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#23 忍び寄る影

「私たちはどうする。リオン教諭はああ言ったが彼女は今朝の一件で私たちの実力は既に把握してるのではないか? クラスメイトと親睦を深めるって言ってもあの様子だと手を抜く方が疲れるぞ」


 模擬戦中のクラスメイトの動きに視線を移す。

 あの数の受験者から選ばれた生徒であり、一番上のAクラスなのだから動きも申し分ない。だがロザリオから見ると少し物足りないという感じだろうな。

 いずれは強さの高みに登れる者たちだが今は宝石の原石。磨きをかけないと宝石は光を放たない。


 そのためのリオンの投入。リオンがいればどんな原石も完璧に磨き上げるだろうというのがカナリアさんの考え。少々やりすぎのところは目を瞑るとして……。


「でもこのまま親睦を深めないのも良くないだろ。戦いを通じて互いのことを知るチャンスだ。彼らとの関係を築いて悪いことなんてない」

「それもそうだが、ならば誰と手合わせをする。お前から見て良さそうな人間はいるか?」

「他人の実力を見極めるのは君の得意分野だろ。まあいいや。良さそうな人間っていうのは曖昧な表現だが──」


 クラスメイトの一人一人に視線を巡らせる。そして、俺たちは()()自分の腰に触られたことに気付いた。

 それに気付いた時には二人とも反射で身体が勝手に動いており、背後にいた少女から距離を取っていた。


「……ロザリオ、気付いてた……?」

「……いいや、まったく。触れられるまで全然わからなかった」


 念のため聞いておくけど【ユグドラシルの枝】は感知出来たか?


《いえ、接触まで契約者に迫る気配は感知できませんでした……》


 あの常に自信ありの【ユグドラシルの枝】さんに動揺が見て取れる。まあ、感知できてたら触れられる前に報告してるよな。【ユグドラシルの枝】ですら感知できなかったこの子はいったい。


「そ、そんなに警戒しなくても……。ちょっとビックリさせようとしただけなのに」


 慌てるように両手を振り敵意がないことを示す少女。ガイダンスの時の自己紹介で名前は知っている。


「君は……エディ・ローレンスさんだったな」

「そそ。そっちはアルク・アルスフィーナ君にロザリオ・アルベルトさんでしょ。クラスメイトだし〝アルアル〟と〝ロザリン〟って呼ぶね。二人も気軽にエディって呼んでよ」


 あだ名までつけて一気に距離感を詰めてくるエディに不思議と不快感は覚えなかった。ただ気になることが一つだけ。


「どうしてアルアルなんだ?」

「アルク・アルスフィーナでアル・アルって続いてるからアルアル。ロザリンはロザリンって呼んだ方が可愛いからだよ」


 なんとも単純な理由だった。誇らしげに語る彼女だが俺たちはそれを理解するのに少々時間がかかった。


「で、エディは俺たちに何か用事か? 模擬戦の申し込みとか」

「いやいや、リオン先生の圧に平然としていた二人に模擬戦を申し込むなんて恐れ多いよ。ぶっちゃけた話、他のみんなだってちょっとだけ距離を置いてる」


 はっきり言うエディだがその事に関しては薄々感づいていた。

 クラスも一日二日である程度のグループが出来ている。

 仲の良い者同士、気の合う者、更にAクラスにはこの国の王女様までいるわけだ。

 王女様のグループは側近(?)が近づけさせまいとした険しい顔で周りを威圧している。あそこには近付けそうにないな。

 それと俺たちも王女様のグループ同様距離を置かれている。別に威圧しているわけはないが、特別推薦枠という(いつもと変わらない)理由だな。俺たちだって普通の人間なんだから徐々に慣れてほしい。


「まあ、私は話してみたいって思ったから声をかけたんだけどね。でも普通に話しかけるのも面白くないから驚かせようとスキル使って近付いたら凄い速度で離れちゃうんだもん。こっちがビックリしちゃった」

