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猫のように。

作者: 木俣真弥

猫のように思うがままに生きてみたい、と男は深々と息を吐く。

それを聞いて、かさかさと笑う声は言った。


それはお前さん、無理ってものさ。

思うがままに生きてなんていたら、せわしなくて仕方がない。

考えてもごらんよ、思いは目まぐるしくとめどなく後から後から巡り湧くものだ。


腰を下ろして休みたい、と思い腰を下ろした時には腹が減ったから何か食べたいと思う。

塩気の効いた魚でも食めば、喉が乾いたから茶が欲しいと思うだろう。

眠ろうと目を閉じた時にはお天道さまの下を歩きたいと考えちまうのさ。


と、暗がりからとつとつと聞こえる声に、男は苛々と唾を吐く。


うるせえ、揚げ足ばかり取りやがって。

そもそも俺が言いたいのはそんな単純なことじゃあないんだ。

ああ、いや、いっそそうさ、そのくらい何も考えずに生きてみたいって意味さ。

食って寝てぶらぶら歩いて、そら、まるで猫じゃないか。

そんなふうに生きたいんだよ、俺は。

何にも煩わされず、自分のしたいままに生きたいだけなんだ。


次第に荒ぶり、吐き捨てるように投げやりに放られた声に、またしてもかさかさと笑い声が返る。


そうかい。そうかい。

なんとも難儀な毎日を送っているようじゃあないか。

なら、どうだい。

いっそ猫になって生きるというのは。

食って寝てぶらぶら歩いて、何にも煩わされず、思うがままに


笑いを含んだ声が粘り気を帯びていく。

苛立ちを鑢で撫でるような物言いに、男はぐんと足を踏み込むと暗がりへと思い切り足を振り上げた。

ぎゃっという声に、蹴り飛ばした先を見てみれば、そこに転がるのは壁に打ち付けられて赤黒く汚れた小さな、


ふん。猫が。


小さく痙攣を繰り返すそれを見下し、男はひとつ鼻を鳴らすと暗がりを抜け出す。

引きずるようだった足取りは弾むように軽く、知らずと口許に笑みが上ってくる。


細い月灯りの下、男は押さえることもなく笑った。


かさかさと。


かさかさと。

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