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五人の少年が地面に額を擦りつける様子を見て、哲也の気持ちは少し落ち着いた。リーダーの少年の骨を折るようなこともしなかった。こいつらは死ぬほど憎かったが、これで十分だろうと思えた。


それは自分の方が圧倒的に特別な存在であることを見せつけられたし、さらに痛めつけたところで何の面白味もなさそうだったからだ。


だが、復讐の相手はまだいる。

自分を助けなかった、担任の教師である、あの男だ。


じわじわと恐怖を与えてから、痛みを味わってもらわなければならない。どんなに助けを求めても、誰も助けてくれない恐怖を。


哲也は五人の少年を従えて、廃墟のビルへと移動した。家に帰るつもりはなかった。何か理由があるわけではない。何となくハイテンションで、もっと王様気分を味わいたかったのだ。


「僕は何日か、ここで暮らすことにした。今日の九時までに、僕が眠れる場所と食べ物、それから着替えを用意しろ。新しいものにしろよ」


「九時まで、って…そんな時間までに用意できないし、家を出ることもできないよ」


少年の一人が思ったことをそのまま口にしてしまった。すると、どこからか瓦礫が飛んできて、その少年の背中を打ちつけた。驚きと痛みに、その少年は倒れ込んで、小さな悲鳴を上げるが、さらに哲也に蹴り飛ばされてしまう。


「お前たちは本当に間抜けだな。それくらい、自分たちで考えて何とかしろよ。一分でも遅れたら、お前たち全員の家を潰してやるからな」


少年たちは何とか食料と着替え、寝袋を用意して戻ってきた。約束の時間を十分過ぎていたことを確認した哲也は少年たちに言った。


「お前たちさ、裸になって一対一で殴り合えよ。それで面白かったら許してやるからさ」


少年たちが殴り合う姿を見て、哲也は手を叩いて喜んだ。


「よーし、次の任務は明日の朝に伝えるから、七時にここ集合だ。遅れたときのために、新しい罰ゲームを考えておいてやるよ」


次の日の朝、少年たちは全員が約束の時間に集まることはなかった。全員が集まったのは、やはり十分は過ぎていた。今度は何をされるのか、恐怖で仕方なかったが、家を潰されるよりはマシだと哲也に頭を下げた。しかし、哲也が見せたのは意外な反応だった。


「お前ら、昨日は僕に散々やられてムカついただろ? 僕を殴って良いぞ」


哲也はどこか上機嫌である。少年たちはどうするべきなのか分からず、顔を見合わせた。


「遠慮するなよ。殴り返したりしないからさ。むしろ、殴らなかったら、昨日より酷い目に合わせるからな」


少年たちは仕方なく哲也を殴った。哲也はいくつか痣を作り、顔も腫れ、痛々しい姿となったが、本当に仕返しすることはなかった。むしろ、上機嫌のまま


「良し、皆で学校に行こうじゃないか」


と言うのだった。そして、学校に向かう途中、哲也は自分の目的を話した。


「僕はお前らにイジメられたって先生に言うからな。もし、先生がお前たちを叱ったら、何もしないでやる。でも、先生がお前たちを叱らなかったら、お前ら全員に同じくらいの痛みを味わってもらうからな」


少年たちは戦慄した。

何としてでも、担任の教師に叱ってもらわなければならない。


教師に叱られるよりも、このまま哲也に支配される生活の方が何倍も恐ろしいのだから。


教師は朝一番に哲也の腫れあがった顔を見て驚いたようだったが、それについて何も触れなかった。少年たちは慄き、哲也は楽し気に笑みを浮かべた。


給食の時間が終わり、担任の教師が職員室へ向かったタイミングで、哲也も教室から出た。少年たちは固唾を飲んで、教師が自分たちを呼び出しに来るのを待った。


しかし、掃除の時間が終わって教室に戻ってきたのは、哲也だけだった。


「おい、お前ら…全員プールの横に集まれ」


「でも…授業が」


明らかに不機嫌な哲也。

人目がないところに行ったら、何をされるか分かったものではない。


何としても逃れたいところだが、哲也の目はそれを許してくれそうにはなかった。実際、プールと倉庫であるプレハブ小屋に挟まれた死角に連れ出された少年たちは酷い目にあった。


許してくれ、と何度も懇願する彼らに哲也は言う。


「今日の罰はこれで半分だ。次の任務を達成できたら、もう半分は勘弁してやる」


哲也の要求はアジト…あの廃ビルまで教師を連れて来い、ということだった。哲也はそれだけ言って、帰ってしまった。授業はさぼるらしい。


少年たちは、教師を哲也のアジトまで誘導できなかった。どんなに一緒に来てくれと懇願しても


「先生は忙しいんだよ。遊びには付き合っていられないんだ」


と突っぱねられてしまう。終いには、彼らは怒鳴り散らされた。


大人を遊びに巻き込むな、という話から始まり、普段の素行の悪さや成績の悪さについても、強い口調で指摘されるのだった。彼らからしてみたら、助けを求めたのだ。必死に命乞いをしたにも関わらず、平手打ちを食らったようなものである。


彼らは教師がなぜ助けてくれないのか、理解してくれないのか分からず、ただ泣いた。教師は最後に


「泣けば済むものじゃない。反省して今後の行いを改めろ」


と言って、彼らを突き放した。


なぜ、彼らの気持ちが教師に伝わらなかったのか。それは彼らがどれだけ真剣だったとしても、教師には向き合う気がなかったからだ。少年たちは哲也に報告へ行かなければならない。恐ろして堪らないが、行かなければもっと酷い目に合うかもしれない。行かないとい選択肢はなかったのだ。だが、少年たちの報告に哲也は意外と寛容だった。


「そうだと思ったよ。あいつは、お前たちの事なんて死んでも良いって思っているだろうからさ」


哲也のこの言葉で少年たちは「そうだったのだ」と事実を思い知らされる気持ちになった。


「仕方ない。僕の方から行くか。お前らも一緒に来いよ」


またも意外な提案に、少年たちは互いの顔を見合わせた。哲也は言う。


「あいつのせいで、お前たちは酷い目にあっているんだ。あいつが痛い目に合うところ、見たいだろ?」


哲也の凍えるような笑みを見て、少年たちは少しだけ頼もしいと思っていた。

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