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しかし、ゼナーカードは何度も練習したが、全くと言って良いほどダメだった。
やはり、僕には才能がないのだろうか、と落ち込んでしまう。次の日は学校が休みだったが、いつもの時間にいつもの川沿いの道に行くと、沢木さんは待っていてくれた。
僕はゼナーカードが上手く行かないことを相談すると、沢木さんは考え込むように唸る。
「そうだなぁ、超能力に色々あるから。もしかしたら、哲也くんはサイコメトリーは苦手な分野なのかもしれないね」
「他には何があるの?」
「テレパシーとか予知能力とか…念写能力って言うものもあるね」
沢木さんは色々な超能力の種類と、その違いを教えてくれた。僕が知らないだけで、超能力と言うものは、本当に色々と種類があるらしい。
「予知ができるからと言って念写ができるわけじゃないように、スプーンが曲げられるからと言って、ゼナーカードを当てられるわけじゃないんだ」
「それが苦手ってこと?」
「そうだね。もしかしたら、哲也くんはサイコキネシスに特化しているのかもしれない」
「サイコキネシス? 特化ってどういうこと?」
「サイコキネシスは念動力だよ。手で触れなくても物を動かす力。スプーン曲げもその一種だね。君は他の能力は苦手でも、サイコキネシスはとても得意なんだ。それが特化ということ」
そう言えば、ここ数日はゼナーカードばかり練習していて、スプーン曲げはやっていなかったことを思い出す。家のスプーンを曲げて、お母さんに見つかったりでもしたら、大変なことになるから練習なんてできないのだ。
「試しにやってみる?」
僕の気持ちを汲み取ったのか、それとも超能力で読み取ったのか、沢木さんはスプーンを取り出した。
僕はスプーンを手に取り、何度も念じてみたが、少しも曲がりはしなかった。僕は助けを求めるように沢木さんを見ると、彼は笑顔を見せた。
「集中力がいるものだから、毎回のように成功するものじゃないよ。要は練習で慣れることと、自分にはできるっていう自信を持つこと。哲也くんはゼナーカードが上手く行かなかったから、少し自信をなくしているのかもしれないね」
「家でも練習できると良いな…」
「焦って練習してお母さんに見つかったりでもしたら大変だ。でも、今日はこの一本だけ渡しておくから、家で練習すると良いよ」
僕は沢木さんが差し出すスプーンが、宝物であるかのように見えた。
「ありがとう!」
嬉しくて思わず大きな声が出てしまい、周りにいた人たちがこちらに振り向いた。沢木さんは一目が気になったらしく、どこか居心地が悪そうな顔をしていた。
僕は一人で帰りながら考えた。沢木さんはスプーン曲げもゼナーカードも両方できた。つまり、サイコキネシスとサイコメトリーの両方をできるらしい。どっちもできるなんて本当に凄いことだ。
家に帰って、僕はずっとスプーン曲げの練習をした。しかし、一度も成功することはなく、僕は自分には才能がないのでは、と気持ちが落ち込むばかりだった。
さらに、突然お母さんが部屋に入ってきて、僕はスプーン曲げの練習を見られてしまった。それどころか、僕は隠そうとして慌ててしまい、スプーンを落としてしまったのだ。
「これは何なの?」
お母さんはスプーンを拾い上げ、僕を問い詰めた。僕はどんなに叩かれ、怒鳴られても沢木さんのことは黙っていたが、スプーンは取り上げられてしまった。沢木さんにそのことを言うと、少しだけ顔色が変わったような気がした。
「ごめんね、沢木さん」
と謝ると彼は思い出したかのように笑顔を見せた。
「大丈夫だよ。僕のことを黙っててくれてありがとう。これからも、黙っててもらえると助かるよ。それから…一つお願いがあるんだ」
沢木さんのお願いというのは、明日から二人で練習する回数を減らしたいということだった。今までは毎日だったのに、月曜と水曜と土曜の、週三回になってしまった。僕がお母さんにスプーンを取り上げられてしまったことが原因なのかと聞いたが、彼は首を振って否定し、眉を下げて困った顔をするだけだった。これ以上、色々と聞いたら沢木さんに超能力を教えてもらえなくなる気がして、僕は何も言わなかった。
会う回数は減ってしまったが、沢木さんは今まで通り、一緒に超能力の研究を続けた。だけど、僕はあまり上達しなかった。ゼナーカードは何度やっても失敗ばかりで、たまに当たったとしてもただの運とういうレベルだった。
これでは、どう考えても超能力とは言えなかった。スプーン曲げも調子が悪かった。週に一回は曲げられたけれど、初めて成功したときのように、スプーンをぐにゃぐにゃに曲げることはできない。本当に少しばかり曲がる、という程度なのだ。これなら、両手を使って思いっ切り力を入れた方が曲がるだろう。
僕はもっと鍛えてもらわなければ駄目だと思った。沢木さんにそう言うと、何やら考え込むように押し黙ってから、真剣な顔で彼は言うのだった。
「今度、特別な練習を試してみようか」
彼は微笑んでいたが、どこか今までとは違う表情のように見えた。どこか恐れるように。どこか躊躇うかのように。それだけ、特別な練習なのだろうか。でも、僕は嬉しくて大きく頷いた。もっと超能力が使えるようになるなら、どんな練習でもやってみようと思ったのだ。




