ポルターガイスト
心霊番組のスタッフ、そして霊能者のキツネおばさんと一緒に向かったのは郊外のマンションだった。
1145室のチャイムを鳴らすと、30前後の女性が出て来る。
美人だが、やつれている。
「浪速テレビ“あなたの部屋お祓いします”の者ですが、牧しずこさんのお宅ですよね」
「はい、私が牧です」
「こちらの部屋に霊が出現するとお聞きしたのですが…」
「ええ、はいってください」
MCのぼくとキツネおばさん、そしてTVクルーが機材とともに部屋にはいった。
きれいにかたづいた明るい部屋だ。
「で、どんな霊が現れるんですか?」
「それが…まあ、見ていてください」
しばらくすると、テーブルの上に広げてあった雑誌のページがばさばさっとめくれて閉じた。
「ほら、これです」
「今のが?」
「ええ、本が閉じたでしょう?」
「風…のせいじゃないでしょうか?」
次の瞬間、その本がふわりと浮き上がって空中を漂い、本棚に収まった。
一同、唖然とする。
と、次にはやはりテーブル上にあったコーヒーカップが宙を舞いキッチンシンクに落下する。
キツネおばさんが口を開いた。
「ポルターガイストね、これだけ強力なのを見たのは久しぶりだわ」
「お祓いしていただけるでしょうか?」
「やってみるわね」
キツネおばさんが祝詞を唱えている間も、部屋の中ではボールペンや食器やカバンなどが飛び交っていた。
そんな状態が一時間も続いたろうか。
ようやくポルターガイストが落ち着いた。
「なんとか成仏してくれたようね」
「ありがとうございます」
その時は、これで問題が解決したと思ったのだが…
あの部屋の女性はそれからどうなったのか?
という声が、放送後、いくつも番組に寄せられた。
「みぶさん、牧しずこさんの部屋のポルターガイストの件、追跡番組作りますので、また、よろしくお願いします」
担当ディレクターから電話があり、キツネおばさんやスタッフと一緒に再びマンションを訪れたのはオンエアから3ヶ月後だった。
エレバーターを出た途端、一同は目を見張った。
彼女の部屋の前に、中身の詰まった大きなポリ袋がいくつもうず高く積み上げられている。
チャイムを鳴らすと、髪をボサボサにした牧しずこが出て来る。
スッピンで以前よりぽっちゃりしたように見える。
「牧さん、ごぶさたしてます。浪速テレビ“あなたの部屋お祓いします”ですが、この前に積んである袋は何ですか?」
「ああ、これ、うちのゴミです」
「実は放送後、追跡番組を撮ることになったんですが」
「ちょうど、良かった。入ってください」
クルーと一緒に部屋に入り唖然とする。
以前はきれいにかたづいていた部屋の中が全く様変わりしていたのだ。
お菓子の袋やインスタント麺のカップや割り箸がそこかしこに散らばっており、キッチンには汚れた食器が積み上げられている。
「私、かたづけられない女なんです」
彼女が言う。
「前にお邪魔した時は、きれいになってたように思いますが…」
「あの頃は、ポルターガイストが部屋をかたづけてゴミを捨てたり、食器を洗ったりしてくれてたんです。
それに、シャンプーもお化粧も、全部ポルターガイストがやってくれてたから、今考えるとあんなに楽なことはなかった。
ねえ、お願いがあるんですけど…
もう一度、成仏した霊を呼び戻して、ポルターガイスト現象を起こすように頼んでみて貰えないでしょうか?」
頼まれたキツネおばさんは、ため息をついて首を横に振っていた。