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「一人でどうにかしようとするな、と私は言ったはずだ」


如月は溜め息交じりに言いながら、たった今、包帯を巻いてやった新藤の頭を叩いてやった。


「い、痛いです」


「それだけで済んだなんて、ラッキーだよ。君は」


苦笑いする新藤に、如月はもう一度溜め息を吐いた。


二人は事務所に戻っていた。

あの後、新藤は意識を取り戻して、如月に連絡を入れたのだった。


如月は哲也と出会った道の周辺を捜索したが、何も得るものはないと判断したところだったので、合流することにしたのである。すると、頭から血を流した新藤が車で迎えに来たものだから、ある程度の事情を察し、まずは治療ということで、事務所まで戻ったのだ。


「本当にその通りですね。あんなに強力な異能、初めてですよ」


「そんなに凄かったか?」


「はい。何て言うか…洗濯機に放り込まれたみたいって表現がありますけど、本当にそれでした。どこから攻撃が飛んでくるか分からないし、それに接触してしまったら、車にはねられたみたいな衝撃を受けました」


「回避は不可能なのかな」


「はい…。いえ、何となく気配のようなものは感じられるので、集中すれば一つ一つは躱せると思います。ただ、複数の方向から同時に…となると運が良くなければ無理ですね」


「なるほど。いくら君でも正面から向き合って戦うのは無理だね」


「この様ですからね」


新藤は苦笑いのまま肩を落とした。


「それで、次の彼の目的は何だと思う?」


「彼はこの街そのものを敵視しているようでした。どんな方法を使うかは分かりませんが、街全体に、何かしらの被害を与えるつもりみたいです」


「……どんな方法を取るか、想像も付かないな」


「あ、そうだ。もう一つ候補があります。彼は担任の教師にかなり恨みを持っているみたいでした。どうもイジメられていることを主張しても、聞き入れてくれなかったみたいですね」


「哲也は、その教師に復讐するつもりで学校へやってきたのではないのかな」


「そうだったんですけど、その現場に僕が割って入ったので、教師は途中で逃げたんです。哲也くんからしてみたら不完全燃焼だったと思いますよ。だから、哲也くんはしっかりと復讐するために、また教師のもとに現れるんじゃないかな」


「有り得るな。その教師の住所は?」


教師の住所はすぐに判明した。哲也の母に聞くだけで、事足りたのだ。


「もし、遭遇したらどうすれば良いですか?」


新藤の問いに如月は肩をすくめた。


「不本意だけれど、私に任せておきなさい。きっと、あの少年は調子に乗っているだろう。浮ついているだろう。有頂天になっているだろうさ。まさか、自分の異能が通じない相手がいるなんて、考えてもいない。私を目の前にしたら、ただの子供。あまりに簡単は話だ」


「正直、それは助かりますね。あれだけの異能力…一人で抑え込むのは、かなりリスクがありそうですから」


「任せておきなさい」


そう言ったものの、如月の顔が曇って行く。そして、何か考え込むように指先を顎に当てた。


「それにしても…やはり奇妙だ。いくら何でも成長が早過ぎる。いくら眠っていた才能があったとしても、君にそこまで言わせるほど強くなるものかな」


「すみません。何も言葉がありませんよ」


「いや、君を責めているわけじゃない。何か裏があるかもしれないから、慎重に行こう」


二人は意気込んで哲也の捜索へ向かおうとしたが、それよりも先に事務所の扉が開かれた。突然の来客に新藤も如月も目を丸くする。その人物は長身に質の良いスーツを着こなした男。端整な顔付は、ホストではないかと思えるほど、色気があった。だが、その男はホストではない。警察である。


「な、成瀬さん…どうしたのですか?」と新藤は尋ねる。


その人物…成瀬が如月探偵事務所に顔を出すことは、決して珍しいことではない。それなのに、新藤も如月も意外だと言う顔をしているのは、成瀬が見せたこともない顔をしていたからだ。いつも絶対的な自信と余裕を見せる成瀬が、明らかに顔色が悪い。何か言いたげに下顎が動いているが、どうやら言葉が詰まっているようだ。いつも優雅かつ流暢に会話するこの男にしては珍しい。思わず首を傾げた新藤に対し、成瀬はようやく口を開いた。


「……乱条が」


つい先日、事務所にやってきた乱条は、成瀬の部下だ。また、どこかで暴れ回って問題を起こしたのだろうか、と新藤は想像した。絶対的な戦闘力を誇る乱条だ。きっと、やり過ぎでトラブルになってしまったのかもしれない。


「乱条さんですか? またどこかで喧嘩でも?」


新藤はそんな皮肉を口にしたが、どうも成瀬の様子がおかしい、と考え直す。新藤の疑問に答えを出すように、成瀬は言った。


「乱条が…ガキにやられた」


「え?」


新藤とも如月も、改めて目を丸くするのだった。

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