24
女は去って行った探偵の背を、見えなくなるまで見守っていた。
一人になって、また海の方を見つめる。それは、他人から見ると、海の向こうにある大陸に、思いを馳せている人物ようにも見えた。
「そろそろ、哲也くんが目覚めるかもしれません」
どこからか、女に話しかけるものがいた。女は声の方に振り向く。そこには長髪に黒いスーツを着た怪しげな男と、短髪の爽やかな印象がある若い男が立っていた。対照的な二人だが、どこか危険な香りがするのは共通していた。
「哲也くんの記憶、消す予定だったのでは?」
長髪の男の質問に、女は海の方に視線を戻しながら答える。
「彼にプロテクトをかけた時点で、異能をデリートされたと同時に記憶も消去するよう、仕掛けておきましたので、必要はありません」
「そうでしたか。それなら、どうしてここへ?」
「彼に会いに来ました。ここいくるだろう、と思っていたので」
「彼? さっき会話していた男ですか?」
女は頷く。
「もしかして、今の彼が…?」
男の問いに、彼女は頷く。
「はい。新藤晴人…如月葵の助手です」
「なるほど…確かに、誠実そうですね。そして手強そうだ」
「味方になってくれると良いのですが」
「貴方が目を付けるほど、有能なのですか?」
「どうでしょう。しかし、人々が持つべき心を抱いているのは確かです」
「異能がどんなものか、ということは関係ないのですね。そして、肉体的な強さも重要ではない」
「はい。ただ、彼が傍にいてくれたら、心強い…というだけかもしれません」
女の言葉に険しい表情を見せたのは、先程から黙ったままの短髪の若い男の方だ。
それから十秒ほど、沈黙が続き、三人はただ海風に吹かれていたが、やがて女は溜め息を吐いてから言うのだった。
「ずっと、こうしていたい。でも、私たちには時間がありません。そうですね?」
長髪の男は頷く。
「はい。貴方はやるべきことが、たくさんある。だから、行きましょう…野上麗。私の…いえ、異能者の救世主」
男に促されるように、女は歩き出す。その先には、太陽の輝きが降り注ぐようだった。
女…野上麗は、光を浴びるように歩みを進める。
その姿は、まさに人々を…異能者と呼ばれる迷いし人々を導く、救世主のようだった。
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