元社畜の人助け
「さて、落ち着いたところで本題に入りましょうか」
あの後、興奮のあまり暫くフリーズした俺は、ついさっきやっと正気を取り戻した。
初めて見たエルフ…ギルドマスターのルファルさんは、どうやら代理のギルドマスターらしい。なんでも本来ウォールのギルドマスターである人の体調がよくないみたいで、知り合いであり、かつ手の空いていたルファルさんに声が掛かったのだとか。
「本来は受付で登録が出来るのですが、個人の情報の漏洩を防ぐ為、こうして別室での冒険者登録も行っています」
「主に祝福での勧誘や、優劣をつけられたくない人がこういった方法を望むんだ」
「別室対応をすることで注目を集めることもあるんですけどね。それでも年々別室対応を望まれる方は増えているんですよ」
そう言いながら彼女が差し出してきたのは石板みたいな半透明の板で、「どうぞ手を当ててください」と促され、そっとその板に手を当てる。
少しひんやりしたそれは淡く光ると、ズラリと意味不明な文字列を浮かばせた。
そしてそれが板に収まると、俺はルファルさんからカードを渡された。
「これで登録は完了です。そのカードは貴方の冒険者としての身元を保証するものになります」
微笑んだ彼女はとても可愛いが、今のどこが情報漏洩に繋がるのだろうか。
俺にとっては変な文字が浮かんだだけだし、それも一瞬だった。あれなら受付で登録しても問題なさそうだけど。
「あの…あの文字列ってなんなんですか?」
「あれは簡単に言うと、登録者の祝福や持っているスキルを表しているのです」
「あれにそんな情報が入っているんですか!?」
「はい。法則性がある文字でもあるので解読出来る人も少なからずいるのですよ」
なるほど。だから情報を他者に漏らさないよう、別室対応をしているのか。これは改めてカリスに感謝しなければならない。あんな風に文字が浮かんでしまったら、好きなだけ俺のステータスを見てくださいと言っているようなものだ。
…まぁ、このゴミステータスを見て仲間にしたいなんて物好きはいないだろうけど。
「あっ、そうでした。ギルドカードは無くしたら再発行出来ませんので、落としたりしないよう気を付けてください」
「分かりました!ありがとうございます!」
「使い方はお兄さんから教わった方がいいでしょうから…カリスくん、よろしくお願いしますね」
「はい」
柔らかい微笑みを浮かべながら手を振る彼女に、ぺこりとお辞儀をして部屋を出る。ギルドマスターって個人的には屈強な男性ってイメージがあったから、金髪美人エルフのお姉さんが対応してもらえて俺はラッキーだったな。
カリスやドゥールから冒険者のいろはを聞きながら受付に戻ると、なんだか冒険者達がざわついている。
見ると、俺と同じ歳くらいの女の子が受付で冒険者登録をしているようで、その子に注目が集まっているようだった。ふわふわとした灰色の髪は、肩口くらいで切り揃えられ、ちらっと見えた横顔は整っている。
俺もここで登録していたら、こんな風に見られることになっていたのだろうか。いや、きっと俺だったら可愛い子の方に目がいくな。
「これで登録は終了です。ギルドカードは再発行出来ませんので取り扱いには注意してくださいね」
「はい…気を付けます」
未だにざわつく冒険者に首を傾げながらその子を目で追っていると、その歩き方が少しおかしい事に気がつく。いや、変な歩き方というよりは、人のことは避けているのだが物には時折ぶつかりかけている感じだ。
「ごめん二人とも、ちょっとあの子見てくる!」
カリス達に一声かけてから女の子の方へと向かう。二人なら少し離れていても俺のことを見ていてくれるだろうが、念の為だ。
「ねぇ君!大丈夫?」
驚いたようにこちらを見た彼女の目を見て、“もしかして”が“やっぱり”に変わる。薄い桃色の目はこちらを捉えていなかった。目は開いているのに、視線が合わない。
「あ、あの……」
「えっと、いきなり声かけてごめんね。こっち出口と逆方向だったから大丈夫かなって…」
「え…?あっ、ありがとうございます」
「よければ外まで案内しようか?なんか人も増えてきたし」
時間のせいもあるのか、来た時よりも人が増えてきたように感じる。もし本当に目が見えないとしたら放っておけない。
「よろしくお願いします…」
彼女は少し悩み素振りをした後、俺にむかって手を差し出した。
…え、これって掴んで良いのかな。
それとも触ったらセクハラになっちゃう?
