旅の始まりと最初の難
コイツ旅に出れるのかなと思っていましたが、やっと旅に出ました。
「いやー色も付けてもらったから、これで旅の資金は大丈夫そうだね!」
「そうですね!ルファルさんに馬車も教えてもらいましたし、すぐにでも出発出来そうです」
薬草の状態が良かったということで買取金額は結構なものになった。別室対応をしてもらったからついでにとあの魔物も出してみたところ、魔物の核がそれなりにいい値段で売れた。状態が状態だったから大丈夫かなとも思ったけど、中の魔核は綺麗な状態だったのが驚きだ。
同時にウォールに一番近い森に魔物が出たということを伝えると、ルファルさんから情報提供料までいただいてしまった。断ったが、冒険者だけでなく街にも影響があるかもしれないということで、この情報は有益だと判断したんだとか。
そういうわけで旅の資金はあっさりと手に入った。
あと、旅の行き先を決めていなかった俺達に、ウォールから出るカヌゥという街行きの馬車を教えてくれた。他の冒険者も乗ることが多いとのことで、冒険初心者にも安心なんだとか。
「じゃあこのまま旅の為の買い出しに行こうか」
「保存食とかもほしいですね!」
そんな会話をしながら、俺達は市場を回ることにした。
***
「アリオ、気を付けて行っておいで」
「いつでも帰ってきていいんだからね。お手紙も待っているわ」
「スーリアさんにもよろしくね」
「はい!では行ってきます!」
シーディア家のみんなに見送られて家を出る。案外簡単にまとまった話は、俺の旅の準備を捗らせてくれた。というか第一王子の電撃訪問の一件で、みんなが各々準備を進めてくれていたようで、旅に必要なものを聞くと物がすでに用意されているという状態になっていた。なんという甘やかし。
そんなみんなの優しさを鞄に詰めて、俺は軽い足取りで歩き出す。少し荷物が多くなってしまったが、今はその重さも嬉しかった。
「待ってくださ〜い!」
「よかった。間に合いましたね」
「み、ミューロ先生にメロー先生!?」
聞いたことのある高い声と落ち着いた物言い。前から走ってくるその人達は、カリスの剣と魔法の先生であるミューロ先生とメロー先生だった。
どうしたのかと駆け寄れば、メロー先生にむぎゅっと抱きしめられる。相変わらずの素晴らしいふわふわだ。
「カリスくんに旅に出るって聞いてぇ、急いで私達も準備してきたんですぅ!」
「これは私達が作った痛み止め系列です。各用途はそれぞれラベルにメモしてありますのでお使いください」
「わ!ありがとうございます助かります!」
貴重なものだろうに、それをわざわざ渡しに来てくれるなんてミューロ先生達優しいな……
その優しさを無碍にするだけのものは俺にはない。頭を深々と下げて受け取ると、メロー先生も俺に細い杖を差し出してきた。
「これ、ラグダル様からご依頼を受けて作ったんですぅ!これでトントンすれば物があるかないかくらいは分かりますよぉ〜」
父上とメロー先生ナイスゥ!これはあれですね?所謂白杖ってやつですね!?
旅の支度をしている最中にぼやいた事を覚えていてくれたんだと、父上に感謝する。
でもそれをすぐに形にして持ってきてくれるの凄すぎない?
この人達の有能さ、底知れぬ。
「では道中お気を付けて」
「王都に寄る際は研究所に来てくださいねぇ!」
「お二人ともありがとうございます!行ってきます!!」
俺に向かって頭を下げた二人に手を振る。この人達とも暫く会えなくなるだろうし、そう思うと急に寂しくなってきた。でも王都に行ったら絶対寄らせてもらおう。
ギルドの前には既にスーリアが待っていた。手には荷物を持っていて、あちらも準備万端だ。
「じゃあ行こうかスーリア!」
「はい!」
馬車がガタガタと動き出す。家の馬車と違い、揺れは大きいし音も大きいけど、なんだか冒険に出るって感じがしてワクワクする。
忘れないうちにと白杖を彼女に渡すと、スーリアは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「嬉しいです…この杖も嬉しいですけど、みなさんのお気持ちが何よりも嬉しいんです」
大切そうに白杖を指で撫でた彼女を見て、俺どころか乗り合わせていた冒険者達も「よかったな」と顔を見合わせて頷きあっていた。この人達はルファルさんから直々に話をされて、既に俺達の事を知っている人達だ。勿論祝福のことは伏せてくれたが、スーリアの目についてのことは聞いているらしく、乗る時にも手を貸してくれたりしてくれた。
「それで探りながら歩けば物にもぶつかりにくくなるだろうから、行動範囲を広げられるかもね!」
「そうですね!でも…アリオさんはなるべく近くにいてくださいね」
「へっ!?わ、分かった!」
素っ頓狂な声を出せば、周りから笑いが漏れる。
なんだよ。可愛い女の子からこんなこと言われたら動揺するに決まっているだろ。
一応俺は健全な男の子だぞ!希死念慮っぽいものはあるけど健全なの!
