表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/251

22

死神は如月の能力発動によって止まった。立ったまま、項垂れるようにして、動かない。これには新藤も乱条も、目を丸くした。


「強制的にメンテナンスモードに移行した。十分か十五分は動かないから、その間に、ミャン太氏の異能も解除させてもらおう」


そう言って、如月は新藤とミャン太の傍まで移動した。


「近寄るな! 吾輩は殺す! 怒りと憎しみで、魂が濁り、地獄に落ちるのだとしても、やらねばならぬ!」


如月は獰猛な獣のように暴れるミャン太に、手を伸ばす。


「如月さん、危ない!」


新藤が声を上げたが、如月は手を引っ込めることはなかった。そして、ミャン太の爪の先が、如月の手の平に突き刺さる。


道端で泣いていた猫を撫でようと、手を伸ばした結果、引っ掻かれてしまったようでもあるが、そんなものとは比べ物にならないほど、傷は深かい。


それでも、如月は手を引くことはなく、逆の手でミャン他の手を包む込むのだった。


「私は、君にかける言葉が見つからない。私も君と同じ立場だとしたら、復讐を選ぶだろう。もしかしたら、この世界そのものだって、壊してしまえと考えるかもしれない」


その言葉に、新藤は不安を感じずにはいられなかった。何だか、いつの日か、如月がすべてを捨てて何もかも壊してしまう、という選択をしたら…自分はどうするべきなのか、と一瞬考えてしまった。


如月は続ける。


「だが、今はその立場にいない。だから、君を止めることしかできない。本当にすまない。この世界が理不尽であることを詫びよう。そして、次生まれるときは、どうか安らかで幸福な人生を選べるよう、ただ強く祈る」


如月が再び黄金の光をまとった。そして、ミャン太の体へと移動するように、光が流れ込んでいく。その光は、ミャン太の意識を薄れさせるのか、重たい瞼を何とか開かせているようだった。


そして、彼は言葉を残した。


「この憎しみは、呪いとして永遠に残る。お前たち人間が、全員悔い改めたとしても、その命を呪い続ける存在がいることを忘れるな」


光が少しずつ消滅し、それに合わせて、ミャン太の意識も消滅したようだった。ミャン太…いや、宮崎は眠るようにして、新藤に体を預けた。新藤は覆い被さる宮崎を傷付けることないよう、ゆっくりと立ち上がった。


「如月さん、手…大丈夫ですか?」


「痛いよ。でも、ミャン太氏の痛みに比べれば、大したことはないだろう」


如月は一部始終を見ていた、あの男に振り返った。


「それよりも、この男…拘束しておくべきだろう。宮崎静流の体は、私が預かろう」


「ありがとうございます。でも、如月さん…ちょっと遅すぎではありませんか?」


新藤が言うと、如月は何を思い出したのか、突然彼の後ろに身を隠した。


「忘れてた。あの女が怖くてね、なかなか近寄れなかった」


如月が言う、あの女とは、もちろん乱条である。


「ずっと見てたんですか?」


「途中からね。やっとあの女が動けなくなったみたいだから、こうして出てこれたんだ」


「如月さん…そんなに怖いんですか?」


「当然だ。あんな化物、遭遇したことない」


「どっちが化物だよ」


と言ったのは乱条だ。


ダメージが抜けない体を引きずるように、新藤の方へ詰め寄る。如月は新藤の背中にしがみ付き「うわ、来たぞ。早く追い払ってくれ」と言った。


「あのコスプレ野郎を動けなくできるって、どういう原理だよ」


乱条は悪態を付くようにそんなことを言いながら、どこからか手錠を取り出すと、例の男をあっさりと拘束した。


「事情は知らないが、こいつが元凶なんだろう?」


「乱条さん、その手錠…本物ですか?」


「……そんなことは、どうでも良いんだって。それより、新藤…そろそろ、あたしたちの決着を付けないとならないよな」


「け、決着?」


「ああ。もう恩は返した。だったら、あたしは自分の仕事に戻れる。でもって、あたしの仕事ってのは、その赤い髪の女とお前をぶちのめすことだ」


赤い髪の女、と言われ、如月は小さく悲鳴を上げたが、少しだけ顔を出して乱条を睨み付けた。


「どこの誰か知らないが、もう許さんぞ。徹底的に打ち負かしてやるからな。行け、新藤くん」


しかし、当の新藤は溜め息を吐くばかりだ。


「あの乱条さん…今日はやめませんか? そもそも、何で如月探偵事務所に……」


そう言い掛けて、新藤は後回しにしていた思考が、突然動き出した。


「あれ、そう言えば、何で成瀬さんは……」


新藤の言葉に、乱条の肩眉が上がった。そして、どこか動揺したかのように、一歩後退する。すると、強い光が、新藤たちを照らした。


どうやら、車が一台、こちらに接近してきたようだ。


その車が停止すると、中からスーツ姿の長身の男が現れる。一見、ホスト風の男だが、彼は公安警察異能対策課の成瀬であった。


「乱条、何しているんだ、コラぁー!」


成瀬は深夜であるにも関わらず、凄まじい怒号を放った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