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24

それから数日が経った。

新藤は、この日も乱条に荒らされた事務所の掃除だった。


如月はあの日から、事務所に顔を出すこともなかった。午後まで掃除を続け、やっとある程度は片付いたと思ったところで、如月がやってきた。


「おはよー、新藤くん。おや、もうこんなに片付いている」


「はぁ…ここ最近、ずっと掃除でしたから。少しくらい、如月さんにも手伝ってほしかったなぁ」


「いや、私は君の能力を信じていたからね。やってくれると思っていたよ」


そう言って、如月は自分の椅子に座ると、大きく溜め息を吐いた。何だか気怠そうである。


「寝てないんですか?」


「あー、うん。野暮用を片付けていてね。手も痛くて寝れなかったし。本当に今回の事件は災難だった。二度とごめんだよ」


「確かに、そうですね」


そんな会話はあったが、新藤は掃除を続け、如月は何もせず、ただ天井を眺めるという時間が流れた。だが、一時間も経過すると、新藤が「あっ」と顔を上げた。如月は目だけで新藤を見る。


「そう言えば、昨日、成瀬さんから電話がありました。今回の件について、謝罪と説明のために、こっちに顔を出すって言ってましたよ。たぶん、そろそろ来るんじゃないかな」


新藤の言う通り、それから十分も経たず、成瀬がやってきた。


「葵さん、この度は本当にご迷惑をお掛けしました」


「本当ですよ、こっちは大参事だったんですから」


頭を下げる成瀬に、新藤は小言を言うが、彼には聞こえなかったらしい。


「今回の被害額はすべて私の方で負担させていただきますので。手の傷、お加減はいかがですか? 僕がいれば、貴方に傷なんて作らせなかったのに…」


「それは頼もしいことです。それよりも、あの乱条と言う方は…何者なのですか?」


如月の質問に、成瀬は溜め息を吐く。


「彼女は異能対策課の新しいメンバーです。上に人員不足を訴え続けたところ、何とか古くからの知り合いを入れることができましてね。腕は立つのですが、知っての通り、性格に難ありというやつです。毎回、如月探偵事務所には痛い目に合わされる、と説明したら、急に姿を消したので、もしや…と思ったのですが」


「それで、私の事務所に乗り込んできたのですか?」


流石の如月も驚きを隠せないらしく、唖然としている。


「はい…。殴ることでしか、問題を解決できないようなやつなんです。異能者も見つけたら、全員殴り殺せば良い、と勘違いしていまして。とにかく、きつく言っておきましたから、どうかお許しください。おい、乱条…てめぇの口から謝罪がまだ出てねぇぞ」


成瀬の紳士的な態度が急変する。そして、乱条という言葉に、如月が顔を青くした。事務所のドアがゆっくりと開かれ、そこから顔を出したのは、明らかに納得していない表情の乱条だ。


成瀬の前では、常に涼しい顔の如月が、新藤の顔を見て何かを訴えている。新藤は溜め息を吐き、できるだけさり気なく、如月のすぐ横に移動した。すると、彼女は新藤のスーツの裾をつまんで、恐怖を訴えてきた。


乱条は如月の正面に立たされたが、決して目を合わそうとはしなかった。だが、その態度に成瀬が睨みを利かす。その表情に気付いた乱条は、痛みに耐えるように、歯を食い縛ったあと、頭を下げた。


「どうも、すみません、でした」


それは謝罪の言葉ではあったが、怒りがこもっているのは、一目瞭然である。


「本当に反省しているんだろうな?」


「はい、深く反省しています。二度と如月探偵事務所を襲撃するような真似は、いたしません。本当に申し訳ございませんでした」


明らかに、用意したセリフを言わされている。


「反省したなら、すぐに出て行け。葵さんに、その暑苦しいツラを見せるな」


「はい」


乱条は如月を一睨みして、踵を返した。


「葵さん、お詫びとして、今度食事でもどうですか?」


成瀬の言葉に、乱条が振り返る。まさに鬼の如く眼差しで、如月を射抜いていた。それから、成瀬のしつこい誘いが続いたが、徒労だと悟ったか、帰る素振りを見せた。しかし、事務所を出る直前に、成瀬は言った。


「しかし、乱条が入ったことで、異能対策課はかなり強くなりましたよ。これで、如月探偵事務所に後れを取ることは決してありませんので、お覚悟を。それでは」


爽やかな笑みを残し、成瀬は去って行った。


「確かに厄介だぞ、新藤くん」


「ですね。乱条さん…強さは、本物でした。五回やったら、三回勝てるかどうか…」


「確実に五回勝てるようにしてくれ。もう二度と、あの女に追いかけ回されたくないからな」


「分かりました」


それから、また一時間ほど、新藤は掃除、如月は何もせず天井を見つめる時間が流れた。来客があったのは、昼も過ぎたような時間だった。



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