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家族は良い人達ばかりです

 次男坊の心の叫びが響き渡ったことで、庭の木にとまっていた小鳥達が一斉に飛び立つ。きっと年相応のアリオ・シーディアだったら、小鳥を可愛がり、飛び立ったことに驚き、そして申し訳ない気持ちになっただろう。

だが中身は俺だ。正式には、俺が俺だということを思い出してしまったアリオである。

ここで心配になった人に説明しよう。きっと心優しいみんなは思うだろう。

『あれ?お前他者に迷惑になる死に方アウトって言ってなかったっけw?』と。

これは思った。正直俺もそう思った。これ、アリオの人格とかってどうなんの?って。

でも安心してください。その心配はなかった!

中には元の人格を押し退けて、その人に成り代わってしまったとか。中の人が招いた、あるいは他者が呼んだ魂が器に入ったみたいな転生もある。でも俺は違った。

 どちらかというと、アリオであった俺が、前世冴えない会社員だった俺を思い出してしまったという感じだ。そのせいで泣いたのだ。


(なんで死ねてないんだよぉぉぉっ!!!)


と大号泣。まぁ、ようは『なんか忘れてることあるなー』みたいに思っていたら、『仕事行かないと!』って感じで思い出したのだ。絶望。最後まで社畜脳だよ。

世界思い出さなくてよかったものベスト10に余裕でランクインする。


とまあ、こんな感じで一つ心配事は無くなったのだが、問題は今世の家族だ。

何が問題かはこれからお見せしよう。

コンコンコンと三回軽くノックをし、父の返事を待っていると、目の前の重厚な木の扉は、返事と共に開いた。


「遅れて申し訳ありません!」

「問題ない。お前はこの前体調を崩したばかりだからな、無理するな」


ぽんぽんと労わるように、父の大きな手が俺の頭を撫でる。誕生日での俺の大号泣は、体調不良ということになっている。責めることもせず、自分の仕事までやりくりしながら、超絶元気な俺の元にお見舞いに来たことは記憶に新しい。

そして俺はこう思ったのだ。


罪悪感…すげぇな…


ウン。ね。人並みに良心は持っているのでね。


めっっっっっっっちゃ心が痛い!!!

良い兄貴がいるだけでもヤバいのに、父親まで良い人とかどういうことなの!!!

ちなみに母親はめっちゃ美人。所謂美魔女で、背が高くてオールバックでばっちり決めてる父親と並ぶと破壊力が凄い。ゆるふわ美魔女と、ぶっきらぼうに見えて優しい父親。

ヤバい。

語彙力がまたサヨナラする前に、父親から話を聞かなければ。


「父上、お話ってなんですか?」

「うむ…アリオ、お前ももう十歳の誕生日を迎えた。つまりは女神様からの祝福を受けられる歳になったということだ」

「女神様からの…」


“祝福”

それは、この世界における個人に与えられる特殊スキルのようなものだ。祝福は十歳を迎えた子供が受けられるものであり、教会で祈ることで初めて分かる。


「体調もだいぶ良くなったようだしな、明日の朝教会へ向かうぞ」

「はい!」


 これには流石に前世の血が疼く。長く生きるつもりはないものの、祝福によっては家族への恩返しがしやすくなる。なんなら祝福で魔物を倒したりして貢献すれば、父親達の立場がもっと高くなったりするかもしれない。もしくは前世の知識と合わせて、もっと生活を便利なものにすれば、快適な終活が出来るかもしれない。


 ウキウキと父親の執務室を出ると、話の内容を予想して待っていたのか、カリスと廊下で鉢合わせた。


「よかったなアリオ。勤勉なお前のことだ、きっと良い祝福を受けるよ」

「ありがとう兄さん!そういえば兄さんの祝福はどんなものなんですか?」


前世を思い出す前に読んだ本では、祝福は多種多様だ。剣士という祝福を受けたものは、並の人よりも上手く剣が扱える為、衛兵などになることが多い。魔術師ならば、もちろん魔法が他者よりも多く扱え、ゲームで言うところのM Pも多い。

 ただ、複雑なのはここからで、先ほど説明した“剣士”や“魔術師”は大きな括りにすぎない。剣士の中にもいくつかあり、上位互換は“剣豪”などになる。中には変わり種で、“ギャンブラー”や、‘“預言者“なんてものもある。

 その中でも国を揺るがすものになる祝福が“勇者”だ。出現する時期も、それを持つ子供も全く予想がつかない。なぜなら、“預言者“の祝福を持つ者の目を掻い潜るからだ。


 兄は少し悩んでから口元に人差し指を添えると、「他の人には内緒な」と笑う。赤べこのように頷き、素早く距離を詰めると、兄は悪巧みをする時のように耳元で喋り始める。


「実はな…預言者だったんだ」

「え!?」

「アリオ声でかいぞ」

「ご、ごめんなさい…」


 “勇者”は国の話題のもと筆頭だが、“預言者”もそれに並ぶくらいの大物である。兄の様子を見るに、どうやら信頼している筋にしか話していないらしい。それもその筈だ。祝福が何かは基本自己申告制であり、本人以外に知っているのは教会だ。もしくは、鑑定という魔法によって判別が可能になる。ちなみに貴族の多くは、当然のように親は子の祝福を把握している。

 基本的には職を持つ時には祝福が軸になるので、教会からの証明書や、その職場にいる“鑑定士”の祝福持ちや、稀にいる鑑定魔法持ちに鑑定してもらって許可を受ける。


「じゃあ…兄さんは王家に仕えるのですか?」


“預言者”は王家や家格の上の者がこぞって手元に置きたがる人材だ。人によって預言、もとより予知の出来る範囲は変わるが、商いや戦など活躍の幅は広い。


「いや、まだ考えてはないよ。まず祝福を上手く使いこなせていないしね」


「二年間も上手く扱えてないと自信なくすよ」とカリスは苦笑いする。祝福によって、自らが磨ける魔法の幅はかなり変わる。それに、中には扱いが難しいものもあり、祝福を使わずに過ごしている人も少なくはない。

そういえば兄は、二年前から剣の稽古に加えて、魔法の練習をしていたなと思い出す。どうやら魔法方面のスキルに伸びしろが出来たのだろう。

明日貰う祝福がどんなものになるのかは分からないが、欲を言うなら使い勝手がいいものが望ましい。


「アリオがどんな祝福を受けるのか楽しみだな」

「教えてもらった代わりに、俺も一番に兄さんに知らせますね!」

「それは楽しみだな!俺も今からドキドキだよ」


 嬉しそうに頭を撫でてくる兄に、俺もつられて笑顔になる。

そうして暫く談笑した後、俺は部屋に戻って何を持って行くわけでもないが明日の準備を整える。


明日は俺の終活を左右する大切な日。そう、記憶を思い出してから久しぶりに胸が高鳴るのを感じながら、その日俺はいつもより早くベッドに潜った。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

面白いと感じたらいいねしてくれると嬉しいです!

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