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最後の最後でやっぱりしまらない

(良かった〜!足もった〜〜っ!)


 少し反動はあったものの、ダメージとして換算されることがなかったので一安心した俺は、スーリアに向かって腕を広げる。

これからスーリアを受け止めなくちゃいけないから、まだまだ油断は禁物だ。

スーリアに向かって呼びかけると、覚悟を決めていたのか「えいっ」と声をあげて窓から飛び出した。

それをなんとか受け止めると、二人してホッと胸を撫で下ろした。

ステータス最弱と盲目の少女にとっては、今の行動だけでも命懸けである。


「ユキトさんは街の近くで野営している筈ですよね」

「そうだね。ユキトもそう言ってたし、追いかけられていない限り場所は変わってないと思う」


 窓から心配そうに覗く店主に手を振りつつ、俺達はまた慎重に屋根から降りると、ユキトの野営場所を目指して走り出す。

昨日は屋台で賑わっていた街もなんだか人の数が少なくなっている。それに俺達のことをチラチラと見る人もいて、なんだか見張られているような感じがしてゾワゾワする。


「っ!アリオさん道を変えましょう!」

「!…分かった!」


 遠くにいる人混みを見てスーリアが焦ったようにそう言った。

恐らく店主の言ってた“馬鹿ども”に入る奴らがいたのだろう。

俺は急いで方向転換すると、迂回する形でそこを避ける。

遠回りにはなってしまうが、俺達がここで足止めをくらっては元も子もない。

急がば回れとは本当に大切なことである。それに、目の前に落とし穴があると分かっていて、わざわざ嵌りに行くのはね。


「やばっ…!」

「アリオさむぐっ!」


 咄嗟にスーリアの口を塞いで物陰に隠れる。

俺が目にしたのはユキトを囲む大人達で、武器を持ち、詰め寄るその様子は和やかとは程遠い。ユキトの表情も険しく、刀に手を掛けながらもジリジリと後退している。

恐らく…というか絶対に戦えばユキトの方が強いだろう。でも俺達はまだ子供だ。人を殺したことなんてない。

それにユキトの祝福では、抵抗どころかオーバーキルだ。

ギルドでは問題は客観的に見てどちらに非があるかという、第三者の意見も重要視される。

街全体がグルならば、それこそユキトを嵌るのなんて容易い。

きっとユキトもそれを分かっているから手を出せないでいる。そしてこの街の人も、それを分かっているからこそこんな襲撃を考えたのだろう。

ここですぐに飛び込めたらすっごく格好良かったんだけど、生憎俺はそんな格好良い大人ではない。むしろ荒んでいる。だからやるのは奇襲返しだ。


「ユキトが囲まれて追い込まれてる。連れてそのまま逃げるには奇襲を仕掛けるのが一番いいと思う」

「そうですね…でも追いかけられては私達の足では逃げるのは難しい気もします」

「そこだよねぇ…」


 作戦は考えているけど、問題なのは逃走手段だ。

全速力と言っても子供の足ではたかが知れている。

スーリアは色が分かれば走れるから問題ない。でも一番の問題は何を隠そう俺である。

体力もねぇ!力もねぇ!ついでにデバフがもーりもり!

