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「金髪で…スカジャン、ですか?」


話を聞き終えた新藤は、如月に確認する。


「うん。ほんと、凄い怖かったんだから」


新藤は、如月の話した、襲撃者の姿を鮮明に描くことができた。なぜなら、つい先程、その人物に限りなく近い姿の人間を見たからである。自分があのとき、抱いた違和感のことを思い出す。


なぜ、こんな派手な人物が、これだけ地味な等々力ビルに用事があるのだろう、と思ったのだ。


そして、自分が等々力ビルの場所を教えなければ、こんなことにならなかったのでは…と思ったが、それについては如月に伝えないでおくことにした。


如月はハンバーガーの効果で、少し落ち着いたようだが、やはりどこか恐怖があるのか、隣の新藤にぴったりとくっついて離れようとしなかった。傍から見れば、恋人に甘えられているように見えるかもしれない、と新藤は思った。


「でも、その人は…如月さんには止められなかった、となると異能者ではないことになりますよね?」


「うん。異能者でもないのに、あんな化物…有り得ないよ。絶対にパラメーターの割り振り、間違ってるって」


如月はか弱い女に見えるが、それなりに身体能力は高い。普通の人間の襲撃であれば、ちょっとした労力で追い返すことができただろう。しかし、それを物ともせず、これだけの破壊をもたらした、その女…いや、あの乱条という女は、何者なのだろうか。


新藤は何か重要なことを忘れている気がしたが、それを思い出そうとしたところで、何者かの気配を感じた。再び襲撃者か、とドアの方を見ると、ゆっくりとドアが開かれた。そして、不安げな表情の女が顔を覗かせた。


「あっ、すみません…お掃除中でしたか?」


女は事務所の散々な状態を見て、驚いたらしかった。確かに、この状況を見れば、地震が起こったか、大掃除の最中だと思うことだろう。そして、新藤は女の顔を見て、思い出そうとしていた重要なこととは、別の大事なことを思い出した。


「あ、宮崎さん。早速来てくださったんですか?」


「は、はい…すみません」


「えーっと、散らかってますが、どうぞ」


新藤は応接用のソファから立ち上がると、如月も立ち上がった。


「どうぞ、こちらに」


と言って、新藤は宮崎をソファに促す。


普段であれば、二つのソファが向き合っていて、依頼者とは顔を合わせて会話する。しかし、もう一つのソファは何があったのか、へし折れて使い物にならなかった。


新藤は辺りを見回し、隅に倒れている丸椅子を見付け、それを回収に向かった。なぜか如月もその後を追い、何をするというわけでもなく、椅子を手にする新藤を見ている。


新藤は椅子を持って、宮崎の方へ戻ると、やはり如月はそれについてきた。


「あの、如月さん…なんのつもりですか?」


と新藤は小声で聞いた。


「いや…その、怖くて」


新藤は如月が何かに臆する瞬間など、今まで見たことがなかったので、驚いたような、呆れたような、良く分からない気持ちになりながら、宮崎の方に向き直った。


「すみません、お待たせしました。それで…どんなご用件ですか?」


「あの…本当に大丈夫ですか?」


どうやら宮崎は、この事務所の荒れっぷりと、挙動不審な如月を見て、本当にここに悩みを打ち明けて良いものか、悩んでいるようだ。新藤は何とかして、宮崎が抱く不信感を払拭しなければならない、と考えた。


「あのですね、宮崎さん。今日はたまたま事務所もこんな感じで、スタッフもせかせかしていますが、普段はもっと落ち着いて、どっしりとした姿勢で仕事に取り組んでいます。少し驚かれたかもしれませんが、ぜひお話だけでも聞かせてください。うちは、特に不思議な事件に関して、スペシャリストの中のスペシャリストです。もし、他で解決できないような事件にお悩みでしたら、それこそ、うちに相談してみてください」


「は、はぁ…」


宮崎は半信半疑、といった様子ではあるが、やがて決心したように


「実はですね」


と、悩みごとを口にするのだった。


「私、何かに取り憑かれている気がするんです」


「取り憑かれている?」


「はい、たぶん…何かの霊に」


如月探偵事務所は最悪の状況ではあったが、こうして一件の依頼が舞い込んできたのだった。

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