VS魔物・前
「スーリア魔物は…!?」
「ま、まだ追ってきてます!!」
通りにくい木々の間や地形を利用しながら走るが、魔物は依然として俺達を追って来ている。それどころか、逃げたことで闘争本能が刺激されたのか、さっきよりも好戦的になっている気がする。
スーリアを気遣いながら、俺自身も変なダメージを受けないように細心の注意を払いながら隠れられるような場所を探す。こんな所でぶっ倒れたら最悪だし、スーリアも俺もそろそろ体力的に危うい。子どもの体力って案外少ないんだなと改めて実感するが、まずこんな生死をかけるような追いかけっこはしないなと冷静になった。
「うわっ!?」
「きゃっ!」
足元が滑り、下へと落ちる。慌ててスーリアを守るように抱き締めたのと、大きな飛沫をあげて体が水に沈んだのはほぼ同時だった。
「ぷはっ!スーリア大丈夫?!」
「ケホッ…だ、大丈夫です!」
どうやら少し深めの川だったみたいで、水のお陰で体に怪我は無い。とは言え危機的状況なのは変わらない。川から上がりながら落ちた場所を見上げると、魔物は下へ降りようとしているところだった。
急いで川から離れると、途中何度か水に濡れて滑る地面に足を取られながら、小さな洞穴へと入り込み座り込んだ。
「どうにかしないと…スーリアはまだ走れる?」
「……」
「スーリア?」
「っアリオさん!私を置いて街へ向かってください!」
「!」
「アリオさん一人なら街まで逃げれる筈です!私の事は気にせずどうか…!」
「そんなことするわけないだろっ!!」
確かに俺一人なら街まで逃げられる可能性はある。スーリアは自分の盲目という弱点をしっかり理解した上で、俺を助けようと提案してくれたのだろう。
しかし、今俺の目の前にいるスーリアは微かに震えていた。
それもそうだろう。俺だって姿を見た瞬間から怖くてたまらなかったのに、暗闇に中、追いかけてくる足音や、その息遣いだけが迫ってきていたらと思うとその恐怖は計り知れない。
「絶対二人で帰るんだ。だからお願い…自分を犠牲にするような事は言わないで」
「でも…私は足手纏いで…」
その時ギルドでのざわめきの理由が分かった気がした。あの時、あの冒険者達の中に文字列を解析出来る人がいたとしたら。そしてうっかり盲目である事を漏らしていたとしたら…
「スーリアは凄い人なんだよ。あれだけ魔法を上手く扱えて、今だって俺を助けてくれようと必死に考えてくれた……そんな人は絶対に足手纏いなんかじゃない」
「アリオさん…!」
「だから二人で考えよう?俺達はパーティーなんだからさ!」
「っ…はい!」
それに、あの場でカリスのサポートもなく冒険者登録をしていたら、間違いなく俺も憐れみの目を向けられていた筈だ。知らなかったとは言え、俺は自然にその目から逃げたのだ。スーリアが登録のシステムを知っていたかは分からないが、ハンデを持つ彼女が一人あの場で登録を行ったのは凄い事だと純粋に思う。
さて、川に落ちたお陰で匂いが薄れてるとしても、あの魔物はしつこくこちらを追ってきているだろう。正直今この洞穴を出たとしても追い付かれるのが席の山。
「スーリアは何が得意?」
「水系ですかね…イメージがしやすい分、他より扱えると思います」
「他って事は別のも使えるの?」
「水よりかは苦手ですが、多少は扱えます!」
え、すご…未だ戦闘スキルがファイアーボールだけの俺とは天と地の差があるんだけど。
でも水系が得意なら水蒸気爆発とか狙えるか?
いやでも俺の魔法は一発限りだし、仕留め損なったら終わる。何より爆発だと俺達にもリスクがある。ぶっつけ本番で出来るほど甘いものではないしな。
倒す事はできなくても、俺はともかくスーリアが逃げることが出来ればOK。
俺は死んでもどうせ生き返るだろうし、多少の無理は俺の役目だ。
だったらスーリアには、魔物の目を俺に向けるために魔法を使ってもらったほうがいいだろうな。
「あっ、そうか」
「どうしたんですか?」
俺は視線を下に下げると、今現在歩いてきた道をまじまじと見る。
スーリアが見えない事をいいことにニヤリと笑うと、俺は鞄の中から一振りのナイフを取り出す。ちなみにその時中身も確認したが、薬草の載った本がびしょ濡れになっているだけで、無くなったものなどはなかった。
「俺が合図したらスーリアは地面に向かってウォーターボールを使ってくれるかな?」
「地面ですか?」
「うん。もしかしたら、なんとかなるかもしれないんだ」
それから俺はスーリアに作戦を話す。俺に何か言おうとスーリアが口を開くのと同時にその咆哮が聞こえる。なんだかそれが逃げても無駄だと脅している様に聞こえて、俺は苦笑する。
死んでもいいと思っているが、誰かを巻き込むつもりはない。スーリアがいる以上、俺はこんな所で魔物のご飯になるつもりなどないのだ。
「スーリアは作戦通りに…」
「…はい。アリオさんもお気を付けて」
大丈夫。俺は不死者なんていう不名誉な祝福の持ち主なんだ。
こういう所で使わずにどう使うというのか。そう思いながら、俺は震える足を叩くと、洞穴の入り口付近に身を潜める。
チャンスは一度きり。失敗すればスーリアが危ない。
グルルと低い唸り声を聞きながら、俺はその足を踏み出した。
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