旅の支度が始まりました
「じゃあ出発は予定より早くなりそうなんですね」
翌日、俺はまたスーリアと共に森にいた。ギルドに薬草を売りに行く前に、一度家に来てほしいと彼女から言われたからだ。
変な話ではなく、スーリアのお婆さんが俺に会いたいということだった。
「そうなんだ。スーリアはそこら辺大丈夫?」
「祖母に聞いてみますが、大丈夫だと思います」
「じゃあ改めて日にちが決まったら知らせるから、それまで準備しておいて!」
「分かりました!」
昨日魔物に襲われて、尚且つお互いの祝福を知ったからか、俺とスーリアの仲はグッと近くなった。何より今日会った時に服とか怪我とか色々聞いてくれたあたり、元々スーリアは優しい性格をしている。だから俺の考えとかも偏見なく聞いてくれたんだと思う。
「スーリア、その子がアリオくんかい?」
「おばあちゃん!待っててくれたの?」
着いて行った先にあった小さな家。そこには絵に描いたように可愛らしいおばあちゃんが待っていた。スーリアが駆け寄ると、笑い皺を一層深くしてニコニコと彼女の頭を撫でる。
目が合った為頭を下げると、礼儀正しい子だと褒められる。
なんだか父親や母親と接する時とはまた違う温かさがあるなぁ。
「はじめまして、アリオといいます!」
「はい、はじめまして…スーリアの祖母のチュナと申します」
挨拶をしてから家に上がる。よく使われている形跡のある暖炉に、棚に並ぶ食器、そして置かれた小物などから、俺の家とは違う安心感や懐かしさがあった。
「すみません、あまり片付いてなくて…」
「いや…なんか温かくて、凄く良い家だと思う」
恥ずかしげに席に案内してくれたスーリアにそう言えば、彼女は少しホッとしたように、それでいて嬉しそうに笑った。
「アリオくん、今日呼んだのはお礼を言いたかったからなのよ」
「お礼ですか?」
「えぇ、孫を守ってくれてありがとう……」
チュナさんはお茶をテーブルの上に置くと、ふいに俺の右手を握る。頭を下げながらそう言った彼女の手は震えていた。俺は左手をチュナさんの手に重ねると、目線を彼女に合わせる。
「俺は大したことをしていません。きっと俺一人だったら恐怖で動けなくなっていたと思います。でも、スーリアさんがいたから…一人じゃなかったから立ち向かえたんです」
何より、自分のことよりも他者を優先出来た彼女は凄い。リスクしかなかったあの状況で、出会ったばかりの俺を信じて魔法で助けてくれた。
これは言えないけど、俺一人だったらとっとと死んでやり過ごそうくらいしかしなかっただろうし…
むしろそのまま死ねたら万々歳脳が強くなっていた可能性が高いね!
ある種人間性がなくなるところだった。
「俺も沢山助けられました…チュナさんのお孫さんはとても勇敢な女性ですよ」
「まぁ…!」と感極まったような声を上げたチュナさんに対し、スーリアはその顔をぶわりと赤くする。なんか籠に入れてある林檎と似ているなぁと思っていると、合わないはずの視線と目が合った気がした。でもそれは一瞬で、すぐにスーリアは戸惑いがちに目を逸らす。
あれ?俺なんかマズイこと言ったかな。褒めることはセーフだろうし、今の発言だってセクハラに入らないよう言葉は選んだ。だから大丈夫なはず…だよね?
「スーリアにはこんなに素敵なパートナーがいるんだねぇ」
「お、おばあちゃん!!」
「でも安心したよ…こんな良い子なら何も心配することなく送り出せるよ」
「え?」
そうチュナさんは微笑むと、俺はその小柄な体に包み込まれる。その体温とお日様の匂いに一瞬泣きたくなったのは内緒だ。
「スーリアのことをよろしく頼んだよ。あの子に世界を見せてやっておくれ」
「…っはい!」
それから俺達はチュナさんと別れると、ギルドへと歩き出す。
別れる前に、チュナさんには困ったことがあったらシーディア家を頼ってくれと言っておいた。勿論凄く驚いていたけど、なんかあの人に嘘を吐くのは嫌だったんだよね。
最終的には「ありがとう」と言って笑っていたから、大丈夫だろう。
そういえば最後に「森に入って困ったら、スーリアに頼りなさい」と言われたけど、スーリアはそんなに森の中に詳しいんだな。でもどこの森でも大丈夫なのかな?
聞いてみたら大丈夫って言っていたけど…まぁそこら辺も追々聞いていこうかな。
「あら、アリオくん」
「わっ!ルファルさん!」
ギルドの入り口で出会ったのは、ギルドマスター代理のルファルさん。スラリとした長身の彼女は、今日もサラサラとした綺麗な金髪を風に遊ばせている。
どこかから帰ってきたのか、手には紙袋が抱えられている。
「そちらの子は初めましてですよね?」
「あっ、はい!スーリアといいます」
「ギルドマスター代理のルファルです。二人ともこれから依頼を受けるのですか?」
「いえ、俺達はこれから素材の買取をしてもらおうかと」
薬草を採ってきたことを伝えると、ルファルさんは嬉しそうに受付へと通してくれた。
どうやらルファルさん自らが査定をしてくれるらしい。
優しくて美人なエルフのお姉さん…とても良い……
「では薬草を見せてもらえますか?」
「はい!じゃあ出しますね!」
そう言ってストレージから出そうと思った俺だったが、兄の言葉を思い出してハッとする。そういえばストレージってレア物だった。こんな人が集まるギルドで見せたらマズイ。
いつまでも動かない俺を見て不審に思ったのか、ルファルさんが「どうしたのですか」と問い掛ける。俺はそれに対して搾り出すような声でこう伝えた。
「……別室対応って可能ですか…?」
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