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私の恋が消えた春  作者: @豆狸
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第五話 私が私でなかったら

 私をベッドに寝かせて兄が去り、入れ替わりに来たメイドに寝間着に着替えさせてもらってから、ライザ様とおしゃべりをしました。

 夫に関することなので、ライザ様と私のお茶を持ってきた後のメイドは控えの間に下がらせています。

 ベッドの横に腰かけたライザ様が熱いお茶を一口飲んで、帰りの馬車の中で話し合ったことを確認してきます。


「……離縁はするつもりなのよね? なのにあの男と愛人の会話、ご家族には秘密にするつもりなの?」


 ライザ様はテーブルを挟んでいたので私より夫達から遠かったのですが、風の魔道に会話を運ばせて聞いていました。

 そういうの(盗み聞き)は良くないのではないかと窘めたところ、人が多くて暑かったから風の魔道で涼んだだけ、生活魔道の範疇に過ぎないと反論されてしまいました。ほかのテーブルの会話が聞こえてしまったのは、あくまで偶然だと開き直られたのです。

 まあ、私も聞いていたのですから同罪なのですけどね。


「先ほどは王立公園へ行ったことを秘密にしてくださって、ありがとうございました。あの会話を離縁の理由にしたら、夫が……ユージン様が悪いことにされてしまいますもの」

「あの男が悪いに決まっているでしょう? 浮気する男はクズだわ」


 吐き捨てるようにおっしゃったのは、元婚約者の王太子ルドガー殿下のことを思い出されたからかもしれません。

 でもユージン様とルドガー殿下、私とライザ様は違います。

 伯爵家に恩義を感じているユージン様は、いつまでも子どもな令嬢の我儘を拒むことができなかったのでしょう。実際婚約解消を言い渡されたら、私は泣き叫んだに違いありません。


「私は、ライザ様と違って美人ではありませんし魔道の才能もないですから」


 リリス様は、ルドガー殿下の浮気相手のフェイリュア様と同じ平民出の特待生でした。

 彼女の魔道の才能を買ったウーレンベック商会の支援で、魔道学園に特待生制度ができたのです。今も特待生に対する支援はウーレンベック商会からの寄付で賄われています。

 会頭夫人となった今も、商会の魔道開発部門で活躍していると聞きます。優秀な魔道士である夫には、そんな風に才気煥発な女性のほうが魅力的に映るのでしょう。


 いいえ、似合わない大人びた服を着て背伸びする子どもなど、最初から恋愛対象にはなり得ません。

 困った顔でキスをして、無理せず年を重ねればいいと言ってくれていた夫は、どれだけ私を不快に思っていたのでしょう。

 盛りのついた雌猫のようだとまで思われていたなんて──


「……マリオン。あなたは可愛いし、家事も魔道も同じ、人を助ける大切な才能よ」


 涙が止まらなくなったために声が出せなくなった私を抱き締めて、ライザ様は言ってくださいました。


「今のあなたは昔の私と同じ、浮気されたのは自分のせいだと自分を責めて、浮気した相手に罪悪感を覚えている。……わかるわ。だって愛していたのだもの。愛した人が悪いだなんて思えないもの。でもね、気持ちが落ち着いたらでいいから、他人の目で状況を見てみて」

「……た、他人の目、ですか?」

「そうよ。あの男が陰であなたについて言っていたようなことを、ほかの人間、私や友達が言われたと考えてみて」


 想像したら、すっと体が冷えたような気がしました。怒りのせいです。


 ──ライザ様の元婚約者、王太子ルドガー殿下の浮気相手はリリス様と同じ平民出の特待生フェイリュア様でした。

 彼女が虜にしたのは殿下だけではありませんでした。

 殿下の未来の側近候補達も彼女の取り巻きになっていたのです。そして彼らの婚約者だったご令嬢達も、ライザ様と同じく一年前に婚約破棄されていました。ライザ様がフェイリュア様を階段から突き落としたなどと根も葉もないことで罵られたように、ほかの方々も根拠のない冤罪を被せられそうになっていました。


 あの魔道学園の卒業パーティで感じたのと同じ気持ちです。


「……ライザ様やほかのご令嬢があんなことを言われたら、怒ります」

「そうよね。あの卒業パーティの会場でも、普段おとなしいあなたが真っ先に殿下達に反論してくれたわ。あなたの心は強いし、人を思いやる力も持っているのよ」

「ありがとうございます」


 でも……と私は思います。

 ライザ様やほかのご令嬢のことなら外から見た客観的な判断を下せます。彼女達が罪を犯していないことも、婚約破棄した男性陣が莫迦だと思えるくらい彼女達が魅力的なことも見ればわかります。

 だけど私自身のことは外から見えません。私は本当に盛りのついた雌猫のようにはしたなくて、ユージン様が婚約解消できないと諦めるほど彼に執着していたのかもしれません。


 私が私でなかったら──今の状況はどんな風に見えるのでしょうか。

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