転生者始めました
異世界転生…というものを知っているだろうか。
俺は知っている。何故なら、まさに俺がその異世界転生を遂げたからだ。ラノベや漫画で見た時には憧れたが、実際なってみるとあまり感動はない。
嘘ですあります。めっちゃはしゃぎました。
やばい異世界すごいなんて思っちゃいました。語彙力も無くしましたハイ。
…とまぁ、齢十歳になった俺は、唐突に前世の記憶を思い出したのだ。
前世俺が会社員だったこと。ラノベや漫画が好きだったこと。人付き合いがあまり得意ではなかったことなどなど。
漠然とした人生への不安に苛まれた日々を終えるために、マンションの屋上から飛び降りたこと。記憶の解像度を言えば、あの夜の月の綺麗さまで思い出せる。そのせいで、十歳の誕生日を迎えたばかりの俺、『アリオ』は盛大に泣いた。
そう。盛大にだ。
誕生日を祝ってくれた両親と兄は、最初こそ俺が嬉しくて泣いているのだと思って笑っていたが、ガチ泣きをしていることに気付き、誕生日会をストップして俺を慰めにかかった。
理由も分からず泣き、急に落ち着いた息子を見た時の両親の内心は容易に想像できる。確実に引いたに違いない。俺だったら引く。
「アリオ、さっき父上が呼んでいたぞ」
「分かった!ありがとう兄さん!」
「おう!転ぶと危ないから走るなよー」
ヒラヒラと手を振る兄に、手を振り返して俺は父親の元へと急ぐ。
田舎町の伯爵家、シーディア。それが転生した世界での俺の家。家格は高くないのだが、海に近いことで、漁業や塩などで領地や国をまわす結構重要な家だ。
俺はそんなシーディア家の次男で、領民からは引っ込み思案の次男坊としてある意味親しまれている。二歳上の兄、カリス・シーディアは、そんな俺にも優しく賢い。容姿も、母親似の丹精な顔に、海のような青い瞳。父親似の少し癖のついた亜麻色の髪。贔屓目で見てかなり整っている為、将来はモテる男になるに違いない。
パタパタと足音を響かせながら父親の執務室まで走っていると、廊下の窓から見える海にふと足を止める。少し小高い丘にあるシーディアの屋敷からは、ほとんどの窓から海が見える。青く輝く海は、今日も綺麗だ。
そして、そんな綺麗な海を見ると思うのだ。
—…あぁ、この海に飛び込んだら今度はちゃんと生を終えれるのだろうか…と。
…え?何かおかしくないかって?
何もおかしくないぞ。至って真面目だ。
俺の夢は、綺麗に人生の幕を下ろすこと。
それ以上でも、以下でもない!
何?お前さっきは、「異世界転生しゅごい!」って言ってなかったかって?
言ったぞ。言いましたとも!
でも違うのだ。俺が嫌なのは異世界ではない。『また人生を歩まなければいけない』ということが嫌なのだ!!
どこで生まれようと、どんな風に育とうと、俺が俺である限り人生が怖い。
前世もそうだ。未来が分からないのは当たり前なのだが、何が正解で何が間違いか分からない。誇れる特技もなければ、自分を変えようとする度胸もない。
結果出来上がったのは超絶死にたがり野郎だ。
いや違うな、微妙に違う。
この世界に来てからは、ただ死ぬのではなく華々しい散り方を求めるようになった。
前回は人に迷惑をかける死に方をしてしまったが、今考えると他者に迷惑になる死に方はアウトだ。それなら魔物のいるこの世界ならではの、魔物に食われてサヨナラ☆みたいな方がいい。
…でもまて、やっぱり嫌だな。
何処の馬の骨とも分からない魔物に食われるのは癪だ。
そこは俺も選びたい。どうせならこう、魔王や、魔王までいかなくても中ボスレベルと戦ってか華々しく散りたい。
どうせ異世界に転生したのだし、この頃魔物が増えてきたと言ったような話も聞く。
つまりはいる筈なのだ、魔王やそれに準ずるものが!!
と、熱く語ってしまってから言うのもなんだが、これだけは言わせてほしい。
「勝手に転生なんてするんじゃねぇーーッ!!!!」
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