良い話なんてないんだよ兄さん
はじめてーの死ィ♪君とハグ♪めちゃくーちゃいーたーいー♪
目が覚めるとそこは冴えない社畜の部屋…ではなく、図鑑や人形が置かれた子供部屋だった。
体を起こすと、ベッドの脇にはカリスが椅子に座ったまま寝ている。
その姿を寝ぼけ眼で確認すると、だんだん働き始めた思考に一つの疑問が浮かんだ。
(あれ?俺いつベッドに入ったっけ?)
俺は確かミューロ先生とメロー先生に、剣と魔法の基礎を教わろうとしていたはず。
それがなぜか二人の研究の話になって、俺の出した案にメロー先生が大興奮して……
思えばそこから記憶がない。
「おーい兄さん起きてー」
「ん…?」
考えても思い出せないことは変わらないので、とりあえず兄を起こすことを優先する。
軽く揺すれば、ゆっくりと兄が目を開けた。
これで事情が聞けると安心した俺が口を開こうとしたその時、俺の姿を捉えた兄は勢いよく椅子から立ち上がった。
「アリオ大丈夫か!?」
「なになになになに!?!いきなりどうしたの!?」
「痛い所や変な所はないか?」
混乱する俺をよそに、カリスは真剣な表情で俺に質問してくる。
あまりにも真剣な目をしているので、腕を振ってみたり肩を回してみるがなんともない。
一体なんでカリスはこんなに心配してくるのか分からないくらい元気だ。
「めちゃくちゃ元気ですね」
「本当?食欲は?」
「空いてます!人参以外ならなんでも食べれる気がしますね!」
人参嫌いおうち帰れ。
元気にカリスの質問に答えると、ようやく兄はホッとしたような表情になった。
「あのー兄さん?ところで俺はいつ自分の部屋に帰ってきたんでしょうか」
兄が落ち着いたところで疑問をぶつけてみる。
するとカリスは驚いたように目を丸くした。
え、本当に何があったの?
「アリオはメロー先生に抱きしめられた後に気を失ったんだよ。ピクリとも動かないし、何やっても反応はしないしで大騒ぎになったんだ……丸一日寝てたんだぞ?」
Why?
俺そんなに寝てたの?
怖っ…心当たりないんだけど。
いや、あるわ。ありすぎて困るわ。
え、俺あの時本当に死んだの?
確かにそういうメッセージでたけどさ、美人に抱きしめられて死ぬとは思わないじゃん!!!!
内心とんでもない絶望を抱えながら、少しでもこの困惑を誰かに分かってほしくて俺は静かに手を上げる。
「兄さん…悪い話と悪い話、どっちが先に聞きたい?」
「待てアリオ。悪い話しかないぞ?普通は良い話があるんじゃないのか?」
「悪い話は俺があの時死んでいたということ」
「勝手に悪い話が始まった!?」
「もう一つの悪い話は…」
「待ってアリオ!頭が追いついてないから!」
俺にストップをかけるカリスを華麗にスルーする。
もう一つの悪い話、それは…
「俺は女性の抱擁によって死ぬ雑魚だということ」
「それは悪い話だね!?!?」
あ、カリスが混乱した。
これはダメだとカリスに軽くチョップを入れると、兄はハッとこっちを見た。
どうやら俺のチョップはちゃんと効いたらしい。
「え…ということは、昨日のメロー先生の大興奮のアレでアリオはあの時死んでいた…?」
「はい」
「それで祝福のおかげで生き返った…?」
「恥ずかしながら帰ってきました」
「わぁ……」
言葉にするとマジで恥ずかしいな。
確かにあの時死んでもいいと思うくらいの幸福感を得ましたが?
それで死ぬなんて男の恥どころの話じゃない。
これには兄もどうしたらいいか分からないのか、カリスにしては珍しく沈黙する。
俺も何を言ったらいいか分からないため、暫くの間変な沈黙が俺たちの間に流れた。
「とりあえず…アリオが寝不足で倒れたことにしようか…」
「怪しまれませんかね…」
「確実に父上には説明しなくちゃいけないだろうね…」
「うわ…俺の恥が……」
あの状況で気を失うなんて、寝不足だと言っても納得されないだろう。
かといって素直に事情を話したら俺はただの恥ずかし雑魚ボーイだ。
▶︎条件を満たしました。
▶︎『不死者』の効果が一部書き変わります。
書き変わるって何?
俺が一体何を満たしたの?!
恥!?それとも男のロマンかな!?
…とりあえず見てみるか。
気は進まないが、見てみないことには何が変わったのか分からない。
慌ててもしょうがないと、ステータスを開いて“不死者”をタッチする。
****
不死者:決して朽ちることのない肉体を持つ。
体力が尽きた際、自動で体力を最大まで回復。身体機能も修復する。
ダメージの度合いによるが、修復には長くて半日を要する。
永続発動。
****
なにこれ間違い探し?
どこが変わったの?
どうにかこうにか記憶を掘り返し、思い当たるところが一箇所。
(もしかして…一日かかる修復が、半日に縮んだ?)
分かりにくいわーーー!!!!
もっと分かりやすく…せめて文字の色を変えるとかしてくれよ!!
いきなり縮みすぎなのではと思いつつ、俺はそれを眺めている時に閃いてしまった。
「兄さん、俺の祝福が少し変わったみたいです!きっと、昨日の“アレ”じゃなくて、祝福のせいです!!」
「!…な、なるほど!じゃあ父上にもそう説明しような!メロー先生達も心配しているから、先生達へも報告しておくよ!」
ありがとう兄さん。
これで俺の恥は、祝福による影響だということになった。
話が分かる兄を持って俺は幸せだよ。
こうして俺は、なんとか恥を隠すことに成功した。
でもやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいので、美人の抱擁で死んだことは早急に墓まで持っていこうと心に誓った。
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