けなくてもいい馬車』ってなんなのでしょうか?」
「俺も気になってたんだけど、兄さんにしては珍しいというか…」
俺達が言っているのは手紙の末尾に書かれていたもののことだ。
それは、『道中魔物に襲われている馬車があったら無視していい』ということ。
その最後には『後々助かるし、絶対面倒なことになるから』と、いつも優しい兄らしからぬ変な助言だった。
「馬車に乗っているのが悪者とかですかね…?」
「馬車は大体が貴族が乗っているものですから、その方にあらぬ疑いをかけられる可能性があるということですか」
「うわっ、それは嫌だな…」
三人で兄の言う面倒ことを考えながら歩いていると、その時は来てしまった。
「…襲われてるね」
「襲われてますね…」
「応戦はしてますが、なかなか手こずっているようですね」
遠目に見ている限り、一台の豪華絢爛な馬車の周りには狼型の魔物が五体いて、兵士と思われる人達が必死に応戦している。
その抵抗も虚しく、五体代わりばんこに兵士と馬車に攻撃を仕掛けている。
魔物が体当たりをするたびに、馬車の中からは「ぎゃー!!!」という叫び声が聞こえた。
馬は残念ながらやられてしまっているが、馬車には目立った傷はついていないように見える。
あの馬車頑丈だなぁ…
「本当に放っておいて大丈夫なんですかね?」
「ちょっと心配になってきますね」
「兄さんの預言に間違いはないと思うんだけど…」
俺とスーリアが戦った猪型の魔物とは大きさが天と地程あるけど、数は五体で俊敏さがある。
何より一匹が足を狙い、もう一匹がその隙を突いて体制を崩すという、なんともいやらしい戦い方をしている。
何より魔物である為に獰猛さは段違いだ。
「うーーーーー…だー!もうしょうがない!!」
テキパキと俺を真ん中にして三人で馬に乗る。
ストレージから取り出した上着を着て、フードを被れば怪しい三人組の完成だ。
俺は善人じゃないけど悪人でもない。だからやるのはちょっと頭数を減らすだけ。
それならあの兵士達もなんとかなりそうだし、走り去ってしまえば言いがかりもつけられない。
「上手くいかないかもしれないし、ないとは思うけど俺が死んだりしたらよろしく!」
「後ろからしっかり支えますね!」
「ありがとうスーリア、ユキトは全速力でお願い!」
「分かりました。君もよろしくお願いしますね」
ユキトが頭を撫でると、馬は気持ち良さそうに目を細める。
お互いしっかり密着すると、ユキトは馬車の方へ馬を走らせた。
近付く蹄の音に、すぐさま兵士達はこちらを認識して警戒心をあらわにする。
その必死な眼光に一瞬怯むが、俺達は通過するだけの一般人である。
気にせずに息を吸い込むと、目に前に手を伸ばす。
狙いは勿論魔物。
「こほんっ…危険なものは仕舞っちゃおうね☆」
身元を少しでも分からせないようにしたいから、声は裏声でとびっきり高くしてやる。
たとえ前から吹き出す声と、後ろから笑いを堪える震えが伝わってきたとしても気にしないのだ。
「多重詠唱、発動」
大喰らいを発動するタイミングで多重詠唱を発動する。
すると、一撃目を避けた魔物がその一歩先で体が弾け飛んだ。
「ひぇ……」
これには俺も流石に驚いて間抜けな声を出す。
が、すぐにもう一匹狙いを定めて同じように大喰らいと多重詠唱を組み合わせる。
一匹やられたことで、残りの四体はすっかり俺達のことを敵と見做したのか、鋭い牙を剥き出しにして威嚇してくる。
三体は警戒しながらも馬車を襲うが、一際大きい体をした魔物は、すごいスピードでこちらに向かってくる。
あっという間に距離は縮み、魔物は赤い目を爛々と光らせる。
跳躍し、食い付かんとばかりに大きく口を開けたソイツに、俺は手を向ける。
スーリアと戦った猪型の魔物よりも単純で助かった。
この距離ならば多重詠唱がなくても当たる。
「食い尽くせ」
狼の頭が一瞬で弾ける。
飛んできた血液から逃げるように、ユキトは馬の速度を上げる。
遠くなっていく兵士の声。
流石に二体いなくなれば生存確率が上がるだろうと、俺は前を向いて息を吐いた。
「はぁ〜〜…緊張したぁ……」
「お疲れ様ですアリオさん!」
「もう少し離れてから休憩しましょうね」
「そうだね。いやー…このスキル強いけどお蔵入りにした方が良さそうだな…」
魔物の頭を頭を吹っ飛ばせると思わなかった。
正直ストレージの派生だし、直径一メートルだと舐めてかかってました。
まさかあんな感じのスキルだったとは恐るべし。
吹き飛ぶと言うか弾けると言うか、内から消滅みたいな感じだったけど、目撃していた兵士からはもれなく悲鳴が上がっていた。
俺も思わず悲鳴が出ちゃったし、なんともR指定の付きそうなスキルである。
これは人前で使うにはヤバいスキルだったかもしれないなと反省するが、ユキトはオーバーキルの達人だし、スーリアはさっきみたいな突撃に弱そうだし、俺は戦闘スキルを使うと死ぬからしょうがない。
MP ゼロで使えるのだと大喰らいしか使えそうなものがなかった。
「あー…やめやめ。面倒なことはあとで考えよ」
他のスキルでやりくりすれば良かったのかなとも思いつつ、その先のリスクを考えて首を振る。
今はとりあえず兄の示した王都を目指して行くしかない。
「そういえば、ミューロ先生とメロー先生達がいるのか…」
王都で思い出したのはカリスの二人の先生。
王都に来た時には寄ってくれと言っていたし、次の行き先の候補も聞けそうだ。
ほくほくと予定を組み立てていた俺は知らなかった。
このちょっとのお節介が、兄の見た予言を大きく変えていることを…
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