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閑話・書斎にて

時間的にはカリスがアリオの部屋を去ったその後です。

今アリオは本を読んでる最中です。

 シーディア家の一室。当主の書斎のドアを、カリスは軽くノックした。

返事を待つ間タイを直し、軽く髪も整える。暫くして低い声で返事が返ってくると、カリスは「失礼します」と一言言い、部屋に入った。


「ご用件はなんでしょうか父上」

「うむ…アリオの祝福の件だ」


 アリオという名前に、カリスは一瞬顔を曇らせる。先程弟から聞いたそれは、カリスにとっては衝撃的なものだったからだ。


「お前は祝福のことを聞いたか?」

「…はい。アリオ本人から聞きました」

「そうか。それならば話は早いな」


 視線を落としたカリスに、ラグダルは眉間に皺を寄せる。弟を可愛がっているこの長男にとっては、これから言うことは酷なことかもしれないとラグダルは内心思った。


「アリオをこの土地から離れさせる」

「!」

「今すぐではない。だが、いずれは考えねばならん」


 アリオの祝福は見るものによっては脅威だった。

少なくとも、神官長からその詳細を聞いたラグダルは震撼した。

死なずの兵士がどれだけ重宝されるか、戦場を経験したラグダルにはその価値が痛い程分かった。

同時に、それが本人にとってどれだけの苦痛を与えるのかということもだ。


「…私も父上の意見に賛同いたします」

「ほぉ」

「アリオも旅に出るつもりだと、そう言っておりましたので」


 思わぬ賛同にラグダルは驚くが、カリスも覚悟を決めていたのかその声は力強いものだった。


「私も着いて行きたい所存ですが…祝福で補佐をする方にまわろうと考えています」

「そうだな。息子が二人一度にいなくなれば、こちらの立場は悪くなる。お前には悪いが、矢面に立たせようと考えている」

「その覚悟は出来ています」

「まぁ早まるではない。全て背負わせない為の親だ」


 カリスもラグダルにとっては可愛い我が子だ。少々大人びてはいるが、まだまだ未来ある齢十二の子供なのだ。ラグダルはカリスの祝福においても頭を抱えたが、大人しく世間知らずな次男坊は予想の斜め上を行った。


(まさかここにきて未だ確認されていない祝福を授かるとはな…)


 アルシテア大陸に存在する国家の一つ、ロラン王国にとって最も重要な祝福は“勇者”だ。

そしてそれに連なるものが、“聖女”、“賢者”、“剣聖”、“聖騎士”とされている。

連なるというだけで他の祝福はそこまで稀少なものではない。毎年度、少ないながらもそういった祝福を授かった者は見るし、何より祝福は初期のアドバンテージのようなものだとラグダルは考える。

現に勇者の戦いの記録では、筆頭は“勇者”の祝福を持つ者だったが、その仲間達は珍しくもない“魔術師”や異国から来た“侍”と多種多様だ。


なら何故“勇者”という祝福は特別なのか。

それはその祝福が神出鬼没だからだ。

勇者は魔王の復活と共に、誰かの祝福が書き変わるのだ。それに法則などは一切無い。

故に並の“預言者”にはその出現を捉えることは出来ない。

唯一その出現を予知出来るのは、“預言者”の中でも『星詠み』という特殊スキルを所持する者だけだ。

しかし、そこまで到達出来る者は少なく、出来たとしてもその者は王国のお抱えとして取られてしまう。


ラグダルはそれを懸念していた。

カリスがもし預言者としての頭角を見せたら、確実に国は放っておかないだろう。

わざわざ領地を治めている家から跡取りを取る馬鹿はいないと思いたいが、国王はまだしもその下の者は納得しないとラグダルは考える。


「父上、アリオにウォールで冒険者登録をさせたいのですが」

「お前に任せよう」

「承知致しました」


 ロラン王国の預言者が既に嗅ぎつけているかもしれないと思い、ラグダルはカリスの申し出を良しとした。

この長男ならすぐにでも手を回すだろうと判断し、あえてそれ以上は口を出さない。


(早ければ明日にでも『手紙鳥』が来るだろうからな…)


 カリスが最近習得したスキルでもある『手紙鳥』は、遠くにいる者に簡単に手紙を運べる便利スキルだ。

アリオの祝福が国の者に知られたら、城に呼び出されるのは目に見えていた。

未知の祝福は今も昔も人の興味と関心を惹くものなのだ。


(我が子達を守らねばならぬな)


 目の前の息子の姿を一瞥し、この場にいないもう一人の我が子のことを思い浮かべる。

その際眉間に更に皺が寄ったが、それは当主ではなく父親としての顔であった為、カリスは僅かに口角を上げた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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