同志との出会いは突然に
今日珍しく包丁で指をざっくりいきました。
アリオなら間違いなく死んでるなって思いました。
ついでに昨日の夕ご飯で口の中を火傷したことを思い出し、やっぱりアリオなら死んでいるなと思いました。
「で?弁明はあるか?」
落ち着いた声色だから尚更怖いんだけど!?
というかごめんね!?そりゃ後ろつけられたら誰でも警戒するよね!
頭の中で高速謝罪をしていると、意を決したようにスーリアが口を開く。
「あ、あの!落とし物しませんでしたか?!」
「落とし物…?」
「そう!さっき歩いてたらこれ拾ってさ!君のじゃない?」
ギルドカードを差し出すと、首から刀が離れる。鞘に収まる音にホッと胸を撫で下ろすと、俺は後ろを振り返った。
「ほんっっっっっとうに申し訳ございませんでした」
「いやこっちこそごめん!いきなり後ろつけられたら誰でもこうすると思うし…」
その日俺は凄く綺麗な土下座を見た。
「どうも俺はカッとしやすいらしく…頭に血が昇ったままではいけませんね」
冷静になったのか、口調も落ち着いた彼は申し訳ないと言わんばかりに頭を下げた。
あの後、お詫びをしたいと少年——ユキト・イチジョウの案内のもと、俺達は営業前の酒場にやって来た。迫力のある店主は俺達の顔を見ると、少し驚いた表情をしながらもこころよく迎え入れてくれた。
にしても…と、席に着いた彼の格好をまじまじと見る。前で合わせた着物、そして袴のような服装は侍を彷彿とさせる。おまけに刀まで差しているから、マジで日本人。この国ではあまり見ない黒髪になんだかホッとする。
「本当に、二人が拾ってくれて助かりました」
「スーリアが困ってるって言ってくれたから注意が行き届いただけだよ」
「アリオさんが見つけてくれたから届けられたんですよ!でも、ちゃんと渡せてよかったです」
そうして話していると、俺達が頼んだ料理が運ばれてくる。
酒場だからと何を頼んだらいいか迷う俺達に、ユキトが勧めたのはまさかのオムレツだった。
シンプルなオムレツが目の前に置かれると、ユキトは手を合わせて「いただきます」と俺にとって慣れ親しんだ挨拶を呟く。
「珍しい挨拶ですね」
「これは俺の住む桜華国の食前の挨拶ですね」
「あ、やっぱ桜華国の出身なんだ」
「はい。やっぱりという事は分かっていたのですね」
「まあ髪とか服とか王国のものとは違うし」
むしろこれで王国民ですって言われたら詐欺だよね。
黒髪に黒い目。それに着物。極め付けは食前の挨拶。それらは桜華国独特の特徴だ。
桜華国は、ここシグマ王国とは隣同士の国であり、一年中桜に似た植物が咲き乱れる幻想的な国なのだという。文化だけでなく言葉や通貨等に多少の違いはあるものの、王国とはそこそこの付き合いをしているらしい。
個人的には桜華国には親近感しかないなと思いながら、目の前のオムレツをモグモグと頬張る。丁度いい塩加減に、ほんのりとバターの香りが口一杯に広がってとても美味しい。
「あ、ユキトはなんでシグマ王国まで来たの?」
歳としては俺達よりか一、二歳程度上に見えるユキトはパチパチと目を瞬かせる。
そして頬張っていたオムレツをもぐもぐと咀嚼すると、それを飲み込んでから口を開く。
「あぁそれはですね「おい坊主!オメェまた白い目で見られてぇのか!?」」
しかしその言葉はいきなり割って入って来た店主によって遮られる。俺は思わず飛び上がる勢いで驚くが、ユキトは動じた様子はない。むしろ止められることが分かっていたような反応だ。
一体何をそんなに声を荒げるのか分からず視線をユキトに投げれば、気付いた彼は止める店主を無視して口を開いた。
「俺は祝福を消す方法を探しに来たんです」
「コイツまた言いやがった……」
俺とスーリアは顔を見合わせて驚く。まさか初めての旅先で同志を見つけると思わなかったからだ。驚きすぎてかける言葉が飛んでしまった。
だが俺達の沈黙を拒絶と取ったのか、ユキトは困ったように眉を下げる。
「だから言っただろうが!お前さん、ここに来たばっかもそうだったから村八分になってんだろ!?」
「困りましたね…聞かないと何も手掛かりがないのに、王国の民の信仰心を侮っていました」
なるほど。どうやら店主の言葉の通りなら、ユキトは俺達が危惧していたことをやってしまったらしい。
ここ、シグマ王国は基本的に三神への信仰心があつく、ドゥールも言っていたが祝福は民にとっての宝だ。たとえとんでもない祝福を授かろうとも、女神から貰ったものは絶対なのだ。
俺達の住んでいたウォールはそこまでじゃないものの、村や街によっては教会が牛耳るレベルで信仰しているんだとか。
いやー怖いね。宗教は人を救うこともあるけど、前世を思い返すと、人をコントロールするのに最適なものだ。
集団的な力を持つと人は何をするか分からないからなー…
「あのさ…」
「あ、すみません。気分を悪くしましたよね」
「いやそうじゃなくて…」
「はい」
ユキトの耳元までグッと身を乗り出す。
そして店主を混乱させないようになるべく声を小さくすると、俺は言った。
「俺達の目的も一緒なんだ」
「えっ」
「シーッ!」
驚いて声を上げそうになったユキトの口を押さえる。すると意図が分かったのか、コクコクと頷いたので手を外す。
「ま、俺達は気にしないけど、確かにこの国にいるなら気を付けたほうがいいかもね」
「…そうですね。以後気を付けます」
「坊主の奇行を聞いて引かなかったヤツは初めて見たな…」
しみじみとそう言うあたり、店主はユキトに対する他の反応をよく見ていたようだ。俺からすれば店主が珍しいタイプだと思うんだけどね。
そう思っているのがバレたのか、店主は俺に「周りの引き方が露骨すぎて気の毒だったんだよ」と苦笑いした。
「あの、アリオさん。ユキトさんが良ければ、カヌゥにいる間だけでも一緒に行動するというのはどうでしょうか?」
「お!いいね!俺達まだ次の行き先決まってないし。ユキトはどう?」
「俺もまだここにいるつもりですし、願ったり叶ったりなんですが…お二人の迷惑になるのでは?」
ユキトの言いたい事は分かる。
俺もそうだけど、迷惑かけるかもって思ったらなかなか良い返事って出来ないんだよね。
しかし俺はここに来るまでの馬車の中でスーリアと話していたのだ。仮に自分達と同じ志を持つ者がいたら、仲間に引き入れてしまおうと。
だからこれぐらいじゃめげないぞ!
「大丈夫大丈夫。それに俺達この街全然知らないから案内頼めると嬉しいし」
「一回くらい一緒に行動してみたらどうだ?お前さんここに来てからソロだろ?」
店主の援護射撃にユキトは少し悩んだ後頷く。
どうやら答えが出たようだ。
「では、お言葉に甘えて…よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
そう握手をすると、俺達は食事の続きをする。
その様子をどこか安心したように見ていた店主は、俺達にサービスと言って肉を豪快に焼いたものをドンとテーブルに置いた。
その量に俺とユキトは驚いたものの、いざ食べた俺達は三人揃ってその美味しさに感激する。
そうして食事を終える頃には、俺達はすっかり意気投合したのだった。
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