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エメラルダシリーズ

愚かな王と王子が有能な者と次々と切り捨てているので、この国を見限って他国で幸せになろうと思います。国が傾いていくのは当然でしょうね。

作者: リィズ・ブランディシュカ



 貴族令嬢のエメラルダは、誰もが認める聡明な少女だ。


 思い込むことなく物事を観察し、適切な解決方法を導き出すエメラルダは多くの人から慕われていた。


 そんな彼女には、ある悩みがあった。


 それは婚約者の王子についてだった。


 王子の名前はデイルート。


 デイルートの立場は、エメラルダの住んでいる国の、第一王子。

 王デイメノスの後継者である。

 数年前までは第二王子と第三王子も存在していたのだが、流行り病や暗殺の手によって死亡していた。


 なのでデイメノスは、唯一の子供であるデイルートを溺愛しており、何でも我儘を聞いてしまっていた。


 そのため、デイルートは王子にふさわしくないふるまいばかりをしている。


 毎晩、好みの女性を部屋に連れ込んで、とても口には出せない遊びに興じていたり。


 国のお金を使い込んで、豪遊していた。


「デイルート王子、民の為を思うなら、今すぐ自分の行動を改めるべきです」


 エメラルダは何度もたしなめたが、王子はその行動を改める事はなかった。






 しかし、だからといって何もしないでいたら、国民にしわ寄せが向かってしまう。


 裕福な暮らしをしている貴族や領主は、こういった面で民を導くのが務めだ。


 エメラルダはデイルート王子をたしなめ、まともな生活を送るように注意し、仕事を行うように言い含めた。


 しかし、そんな事は余計なおせっかいだったらしい。


 デイルート王子はエメラルダを婚約破棄した。


「お前のような口やかましい女を、王家にいれるわけにはいかん。息が詰まりそうだ」


 そして、デイルート王子の護衛によって、エメラルダは懲罰牢に入れられてしまった。


 冷たい水に体をさらさなければならない懲罰牢は、屈強な罪人にも厳しい。


「三日間、自分の愚かな行為をそこでじっくり反省しているんだな」


 と王子は言ったが。


 とても三日も絶えられるものではなかった。


 居並んだ他の懲罰牢には使用した形跡があった。


 しかも、片付けられずに放置されている死体もあった。


 エメラルダは物言わぬ躯になっていた存在に、見覚えがあった。


 その人物は、以前であったことがある人物だ。


 おそらく、王子の教育がかりだった人間だ。


 よく王子と対立する事が多い人物だったため、記憶に残っていたのだ。


 いつの間にか見なくなっていたと思ったら、懲罰牢に送り込まれていたようだ。


 エメラルダはここでようやく分かった、デイルート王子は人の上に立つ器ではない。


 心情的にも肉体的にも、これ以上デイルートを支える事はできなくなった。






 懲罰牢をどうにかして抜け出さなければならない。


 このままだと、エメラルダは命を落としてしまうだろう。


 しかし、鉄の牢は固く閉ざされていて、開く事が無い。


 困り果てていたエメラルダだが、そこに救いの手が差し伸べらえた。


 影の精霊バルドだ。


「少しみないうちにとんでもない事になっているな、あのアホ王子め、まさかここまで愚かだとは。俺の女にこんな事をするとは良い度胸じゃねーか」

「久しぶりね。でも私はあなたの契約主であって、あなたの女になったつもりはないけど」


 やってきたのは、エメラルダが契約している精霊だった。


 この世界には精霊がいる。


 不思議な力を行使する事ができる精霊は、人間と契約して肉体を得る事で、この世界で活動できるらしい。


 けれど、精霊と相性の会う人間は少ない。


 一国に数人ほどしかいないのが現状だった。


 エメラルダは、その一人だった。


 影の精霊バルドは、自由に影を操る事ができる。


 だから、バルドは影を操って、牢屋の鍵を開けてみせた。


「ありがとうバルド。来てくれなかったら死んでしまうところだったわ。でも復讐なんてやめてね」


 バルドは気分屋なので、契約主であるエメラルダからしょちゅう離れる。


 そのため、エメラルダの状況に気が付くのがおくれたのだろう。