服を握らせるのもありだけど、それだとぶつかった時に離れそうだし。
えーい!今の俺は元気(仮)な十歳!今優先すべきは俺のことより女の子の安全だ!
恐る恐るその手を握ると、二重の意味で気を付けながら歩き出す。
人を避け、外に出ると、すぐさまパッと手を離す。中身が冴えないおっさんに手を握られるのは彼女にとって不幸以外の何者でもないだろうしね。
「ありがとうございました…」
「う、ううん!俺の方こそ手を握ったりしてごめんね!」
「いえ…その……助かりました。私…目が見えないので」
「それは大変だね…」
やっぱりそうかと腕を組む。
この子さっき冒険者登録していたよね?大丈夫なのか心配だ。
俺だって激弱くんだけど、目は見える。視界は生きるうえで最も重要なものに入るし。
「というかそうじゃん!俺が言うのもなんだけど、知らない人について行っちゃ駄目だからね!?」
今回は俺だから良かったものの、これが悪い人だったら大変だ。
いや俺も良くはないけどさ!?
俺は母親から人攫いには気を付けろと口酸っぱく言い聞かされたのを思い出す。
ここは他よりも治安が良い方だけど、油断は禁物だ。
そんな心配をする俺をよそに、その子は何故かニコニコと微笑みだした。
「心配してくれてありがとうございます…。でも大丈夫です。私、その人が悪い人かどうかは分かりますから」
「そうなの?」
「はい。祝福のお陰で、目が見えなくても人の色は見えるんです……目が見えないのも祝福の影響なんですけど」
祝福と聞いて、俺はすかさず透視を発動する。ステータスを見ると、すぐに祝福の項目へと移る。それと昨日知ったが、わざわざタッチしなくても詳細が見えるらしい。
***
心眼:目で見ることの出来ないものを視ることが出来る。
人の善悪を見分けることが出来る。
この祝福を持つ者はその光を失う。
***
…いや、結構ハードなものなのではこれ。
心眼という強者感のある祝福だが、メリットをデメリットが食っている気がする。
とにかく彼女の言っていることは本当だ。尚更彼女のことが心配になってきたぞこれ。
「あの、貴方は冒険者ですか?」
「え?うん。さっき登録したばっかの駆け出しだけどね!」
「じゃあ、私と同じですね」
はい知ってます。バッチリ君が冒険者登録するところを見てました。
そういえば考え事をしていたせいで忘れてたけど、俺達は所謂同期になるのか。
ん?というか俺自己紹介してないよね?
「そういえば自己紹介してなかった。俺、アリオっていうんだ」
「アリオさんですね。私はスーリアといいます」
萎縮されるのも嫌だし、あえて家名は伏せる。せっかくの同期だし、俺は人の功績に胡座をかくような真似はしたくないからね。
スーリアと名乗ったその子は、何かを思い出したのか「あっ」と突然声を上げる。
「どうかしたの?」
「すみません、大したことじゃないんです!ただこの後買い出しに行く予定があったのを思い出しただけで…」
「買い出し?」
「はい!大きめの鞄とかがほしいなって思って…よかったらアリオさんも一緒に行きませんか?」
「それ俺も興味あるな…ちょっと待ってて、兄さんに許可取ってくる!」
近くで成り行きを見守っていたカリスとドゥールに話を伝えると、二人とも笑顔で首を縦に振った。どうやら二人は俺に同年代の友達が出来たことを喜んでいるらしい。
邪魔をしないように後ろから着いてくるとのことだったので、そのことをスーリアに話すと、彼女は照れたように顔に手を当てた。
ロリコンではないが、なんだか見てると癒される子だな。
「邪魔だなんて…!アリオさんのお兄さん達に悪いです!」
「あ、じゃあスーリアがよければ、二人にアドバイス貰わない?兄さんも冒険者だし、ドゥ……父さんも詳しいと思うし!」
危うくドゥールと呼び捨てにしそうになったが、今日のドゥールは父親代理だ。庶民を装うならこの呼び方が一番都合がいい。
「そ、そうですね!先人からの知恵は大切なものですし、教えてもらいたいです!」
スーリアの許可も取れたことだし、善は急げということでカリス達を連れてくる。何故かカリスは「本当にいいの?」と聞いてきたが、意味が分からなかったので元気に頷いておいた。
その後お互いの紹介を終え歩き出した俺達だったが、スーリアは少し残念そうに、カリスは苦笑いしていて俺は首を傾げる。
理由を問うようにドゥールを見たが、楽しそうに俺達を見るだけだった。解せぬ。
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