初めての死は蜜の味?
あけましておめでとうございます。
今年も神きらをよろしくお願いします!
次の日、気持ちよく晴れた空の下、俺は兄と共に家の中庭に来ていた。
「よし、アリオも汚してもいい服を着てきたな」
「もちろんです!動きやすさも重視してます!」
「カリスくんの弟くんはしっかりしてますね。その場に合わせた服装選び…とても良い心がけです」
「シーディア伯爵様の御子息は仲が睦まじくて微笑ましいですぅ」
ニコニコと俺達のやり取りを見ているのは、カリスの剣の先生と魔法の先生だ。
子どもが好きで、俺が参加することを二つ返事で了承してくれた寛容的な人達だ。
「紹介するね。ミューロ先生は俺の剣の先生、そしてメロー先生は魔法の先生だよ」
「ミューロ・ハウンズと申します。剣を教えていますが、普段は研究者をしております」
「メロー・ハウンズですぅ!同じく研究所に勤めてますわ!」
姓をハウンズと名乗った二人は、どうやら腹違いの兄妹らしい。
ミューロ先生は髪は茶色で、少し吊り目。冷たく見えるが、物腰が柔らかくてよくニコニコと笑っている。
メロー先生は、ふわっとした大人なお姉さん。ピンクゴールドの髪がふわふわで、少し垂れ目な所に泣き黒子が色っぽい。
容姿こそあまり似ていないが、どちらも良い人そうだ。
「先生達はどんな研究をしているんですか?」
「そうですね、病を治す薬などを主に取り扱っています」
「なかなか出資してくれる人がいなくて大変だったんですよぉ〜!シーディア伯爵夫妻には頭が上がりません〜!」
この世界では病を治すものは高位神官が主だ。もしくは、どんな病や傷を癒すスキルを持つ“聖女”だろう。病の治療薬という考えはあまり浸透しておらず、現代で世話になったようなものはこの世界にはない。あるとしても怪我を治すポーションだけだ。
ちなみにポーションも手軽に買えるようなものではなく、割と値段が張る。
大体が聖女ほどではないが回復スキル持ちのヒーラーをパーティーに入れるぐらい、ポーションは高価なものなのだ。
「最近だと痛みを和らげるお薬の試作品を作ったんですけどぉ、誰も試してくれないんですぅ…」
痛みを和らげるというと、鎮痛剤みたいなものだろうか。
試してくれないというのは恐らくそういったものが浸透していないから。だったら単純に、まずは冒険者に配ってみるとか、教会で治療待ちをしている人に試してもらうとかがいいのではないだろうか。
面倒なので思ったことをそのまま発言してみたら、肩を落としていたメロー先生の目が一気に輝き出す。
「それ!!その意見貰ってもいいですかぁ!?」
「え、ど、どうぞ…?」
「やっぱりシーディア伯爵様の御子息は良い子達ですぅ!」
クルクルと俺の手を掴みながら回るメロー先生に、俺は目を回しながら兄に助けを求める。しかし、カリスは「アリオは凄いなー」とニコニコ笑うだけだ。
「こらメロー。アリオくんが目を回してしまいますよ」
助けてくれたのはミューロ先生で、すっかり目を回した俺をベリッとメロー先生から引き剥がす。
俺の状態に気付いたメロー先生は、慌てながら今度はむぎゅっと俺を抱きしめた。
感じた柔らかさと甘い香りに、顔が熱くなるのを感じながら、俺は紳士であろうと真顔になる。
というか怖い。女の人からのスキンシップは超怖い。
前世では女の人からボディタッチをしたのに、冤罪をかけられたという事件もあった。
勿論全部が全部冤罪なわけないし、どちらを擁護するって話でもないけど、俺からすると男も女もめっちゃ怖い。
どちらも人間の時点でアウト。簡単に信じてると足元を掬われる。
ニンゲンコワイ。
あ、俺も人間。ヤバイ。
「すぐにでも教会とギルドに話をつけに行きたいですけどぉ…でーも、今のこのやる気とトキメキを魔法に変えることが先ですぅ!!」
「あ、ちょっとメロー!」
むぎゅぎゅっと更に強く抱きしめられて、その豊満な胸に包まれる形になる。
前言撤回。世の男達よ…どうだ羨ましいか!!!!