 バルドは自分の行動を悔いていた。


「俺が傍にいれば、こんな目に遭わずにすんだのに。くそっ」


 牢やから出してもらったエメラルダは、さっそく牢屋を後にする。


 見張りは数人いたが、すべてバルドが影を操って、首をしめあげて気絶させていた。








 国を見限ったエメラルダは、故郷を捨てる事にした。


 連帯責任を負ってはいけないため、両親や知人と共に、国を出る事にした。


 その国では、デイメノス王やデイルート王子の横暴によって法がねじまげられている。

 明らかに非がない家族や友人・知人であっても、犯罪者と関係があるというだけで罰せられるからだ。


 そういった事情があるためエメラルダは、すぐに彼らに声をかけて、数時間で国をでた。


 それから人目のつかない街道を選んで、安全な異国を目指して旅をするエメラルダ達だったが、道中で様々なトラブルに遭遇した。


 多くの難民が移動する時期と重なって、行先の国に入れなくなって困ってしまったり、逆に流行り病を封じ込めるために移動禁止になってしまった地域があったため、行く手をはばまれたりもした。


 ことごとく時期が悪かったのだろう。


 しかし、エメラルダはそれら一つ一つに丁寧に対処していった。


 影の精霊バルドの力を使って、誰かや何かの影にまぎれこんで移動する事ができた。


 影の中にいるときは、影と同質化しているため、怪我をしたり病気になったりすることはない。


 エメラルダ達は、何一つ傷を負わずに難所を通り抜けた。


 山などの険しい場所を通る時は、陰で命綱を作りながら人や物を運んだ。


「バルド、いつも助けてくれてありがとう。あなたがいたからあの王宮でも、何とかやってこれたのよ。結局は無駄になってしまったけれど」

「お前が悪いわけじゃねーだろ。これからも助けてやるから元気だせよ」






 そうしてやがて、苦労しながらもエメラルダ達は安全な国へとたどり着いた。


 その国では、エメラルダ達や命を脅かされる事なく、暮らす事ができた。


 家族や友人達も、誰に安全を脅かされる事なく、新しい生活を築いていった。

 

 エメラルダはバルドと共に影の精霊の力を使いながら、多くの困った人たちを助けて、様々な人に慕われる事になった。






 しかしその頃、故郷の国では色々な事がうまくまわらなくなって混乱していた。


「デイルート王子、この間あらたに付け足した規則が、別の規則と矛盾しているようです。どうやって対処すればよいのですか!?」

「デイメノス王、密偵によって情報を盗まれたようです。他国の者が資料を持ちだしてしまいました!!」

「城内に不審者が潜伏中とのことです、出歩かないようにお願いします」


 牢屋からエメラルダが脱走した時に、知人である者達が全員いなくなってしまった。

 そうしたら、またたくまに国は混乱してしまった。


 王や王子は、常日頃から疑心暗鬼に囚われていた。

 だからそのため、できるだけ近くにいる人間を減らそうとして、人員を減らしてきたつけがまわってきたのだった。


 それに、疑わしい者は全て罰してきたため、代わりになる人間がいなかったのが、大きな問題だった。


「なぜだ! なぜこんなことになるのだ!」


 しかしそれすらも、王子は理解できなかった。


 王や王子に気に入られていた者達しか残らなかったという事は、彼等に都合の良い事しか喋らない者達しか残らなかった事になる。


 自分に都合の良い話しか聞いてこなかった彼らは、どうしていきなり国がまわらなくならなかったのは理解できなかったのだった。


 そこに、刃物を持った怪しい人間がやってきた。


「貴様! まさか王たちの命を狙って。ぐわぁぁぁ!」


 その人間は、コネで出世した兵士達を瞬く間に倒し、王や王子達に近づいていく。


「ひぃっ、助けてくれ!」

「やっ、やめろ! 誰にはむかっているのか分かっているのか!」


 彼らは命乞いをしたが、刃物をもったその人物は聞く耳を持たなかった。


「国をおかしくした罪を、その身であがなえ!」

「ぎゃあああああ!」

「うわぁぁぁl!」


 哀れな王と王子は、振り下ろされた刃物の餌食になってしまったのだった。



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