戦闘時間は一瞬です
Q.アリオ「なんで俺にこの強さをくれなかったんですか?」
A.とてつもなく人間に近い(つまり弱い)主人公にしたかったからです。
アリオ「解せぬ」
ちぎっては投げちぎっては投げというのを繰り返す。正確にはちぎってはいないのだが、圧倒的なその動きを見てみるとそんな風にしか見えなくなってくる。
あー…ちぎっては投げってこういうことなんだな。納得だよ。
「ユキトさん…凄い……」
「…俺達は巻き込まれないように注意しとこうか」
「そうですね!アリオさんも気をつけて下さいね」
心配してくれているスーリアにお礼を言いつつ、目の前で繰り広げられる光景に思わず空を仰ぐ。
ユキトは強かった。
それはもうまさに人間離れした動きと言っていいだろう。
薬草採りの後、俺達は猪を三頭見つけた。気付いたのは勿論ユキトで、俺達に隠れているように言うと、一人猪の前に躍り出た。
ちなみにこの世界、猪と言っても前世の物よりかなり大きい。軽くモンスター級の大きさがある為、時折ギルドに駆除依頼が来るのだ。
が、ユキトの前ではそれもただの赤子同然だった。
(まさか一振りで終わるとは思わなかった…)
そう、ユキトは一振りで終わらせた。居合のようなものだろうか、目にも止まらぬ速さで刀を抜き、鞘に収めた時にはもう三頭の猪は倒れていた。
「ふぅ…二人とも、終わりましたよ」
「おつかれユキト」
そして今は血の匂いに釣られてやって来た狼を倒し終わったところである。
「おわ…ユキト血塗れだぞ…!?川で洗ってきなよ」
「わ、そうですね。ついでに血抜きもしてきますね」
「じゃあ私は火を起こすので、衣服を干すのは任せて下さいね!」
近くの川でユキトの衣服を洗ってから、血抜きの方法を教えてもらう。
流石のユキトは手際がいい。教え方も分かりやすいし、一緒にいればいるほど頼りになる人だと思う。
「服を貸して頂いてありがとうございます」
「いやいいよ、俺だって今こうして教えてもらっているし」
少し丈は短いが、窮屈そうではない辺りユキトは割と細身なんだなと思う。
和装は勿論似合っていたけど、俺の服を着ていると俺よりも貴族っぽい。
謙虚で丁寧な言葉遣いもそれを助長しているのかもしれない。スーリアといいユキトといい、物腰が柔らかくて細やかな気遣いが出来る子が多いな俺の周り。俺も見習わないとな。
心の中で頷いていると、ユキトはこちらを見てから声を潜める。
「あの…どうしてお二人は旅に?俺と一緒の目的とは言っていましたが……」
聞いて良いものなのかと、段々その声は小さくなっていく。ようは俺達の祝福が気になっているのだろう。確かに聞きづらい話題だけど、俺はもうユキトの祝福を見ちゃっているし、ユキトの性格上言いふらしたりはしないと思い、その疑問に答えることにする。
「俺の祝福が俺的にゴミのようなものだったからだね!」
「ご、ゴミですか??」
「そう!」
良い笑顔でそう言えば、ユキトは分かりやすく戸惑い始める。
なので祝福のことを聞かれた時のために用意しておいた質問をしてみることにする。
「ユキトはさ、ある日突然死ななくなったらどうする?」
「死ななくなったらですか?」
「うん、何をしても死なない。というか何度死んでも生き返るってなったらどうする?」
ユキトは意味が分かったのか、急に黙り込む。俺達の間に沈黙が訪れ、水の流れる音や木々の揺れる音が鮮明に聞こえる。
恐らく数分も経っていないのだろうが、なんだかこの時間がえらく長く感じた。
「俺はまだ死ぬという恐怖が分かりません。死ぬような状況になったことがないですから」
「それは良いことだよね」
「はい。でも…戸惑うと思います。死なないということは、周りと時の動きが変わるということですから」
ユキトは真っ直ぐこちらを見る。黒い瞳はやっぱり前世の故郷を彷彿とさせて、良い思い出はないのに恋しくなってくる。
それぐらいユキトの瞳は穏やかなものだった。
「今の問い、きっとアリオくん自身のことなのでしょう?」
「分かった?」
「えぇ。ですが正直のところ詳細は分かりません」
「うん」
「なので、アリオくんの考えを聞いても良いですか?」
差し出された手。きっとこの手を取ったら、不死者の俺はまた時の流れを憎むことになるだろう。でも同時に、この祝福を消すための決心はさらに強固なものになる。
だから俺は迷わずその手を取った。
「勿論!俺もユキトのことをもっと知りたいしね」
スーリアのものとも、カリスのものとも違う、少年にしてはかたい手。その手の平には豆が出来ていて、彼の努力がうかがえた。
「アリオさーん!ユキトさーん!そろそろお昼にしませんかー?」
川から少し離れた所で火の番をしてくれていたスーリアがぶんぶんと手を振るのが見えて、顔を見合わせてから返事をする。
「今行くー!」
なるべく大きな声で返すと、ユキトと共に川から上がる。
スーリアに出してもらったウォーターボールを鍋に入れ、飲食用のものとして利用する。
さて、ここからはやっと俺の出番になりそうだと、俺は服の腕を捲った。
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