祝福と努力
「美味しいです…!アリオさん凄い!」
「シンプルに焼いただけだよ。これは鮮度がいいからこんなに美味しくなってるわけで…」
「臭みもなくて食べやすい…ああ、コメが恋しくなってきます」
もぐもぐと、どこに入っているんだろうと謎になるくらいよく食べているユキトはポツリとそう溢す。
俺が作ったのは猪肉のハーブ焼き。
肉はよく食べるものの、やっぱり食のレベルは前世のものより下らしく、腐っても中身が日本人だった為なのか俺が俺だと自覚する前から食にはうるさかったらしい。
そして手始めに我が家が栽培したのがハーブ。まさかのこの世界、ハーブは医薬品でした。
だからかはじめは家族は何事かと俺の奇行を見守っていた。
そしていざハーブを使った肉料理を提供した所、これが家で大ヒット。
今では料理長が喜んで使っているそれを、俺は家を出る時に持って来たのだ。
「コメってもしかして、炊くと少し弾力があって噛むと甘みが出たりする?」
「それですそれです!王国の方ではあまり馴染みがないものなので、貿易はしていないものなんですよ」
「確かにこっちじゃ見ないな…えー俺もコメ食べたいな…」
日本食恋しい。その中でも米がとにかく恋しい。
これは桜華国に行くしかないかもしれないな。でも今は情報が少なすぎるから、やっぱりユキトに聞くしかない。
「俺が桜華国を案内しますよって言いたい所なんですけど…俺は家族から暫く国に戻ってくるなと言われているんですよね」
「何それなんかあったの!?」
「何かあったというか…それもこの旅の理由の一つというか…」
「祝福関係ということですか?」
「その通りです…」
しょぼんと肩を落としたユキトに、俺は改めてユキトの祝福の内容を思い返す。
最強と呼べるに相応しい祝福を持つユキト。ユキトの家族は一体どんな考えで国に戻ってくるなと言ったのだろうか。
「その…お二人は今日一緒に行動して、俺にどういった印象を受けましたか…?」
「どうって?」
「振る舞いや戦い方です。と言っても最初の時点で良い印象はないと思いますが…」
気まずそうに目を伏せるユキトはいつになく自信なさげだ。さっきまで猪と狼相手に無双していたとは思えない。
俺は少し考えると、指を折りながら思い浮かんだことを言い始める。
「優しい。気遣いができる。強い。でも戦い方が綺麗。食いしん坊。仕事が丁寧…あとは……」
「え」
「ユキトさんは索敵が得意ですよね。先に道を通りやすくしてくれたり、安全を確認してくれるところも優しいなって思います」
「確かに!ユキトのおかげでちょっとした怪我のリスクもなくなったよね」
「えっと……」
自分で印象を聞いておきながら、なぜか信じられないものを見たというような顔をしていて、ぱちぱちと目を瞬かせている。
その間にも俺とスーリアは、二人できゃっきゃとユキトの話題で盛り上がる。
「最初はビックリしたけど、初めての旅先で同志に会えたってのは大きいよね!」
「私は戦闘に慣れていませんし心強いですね!」
「俺自爆特攻しか出来ないから、魔法や近接が出来るのって憧れるなー」
「アリオさんは自分を犠牲にしないでくださいよ!」
「いやむしろ二人が戦いやすいように俺が囮になるのは有りか?」
「だから駄目ですって!ユキトさんからも何か言ってください!」
ぷんぷんと怒り出したスーリアがユキトの方を見る。しかし未だにユキトはポカンとしたままだ。
「ユキトどうかした?具合でも悪い?」
「いや、その…」
もごもごと口籠もり、ユキトはその視線を下げる。
「…狡いとか…怖いとか…そう言われると思ってました」
絞り出すように言ったそれに、今度は俺達がポカンと口を開く。
だがユキトは本当にそう言われると思っていたようで、チラチラとこちらの様子を伺っている。
「あのさユキト」
「…なんでしょう」
「俺からしたらユキトは頼みの綱なんだけど」
「え」
「アリオさんに同感です」
「えぇ…」
またも予想外と言わんばかりの声を上げたユキトに、「よかったら、なんでそう言われると思ったか聞かせて」と聞いてみると、少し躊躇った後にポツリポツリと語り出した。
「俺は桜華国だと、そこそこ有名な剣士の家の出なんです。小さい頃から刀を振るって、自分も父や祖父のような剣士になるのだと、そう思って努力をしてきました。周りも沢山応援してくれましたしね。でも…」
祝福を受けてそれは一変したのだと、ユキトは眉を下げる。
「祝福は俺には過ぎた力でした。周りからはそれはもう祝われましたれどね…それも一瞬のことでした」
「…なんでですか?」
「みんな気付いてしまったんです。それもそうですよね。齢十歳そこらの子供が、大人すら赤子と同じに扱える力を得てしまったんですから」
「あ…」
「色んなことを言われましたし、畏怖や好奇といった様々な視線も受けました。でも…」
「でも…」と、口を噤んだユキトは苦しげに顔を歪める。
その表情を見て、俺はなんとなく過去の自分を思い出した。
「…一番辛いのは、努力を否定された気持ちになったから…だよね」
勢いよく顔を上げたユキトに、俺の予想は確信に変わった。
ユキトの手は剣を持つ手だった。豆が出来ていて、握ると少し硬い。
他にも細かい傷があり、刀を見てもよく使い込まれた痕がある。
それは祝福を受ける前から続けていた、彼の努力の証だろう。
「っ…祝福のおかげで、確かに俺は強くなりました。でも…同時に否定された気持ちにもなりました」
自分の努力を。費やした時間を。
膝に置かれた手が強く握られる。きっと、ユキトの言われた色んなことにそれも入っていたんだと思う。
努力は目に見えないと前世のテレビでも言っていたように、人は簡単に他者の努力を否定出来る生き物だ。汗水流して集めたものも、寝る間を惜しんで作り上げたものも、簡単に奪うし否定する。
出自も違えば祝福も全く違う。でも、俺はどこかユキトのそれに親近感を覚えていた。
「よし!じゃあ代わりになるか分からないけど、俺が否定された分肯定するよ!」
「…え?」
「わ、私も!私も沢山ユキトさんの良いところを見つけます!」
「まあ出会って二日目の俺達が何言ってんだって話になっちゃうんだけど…」
「いえ!嬉しいです!俺なんかの為にありがとうございます…」
当たり前だが、まだ半信半疑のユキトの表情は少し暗い。
浅くはないであろう傷口を想像して、俺はやっぱりこの祝福というものは嫌いだなと思う。
この世界の人達にとって重要な物だというのは分かるけど、今ここにいる三人は少なくとも被害を被っているわけだし。なんなら口に出せないだけで、そういう人は案外多いかもしれない。
うーんと唸りながら考えていると、「あっ」と至極どうでもいいことを思い出す。
「アリオくん?」
「どうしたんですか?」
少し前まで難しい顔をしていたからか、二人は心配そうに俺を見る。
これは言わなかったら気にするやつだよなと思い、声を出してしまった自分を憎みながらも静かに挙手する。
「大した事じゃないよ?大した事じゃないんだけどね…俺明日何処かのタイミングで死ぬんで、その時はフォローお願いします……」
二人が呆然とこちらを見る。そして理解が追いついた数分後、俺は二人からすごい形相で詰め寄られることになるのだった。
アリオ「珍しく真面目な話してない?」
作者「そりゃあれですよ、君の話じゃないからですよ」
アリオ「解せぬ」
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