「あれはスキルによるものだったのか。良ければどんなスキルなのか教えてくれないか?」


 ロザリオが問うが俺も気になっていた。

 しかしクラスメイトでも手の内を明かすのは得策ではない。俺だって【ユグドラシルの枝】の能力については誤魔化している。

 だがエディは別に隠すつもりもないと使用したスキルの説明を始めた。


「私が使ったスキルは〝完全気配遮断〟だよ。一般の〝気配遮断〟と同じ効果だけど〝気配遮断〟は達人クラスになると見破られる可能性がある。その点私のスキルは相手に触れるまで絶対に見破られない。けど不便なところもあって……これは実際に見せた方が早いや」


 そう言うとエディは地面に落ちていた小石を拾って俺たちに見せる。


「いい? これから何があっても私だけを見ててね」


 エディは小石を高く放り投げる。

 彼女は何があっても目を逸らすなと言っていた。俺もロザリオもそれを守ろうとしていたが、生き物は意識せずとも動くものに視線が誘導されてしまう。

 案の定、俺たちも小石に視線を移してしまった。小石を見たのは一瞬だけだったがその間にエディの気配は完全に消えた。そして、再び背中を叩かれる。


「もうっ、私だけ見ててって言ったじゃん。このスキルの難点は〝気配遮断〟と違って完全に相手の意識を逸らされた状態でしか発動できないから結果的には成功しちゃったけど」

「そんな……一度ならず二度までも……」


 衝撃の事実を知ったように落胆するロザリオ。それを余所に俺はエディに称賛の言葉を送った。


「凄いな。俺も〝気配遮断〟のスキルを持っているけどエディとは格が違うことを思い知らされたよ」

「へへへ、あのアルアルがそう言ってくれるなんて嬉しいな」


 誉められた彼女は照れ隠しに頭を軽く掻いた。


 一つ【ユグドラシルの枝】に聞きたいんだけど俺も〝完全気配遮断〟とやらは使えるようにならないのか? そうすればリオン相手でも優位に戦えると思うんだが。


《スキル〝気配遮断〟と〝完全気配遮断〟は似て非なるものです。取得するには別条件が必要なため解析は進めますが現時点では難しいかと。それと仮にスキル〝完全気配遮断〟を取得したところでリオン・アルスフィーナ氏に通用する確率は非常に低いです》


 出来ないことはないが時間はかかると。だがリオンに通用するかはやってみなければわからないだろ?

 なんてことを思っていると──


「そこだぁぁっ!!」


 突然ぐるりと振り向いてロザリオは剣を振り下ろした。しかも俺に向かって。怪我しないように受け止めるが本気でなくとも一撃に重みがある。

 って、気合い入れて「そこだぁぁっ!!」じゃないんだよ。危うく俺が真っ二つになるところだった。


「いや、何してるの……」

「エディに頼んでもう一度スキルを使って貰ったんだ。で、気配を感じ取ったから剣を振り下ろしたらお前がいた」


 そりゃあ、いるだろうよ。

 エディのスキルは相手に気配を感じ取らせないのが売りだ。なのに気配を感じ取れるなんてことはない。となれば身近で感じ取れる気配など俺しかないのだ。

 ふぅ、と深く呼吸をして何事もなかったように剣を鞘に戻すロザリオ。エディも姿を現したが先程のロザリオの気迫とそれを受け止めた俺に驚いている様子だった。


「や、やっぱり二人は格が違うと言うか……。そうそう格が違うと言えば、さっきリオン先生にも〝完全気配遮断〟を使って後ろに回り込んでみたんだ」


 ほう、それは興味深い話だ。

 あの無敵に見えるリオンとて気配を完全に消した相手では多少は隙を突かれるだろう。それに〝完全気配遮断〟が通用するとなればますます取得しなければならない。  

 して、その結果は──


「結果は気付かれることなく後ろに回り込めた。でもね、それに浮かれちゃったのがダメだった。攻撃を仕掛けようとした時、一瞬揺らいだ気配に感づかれてやられたよ。試合には勝ったけど勝負には負けたって感じ。けど凄く褒めてくれたよ。自分の背後に回れる人間は数少ないって」


 ああ……本当は何となくはわかっていたよ。

 背後に回って攻撃を仕掛けるのに一秒も必要ないだろう。それに反応して無力化させるとなればどれほどの反射神経が必要になるのか。

 エディの言葉を聞いて俺たちはリオンが化け物であることを再確認したのであった……。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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