俺は今転生してよかったと一番思っている!!!!
俺もう死んでもいい!!!!!
もはや紳士の真顔と恐怖を忘れた俺は、頭から花を飛ばす勢いでしばしの間幸せを堪能する。
すると、なかなか本題に進まないことに痺れを切らしたミューロ先生が、一際大きい溜め息を吐いた。
「メロー、はしゃぐだけなら追い出しますよ」
「お兄様ごめんなさい!」
背後にキュウリを置かれた猫の如く、メロー先生は勢いよく俺から離れる。
さようなら、男のロマン。こんにちは、背後に般若を従えるミューロ先生。
「ごほんっ…さて、まずはアリオくんにお礼を…良い案を出していただき、誠に感謝します」
「いえ!むしろ素人の俺の案を喜んでもらえるなんて思っていなかったです」
前世の試供品を思い出しただけだし、仮にも子供の意見に対して採用が早すぎる。
それに正直メロー先生の喜び方は大袈裟な気がする。
「案を出してもらえるということが貴重なのです。私達の研究は、お世辞にも歓迎されているとは言えないものですから」
「そうなのですぅ…だから、何か思いついたらじゃんじゃん話してくれると、とってもとーっても嬉しいですぅ!」
「わ、分かりました!」
「アリオくん、あまりメローを甘やかさなくて良いですからね」
テンションの高いメロー先生と、それを見て呆れるミューロ先生。そんな二人の会話を見ながら、鎮痛剤でもう一個思い出す。
「あのー」
「どうしましたか?」
「その薬って強さによって人体に影響ってありますか?」
「そうですね…今試作しているものは効能を薄めているので、多少眠気が出る程度ですね」
うん。やっぱり前世の頭痛薬に似てるよなぁ。だとすると、職場の女性社員にパシられた時に買ったことのあるアレ。アレなら世の女性にヒットするのではないだろうか。
「じゃあ、それを女性に勧めてみたらどうでしょうか?」
「アリオくん、なんで女性なんですか〜?」
「えっと、たまにメイドさん達も辛そうなので…その…月のものが…」
「あぁ…確かに…。頭が痛いって言っている人もいるし、あれは治癒魔法でどうにかなるものじゃないからね」
なんだか最後の方は恥ずかしさが勝ってしまって、俺の声はどんどん小さくなる。
思い当たることがあったのか、カリスが俺に同意してくれたのが救いだ。
しかし、いつまで経っても先生達は反応せず、俺の額からは嫌な汗が流れる。
なんとも言えない空気に、俺はたまらずカリスの後ろに隠れる。
沈黙が辛い。俺は何か変なことを言ってしまったのだろうか。
でも、カリスも同意していたから大丈夫なはず…
ビクビクしながら返事を待っていると、途端に悲鳴に似た声が中庭に響き渡った。
びっくりして目を白黒させているとミューロ先生が大興奮での様子で、盾にしていたカリスごと俺を抱きしめた。
「天才ですぅーっ!!!!」
「うわうるさっ」
ミューロ先生が思わずといったように呟く。恐らくそっちが素なのだろう、敬語が外れた言い方に少し親近感を覚えたのも束の間、力一杯抱きしめられて潰れたカエルのような声が口から出た。
死ぬ。これ死ねるやつ。
ギリギリと締められる感覚。魔法の先生とは思えない腕力に、齢十歳で貧弱な俺の体がボキッと変な音を立てる。
背骨がぁっ!!
▶︎締め付けによってダメージを受けました。
▶︎『死ぬこと以外はかすり傷』が発動します。
▶︎ダメージを100に変更しました。
…ん?
怒涛のメッセージに、視界が急に暗転する。
え、これそんなことでも発動するの?
たかが美人に抱きしめられただけだよ?
少し背骨がボキッといっただけで、俺まだ剣すら握って…ない………
▶︎死亡を確認しました。
▶︎ダメージによる身体への影響を確認。
▶︎不死者の効果が発動。
……
…
…
▶︎蘇生を開始します。
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