とまぁそんなこんなで、二日間の馬車移動を終え、俺達はカヌゥに無事到着した。
同行していた冒険者達とはすっかり打ち解け、カヌゥで別れた時にもみんな笑って手を振ってくれた。
「さて、無事カヌゥに着いた事だし、まずは宿をとりに行こうか!」
「久しぶりにゆっくり休めそうですね!」
宿をとる前にまずは街をまわってみる。カヌゥはウォールとはまた違う活気があって、時折屋台を出す人達から声をかけられる。
お腹も空いていたし何か買おうかとグルリと辺りを見回した時、スーリアがピタリと立ち止まる。
「アリオさん、あそこにいる人は何か困っているみたいです」
「どこどこ?」
スーリアが指を指した方を見ると、そこには一人の少年と、ギルドの制服を着た職員がいる。
二人は何やら話をしていたようだが、職員が不機嫌そうに何かを言うと追い返すように手を振った。何か言いたげな顔をしていたが、無駄だと思ったのか少年は溜め息を吐いてその場を去っていく。その少年はここでは珍しい服装をしていてとても目立つ。しかしそれは、俺にとってはどちらかと言うと懐かしいものだった。
なんか気になった俺達は、まずギルド職員に話を聞いてみることにする。
「すみません!さっきの人と何を話していたんですか?」
「ん?お前さん達見ない顔だな」
恰幅のいい職員は、俺達が旅をしていると知ると、忠告だと言ってさっきの少年のことを教えてくれた。
「アイツはこの国のもんじゃないらしくってな、絡まれねぇように気を付けろよ」
どうやらやっぱり彼は他の国から来た人らしい。事情はよく分からないが、俺からしたら職員としてはゼロ点な対応をしていたように見えたが、彼にとってはあっちが何かをしたような物言いをする。隣でスーリアがムスッと頬を膨らませていたから、恐らく悪いのはこの職員だ。
さらっと話を聞き流しお礼を言うと、俺達は足早にその場を離れる。
するとそこには一枚のギルドカードが落ちていた。
「ねぇスーリア、やっぱりさっきの人追いかけてもいい?」
「分かりました。案内は任せて下さい!」
色を見るスーリアは、人の中からでも簡単に目的の人物を探し出す。そうしてギルドから離れたその人を追いかけると、後ろで結んだ黒く艶のある髪を揺らしながら路地裏に入っていくのが見えたので、俺達もその後に続く。
しかし、路地裏にはその人の姿はない。確かに見たはずなのにおかしい。
「アリオさん後ろです!!」
「えっ…っ!」
振り返ろうとするが、視界の隅に入った刃に身を固くする。首元に当てられたそれは、見事な反りと輝きを宿している。反射的に両手を上に上げ、降参のポーズをとるが意味はない。
「後をつけて闇討ちでもするつもりだったか?」
「いやいやいやいやいや!!滅相もございません!!!」
「ならば何故?」
グッと刀が近付き、首にひんやりとした感覚が伝わる。
これはあれですね。死亡フラグというやつですかね。回答を間違えたら死ぬやつ。
尚も当てられたままの刀に、思わず現実逃避をするように空を仰ぎ見る。
あぁ…人とのコミュニケーションを学んでおけば良かったな…
そう思いながら、俺達の旅は前途多難の始まり方をしたのだった。
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