薬草採りと不穏な影
やぁみんな、おはよう。清々しい朝だね。
俺は今、何故か床に転がった状態で目が覚めたよ。
本を手に取ろうとした姿勢だったから、まるでダイイングメッセージを書こうとした被害者みたいだね!
…まぁ、うん。冗談は置いておいて、みんなはもうお分かりだろう。
俺また死にました!!!!
誰が聞いているわけでもないが、俺は状況の説明は欠かさない男だ。
どうやら俺は本棚の角に足の小指をぶつけて死んだらしい。
説明終了。俺ざっこ…
なんだかその内、豆腐の角に頭ぶつけて死にそうだよね俺。
いや最終的には立つ鳥跡を濁さずのように、スッといなくなる予定だけどさ?
でも豆腐は嫌だなぁ…タンスの角も嫌だけど……
「ってヤバい!準備して早く行かないと!」
勢いよく立ち上がって素早く本を鞄に詰める。
完全に寝過ごした為、朝ご飯もパンを一枚咥えるだけにする。さながら古の遅刻少女だ。
「待ちなさいアリオ」
「んぐっ…は、はい母上!」
さすがに伯爵の息子がパンを咥えて走るのはアウトだったか?
すぐにパンを飲み込もうとすると、母親から焦らなくていいと逆にお叱りを受ける。
じゃあなんで呼び止められたのだろうかと首を傾げると、母親がバスケットを俺に差し出してきた。
布の掛けられたそれは、ほんのりと食欲のそそるいい匂いがする。
「お友達と初めての冒険に行くのでしょう?これ、分けて食べるのよ」
なるほどつまりこれはお弁当的な感じですね!
ありがたい。薬草取りといえど初の冒険。初心者二人だから確実にお昼の時間は超えてしまう。昨日はそこまで考えていなかったけど、今思うとそこら辺も冒険者なら考えておかないとだな。
「ありがとうございます!」
「カリス達にも食べてもらったから味は大丈夫だと思うの」
「え!?母上が作ったのですか!?」
喜びを隠さぬまま受け取ると、母親が急に伯爵夫人らしからぬことを言った。
照れている姿を見るに本当のことなのだろうけど、貴族としてはあり得ないことだ。
というか照れているシルファさん可愛いな!!
我が母親ながら可愛い。決してマザコンではないが二児の母とは思えないくらい綺麗なんだよな。皺も一つもないし、実質年齢不詳だ。
「貴族が料理なんてって思うかもしれないけど、そういうことも許されるのがこの家なのよ。それを忘れないでね」
「?…分かりました母上。これ、ありがとうございます!スーリアと一緒に大切に食べます!」
「ふふっ、気をつけて行くのよ」
一瞬空気が引き締まった感じがしたが、母親が笑ったことでふわりと和らぐ。さっきのは気のせいだったのかと思い、納得した俺は、元気に家を飛び出した。
集合場所に着くと既にスーリアはそこにいて、目が見えない彼女だが、心眼で俺のことを“視た”のかしっかりと俺の方を向いて手を振った。
「ごめんスーリア!」
「大丈夫ですよ、私も今さっき着いたところですから」
なんだかデートみたいな会話だなと、彼女いない歴=年齢の俺はこのやり取りにキュンとした。いいなー…出来たら学生の頃にこんな会話したかったよ。
そうしたらもっと生きることに意味を見出せたのかなぁ…
「じゃあ行きましょう!」
「う、うん!」
いかんいかん。歳をとるとこういうことをすぐ思ってしまう。スーリアだってハンデを負って生きているのに、とりあえず五体満足で生きている俺が暗くなってどうするのか。
あ、ハンデといえば白杖を作るのはどうだろう。いくら人を見分けられても、物にはぶつかりそうになっているし。父上の頼んで作ってもらうのはアリかもしれない。
「ここら辺はどうですかアリオさん」
「いい感じ!空気も澄んでるし気持ちいいね」
スーリアの案内でやってきたのはウォールから少し離れた森の中。どうやら彼女は森で祖母と共に暮らしているらしく、街中よりも森の中のことに詳しいみたいだ。薬草採りも祖母と一緒にやっていた為、なんと手触りだけで薬草と毒草を見分けられるんだとか!
そんなわけで、スーリアは手で確かめながら、俺は図鑑を片手に薬草を集める。
ポーションの材料となる薬草を見つけるのはなかなか難しい。まずその数が少ないのだ。
だから薬草を摘むだけで結構な稼ぎになる。ただ、薬草探しだけでも根気がいる作業なので、血の気が多い冒険者には不人気なのだとか。
「ふー…疲れたー…」
「あまり採ったら無くなってしまいますし、そろそろ休憩しましょうか」
「賛成!」
小さな籠にいっぱいになるくらい集めると、二人揃ってお腹がなる。同時に思い出したように空腹感を覚える。薬草を分けて鞄に仕舞うと、丁度いい所にあった倒木に腰掛け、軽く手を洗ってから母上特製のサンドイッチを頬張った。
ハムと野菜の絶妙なバランスに、少しピリッとしたソースがとても合っていて美味しい。
「これとっても美味しいです!」
「そう言ってもらえると、母さんも喜ぶよ!それにしてもさっきのスーリアのウォーターボール凄かったね」
「いえそんな…!初級の魔法ですし」
「それでも凄いって!あんなに綺麗な丸は初めて見たもん!」
サンドイッチを食べる前、手を洗おうと川でも探そうかと思っていた時、スーリアがウォーターボールを出してくれた。それは本当に綺麗な丸だった。
スキルは基本祝福を貰う前から使える。
つまりスキルはその人本人の技量が反映される。スーリアのウォーターボールは空中で形を保ちながら止まっていたし、魔力制御みたいなのが上手いんだと思う。
「これで褒めてもらえるなんて驚きました…でも、アリオさんに喜んでもらえて嬉しいです」
「いやいや本当に凄いよ!俺は魔法はおろか近接系のスキルも壊滅的だから羨ましいよ!」
「じゃあもっと魔法を覚えて、アリオさんの力になれるように頑張りますね!」
ふわっと笑ったスーリアについつい子どもの俺はキュンと胸を抑える。
いやいや、守ってもらうのではなく、守れるような男になるんだ俺!
そう思っていると、背後の茂みがガサッと音を立てて揺れる。それに二人で振り返ると、俺はソイツと目が合った。否、目が合ってしまった。
焦茶色の毛皮を纏った体は山ぐらいあって、覗く牙は大きく鋭い。赤い目は爛々と光り、その視線は俺達を捉えて離さない。そんな熊のような魔物がそこにいた。
スーリアもその魔物に気付いたのか、悲鳴を上げそうになるのを手で押さえて止めている。
「スーリア…ゆっくり下がろう」
頷いたスーリアの手を取り、刺激しないように少しづつ後退りをする。俺達は視線を外さないまま一歩、また一歩と距離を取る。しかし、お約束というようにそれは足元にあった。
パキッと音を立てて小枝が折れる。
マズイと思った時にはもう遅い。
それが合図というように熊は大きな雄叫びを上げると、俺達の方へ一目散に向かってくる。
「走るよスーリア!!」
「は、はい!」
大きな声でそう言うと、俺はスーリアの手を強く握って走り出した。
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