…いや歌っている場合じゃない。本当に無能なステータスだからどうにかしないと。

死ぬのには向いてるけど、こういう時に本当に迷惑だ。

 そういう風に思っていると、ふと雑貨屋の前に止まったままの馬車が目に入る。

二頭の馬はこんな騒動が起きていてもどこ吹く風で、大人しく馬車の主人を待っている。

そこで俺に衝撃が走った。

すぐに馬に近付くと、手早く馬車の装備を外していく。その間チラッと馬の様子を伺うが、不機嫌になる様子はなく、むしろ俺が体に触れると嬉しそうに擦り寄ってくる。


「ビンゴ!」


 小さくそう言えば、近くで見ていたスーリアは不思議そうに首を傾げている。

呪いが機能しているからもしかしてと思ってけど、ちゃんと【転生者】という称号も機能しているらしい。

動物に好かれやすいみたいなこと書いてあったし、この際だから利用させてもらうとしよう。

テキパキと一頭を拝借すると、スーリアの方へと戻る。

その間も馬は、ペロペロとご機嫌に俺の頬を舐めている。

いや懐きすぎだろ。俺が言うのもなんだけど、君今誘拐されてるからね。


「スーリア馬乗れる?」

「乗ったことがないので分からないです…」

「そっか。じゃあ後ろから俺が支えるから」


 スーリアを前側に乗せ、俺は彼女を支えるように後ろに乗る。

よし、馬が大きいし子供の体だからあと一人はギリ乗れる。

あとは奇襲を仕掛けるだけだけど…


「前方に人だかりがあるだろうから、そこ目掛けて上から大きめのウォーターボールをお願い」

「任せてください!」

「ありがとう。それで氷魔法が使えたらそれを。ダメだったら風魔法を」

「分かりました。では…いきます!!」


 スーリアが手を前に出すと、ユキトを囲む人だかりの頭上に大きな水の球が浮かび上がる。ゆらゆらと浮かぶそれによって、異変に気付いたユキトと目が合う。

驚きを隠せていない彼に頷くと、俺はスーリアに合図を出す。


「行くよスーリア!」

「はい!」


 水の球を落とすと共に馬を走らせる。

乗馬なんてそんなにしたことないけど、称号のお陰か馬は素直に走り出す。

俺は手綱を持ちながらしっかりとスーリアを支えると、彼女はびしょ濡れのまま慌てふためく人だかりに再び手を向ける。


「凍りつけ!」

「なんだこりゃ?!クソッ足が動かねぇ!!」


 ある者は腕を、またある者は足が突然凍りついたことに動揺し、そしてその元凶を探そうと躍起になっている。


「ユキト!」


 そうして視線が俺達に集まった時、俺は未だ驚いたままのユキトの腕を掴んで力一杯引き上げた。


「うおぉりゃーーっ!!!!」


 スーリアと二人でなんとか馬に乗せると、俺は肩で息をする。

馬は衝撃と一人分増えた重さにも負けずに走り続けてくれている。

良かった〜〜〜〜腕もったよ俺〜〜!!

よくやった俺の貧弱な体!そしてありがとうスーリア!馬ちゃん!

内心褒めの嵐の中、呆然としていたユキトがぽつりと溢す。


「二人ともなんでここに…」

「なんでって言われても…ねぇ?」

「そうですね…なんでと言われても困ってしまいますね」


 スーリアと二人でそう言う。

ユキトが悪い人間じゃないことを俺達は知っている。

単純と言われればその通りだが、一緒にパーティーを組んでみてそう思った。

仮に悪い奴だったとしても、俺達のことなんか簡単に倒せているしね。

別に損得勘定で動いていたわけでもないけど、ここの街の人とユキト、どちらの味方につくかと言われたら俺達はユキトにつく。

目の前で同じくらい悩んでいる人が罠に嵌められるのなんて見たくないしね。


「逃すかこのクソガキがぁっ!!」


 ユキトにかける次の言葉を考えていた時、苛立ちを微塵も隠す気のない怒鳴り声が響く。

一番後ろに乗っていた俺が振り返れば、運良く氷漬けを免れた男がこちらに向かって何かを勢いよく投げた所だった。

目を凝らして見てみれば、大ぶりの斧が大きく弧を描いて飛んでくる。


「はあぁぁぁー!?!」


 子供相手に斧を投げることあります?!?

まじでありえないなここの街!!当たったら死ぬんだぞ!?

俺がやってたオンラインゲームでもたまにいたけど、人の命をなんだと思っているんだろうね。

ゲームだろうが現実だろうが、自分がやられたら嫌なことはやるなよマジで!!

そんな風にギャーギャーと頭の中で騒ぎつつ、俺はなんとかしなければと考える。

俺が庇ってしまうのが一番手っ取り早いけど、死んだ時に馬がどうなるか分からない。


(あ、そうじゃん。俺が出来ることあるわ)


 二人のことを支えながら、かつ無傷で出来ること。

瞬間的に冷静になった頭は一つのスキルを導きだす。


「物騒なものは仕舞っちゃおうね☆」


 俺は対象を目前に迫った斧に設定すると、有能ストレージくんを発動する。

目論見通り斧は綺麗にストレージの中へと収納されて目の前から消えた。

後ろからは斧が消えたことによるざわめきが聞こえるが、そんなに当たると思っていたのかな?いやあのままだったら間違いなく当たっていたけどさ…

もしかしてそんなスキルや祝福みたいなのがあったりするんだろうか。

でも残念!俺のストレージくんの方が有能でしたー!!!!

 流石に追ってくる気は無くなったのか、今度こそ俺達はカヌゥから走り去る。

やっと変な緊張感がなくなって、ドッと眠気が出てくる。

そういえばそろそろ零時を回る頃だろうか。

もう少しだけ馬を走らせたら仮眠を取るのもいいかもしれない。

そうして油断していた俺目掛けて、馬が蹴り飛ばした小石が迫る。


▶︎『忘れた頃の不幸』を発動します。


あ、やべ…完全に忘れてた。


 アナウンスと共に綺麗に顔面にヒットする小石。

衝撃と痛みによって傾いた体。

アナウンスは着々とダメージ計算をしていて、意識はどんどんなくなっていく。


「えっアリオさん!!」

「アリオくん?!」


 二人分の焦ったような声が聞こえ、腕が掴まれる。

きっとすぐ前にいたユキトだろうなと感謝しつつ、意識の失う寸前にぼんやりと思った。


…いやお前、不幸ってタンスの角だけじゃなかったんかい……と。

アリオ「俺もカッコよく活躍したい」

作者「したじゃないっすか」

アリオ「なろうみたいなシリアスしたい」

作者「したじゃないっすか」

アリオ「オチ!!!」

作者「諦めろ!!!」


ここまで読んでいただきありがとうございました。

面白いと感じたらいいねしてくれると嬉しいです!

感想等も受け付けております。

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