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17

新藤の中で結論は出ないまま、如月との合流地点に到着した。如月の姿はない。宮崎は罪悪感が重たいのか、口を開くことはなかった。


新藤はその空気に耐えられないことに加え、如月の到着が遅いので、電話をかけることにした。電話はすぐにつながる。


「如月さん、大丈夫ですか?」


「もうちょっとで到着すると思うんだけど…」


「時間、かかり過ぎてません?」


「それがだね…さっき、後ろから誰かに追いかけられて、あの乱条という女じゃないかと思って、隠れたのだけれど、ただのジョギング中のおじ様だった。そんなことを繰り返していたら、時間がかかってしまって」


「怖がり過ぎじゃないですか?」


「私にとって、あの女は今までにない脅威だ。正直、怖くて仕方がない」


「そ、そうですか。迎えに行くので、如月さんは隠れている、というのはどうですか?」


「そうしたいね、確かに。でも、もう少しだから大丈夫。頑張る」


「なんだから、子供のお使いみたいですね」


「馬鹿にするんじゃない。そう言えば、宮崎静流には聞いてみたかい?」


「ああ、はい」


新藤は宮崎から聞いた話を如月に伝える。


「なるほどね。宮崎静流はミャン太氏の感情に、感化…いや、同調しつつあったのかもしれないね」


「同調、ですか?」


「うん。他人の感情が、そのまま自分の心の中にあるようなものだ。生の感情に触れたら、それと同じような気持ちになるんだろう。ミャン太氏が怒りを感じていたら、宮崎静流も怒りを感じる。ミャン太氏が悲しみを感じていたら、宮崎静流も悲しみを感じる」


「宮崎さん、どんな感情か分からなかった、と言ってました」


「だから、同調しつつあった、と言ったんだよ。恐らく、二人は根本的な相性のようなものが悪かったのだろうね。もし、似た気性の持ち主だったり、例えば宮崎がハルカなる人物と同じタイプの人間だったりしたら、完全に同調していただろう。下手をすれば、感情が融合していたかもしれない。そうならなかったのは、宮崎静流にとっては、不幸中の幸いだろうな」


「ちょっと待ってください。それはおかしいです」


「どうして?」


「ミャン太さんは憑依の相手として、宮崎さんを選んだ理由を、ハルカさんに似ていたから、と言っていました。だとしたら、宮崎さんとミャン太さんの同調が強くなるはずですよね。でも、宮崎さんは同調しつつある、という程度に止まりました。これは、どういうことなんでしょうか?」


「うむ、確かに」


二人は黙り込んでしまう。新藤は少し考えてみたが、今それが重要だとは思えなかった。先にやるべきことをやるのが正しいのだろう。如月に、それよりも合流を優先しよう、と言い出そうとしたが、彼女がそれはそれを遮った。


「待て、新藤くん。ミャン太氏が宮崎静流とハルカなる人物が似ている、と…言ったのか?」


「え? はい、言いました」


新藤は、ミャン太のその発言が、重要だとは思っていなかった。納得できる理由だ。その程度にしか、思わなかったのだ。だが、意外にも如月は、何かに引っかかったらしい。いや、ひらめいたのかもしれない。


「似ている、と確かに言ったか?」


「いえ、そう言われると…そうだ、似た匂い、と言っていたかな」


「……なるほど」


如月が黙り込んだ。新藤は何が何だか理解できず、如月の思考を少しでも知りたかった。だが、同時に彼女の思考を一瞬でも邪魔してはいけない、とも思った。


「新藤くん、宮崎静流とハルカは似ていない。そう仮定して…ミャン太氏の言う、匂いが似ている、とはどういうことだと思う?」


「それは…雰囲気みたいなことじゃないですか? こいつは同属だ、みたいな何かを嗅ぎ分けたのではないでしょうか」


「それは、鼻の弱い人間の比喩表現だと私は思うのだよ。ミャン太氏は猫だ。同じ匂いがした、というのは、比喩ではなくて、本当にそう感じたのではないか」


「同じ匂い…香水とか、そういうことですか?」


「もし、偶然にも同じ香水を使っていたとしたら、私の推理は破綻してしまうが…例えば、もっと染み付いた匂いだとしたら、何だと思う?」


「染み付いた匂い、ですか?」


「……宮崎静流とハルカの、生活圏が非常に近しい、とか」


「家が近いってことですか?」


「もう、じれったいな。日中、赤の他人とずっと同じ空間にいる、唯一の場所があるじゃないか。例えば、私と君がそうであるように」


「……職場が一緒?」


「そうだ。新藤くん、宮崎静流に確認してほしい点は二つ。香水を日常的に使っているかどうか。職場に下の名前がハルカ、という人物はいないか、ということだ。確認したら、すぐに電話をくれ」


「分かりました!」


新藤は電話を切って、宮崎の方へと駆け寄った。そして、例の二点を確認した。


「香水は使っていません。ハルカ…そう言えば、入嶋さんが、晴香って名前だったかも」


「猫、飼ってたんじゃないですか?」


「そこまでプライベートな話をしたことはないのですが、猫の小物とか持ち歩いていました。今週…ずっと無断欠勤でした!」


新藤は頷くと、すぐに如月へ電話を掛けた。


「如月さん、入嶋晴香という人物を調べてもらえますか?職場の住所も必要なら、お伝えしますよ?」

「必要ない。十分で彼女の住所から電話番号、家族構成まで調べてやるさ」


如月が電話口の向こうで、不敵な笑みを浮かべたのが分かった。

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