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「クレア、瀬崎さんと文香さんの保護……任せます」


「分かった。だが、お前の命令を聞くわけではない。店長のためだ」


「どっちでもいいから」


新藤の飛び蹴りを受けて吹き飛ばされた人形は、無機質な動きで立ち上がると、こちらを敵と認識したらしく、視線をずらそうとしなかった。


その後ろでクレアは瀬崎を立たせる。瀬崎はクレアという存在に困惑しつつも、彼女に従って文香と一緒にその場から離れるのだった。



「あの、助けてくれて、ありがとう」


瀬崎は急に現れた、恐らくは自分と同年代と思われる少女に礼を言う。


「礼には及ばない。こっちも助けられた」


助けられた? 初対面のはずだが…。それにしても、美しい少女だ。クレア、と呼ばれていたし、外国から来たようだが、何者なのだろうか。


「貴方は…?」


瀬崎はクレアに聞く。


「ただのアルバイト店員だ」


短い答えに瀬崎は首を傾げた。


「えっと…如月探偵事務所で働いているの? 新藤さんと一緒に?」


仏頂面を見せるが、クレアは答える。


「骨董屋のアルバイトだ。新藤晴人と一緒に働くわけがないだろう」


「そ、そう」


後半部分がなぜか異様に早口だったことが気になったが、瀬崎はそれ以上、クレアに何も質問しなかった。ただ、どこかで聞いたことがある声だ、と気付くのだった。



新藤と人形は対峙したまま、しばらくは動かなかった。しかし、新藤が先に腰を落として戦う姿勢を見せる。慎重に少しずつ間合いを縮める新藤に対し、人形は棒立ちのまま微動だにしない。ただ、距離が無になると同時に人形が動いた。凄まじいスピードの回転に後ろ回し蹴りを乗せた一撃。その動きは機械的のようだがしなやかで鋭く、新藤に躱す余裕を与えなかった。



新藤の側頭部を狙う人形の踵。それを腕で防ぐ新藤だが、石を叩き付けられたような痛みが。さらに、人形が手刀を突き出してくる。その勢いと鋭さは刃物のようで、新藤の体を貫いてしまいそうだ。



新藤は人形の腕を叩いて、手刀の軌道を逸らしつつ、逆の肘で人形の顔面を打った。木製の顔面が部分的にへし折れるが、それだけで人形は止まらず、もう一度鋭い手刀を突き出してくる。



新藤はそれを払いつつ、間合いを取るが、人形の爪先が跳ね上がった。顎を狙った鋭い蹴りだったが、新藤は状態を反らしてやり過ごすと、人形の脛を足で払う。人形は体の支えを失って倒れるかと思われたが、片手を地に置いて全身を支えると、今度は踵を槍のように突き出し、それが新藤の腹部に入ってしまった。新藤は痛みを堪えつつ距離を取るが、人形は体勢を戻すと一気に攻勢へ出る。



一気に間合いを詰めた人形は、連続で鋭い手刀を突き出した。それはナイフで威嚇されるようなプレッシャーがあり、新藤も容易には反撃に移れなかったが、人形の方もこれでは倒し切ることは不可能と判断したらしく、一度動きを止める。



新藤はその瞬間を見逃さない。人形が手刀を打ち終わったタイミングで、右の拳を勢いよく伸ばした。拳は人形の顔面を捉え、後退を強いる。追撃のため前に出る新藤だったが、今度は人形の方がタイミングを狙ったように、手刀を突き出した。それは新藤の頬をかすめ、指先を朱に染める。



普通の人間であれば、決定打と言える瞬間は何度かあった、と新藤は考える。だが、顔面を陥没させたところで、動きを止めることはない。であれば、止める方法は一つ、と前回と同じ結論に至る。



人形が一気に飛び出してきたが、新藤はそれを待っていた。突き出された手刀を潜るように身を低くして、人形の腰に組み付くと、一気に押し倒そうとした。が、人形は新藤にしがみ付き、タックルを耐え凌いでみせた。ただ、新藤もそれだけでは終わらない。強引に人形を抱きかかえ、高々と持ち上げると、一気に地面へ叩き付けたのだ。



人形の体は砕けてしまいそうなほど、その衝撃を身に受ける。すぐに起き上がろうとする人形だが、新藤はその体を抑えつけると、再び強引に持ち上げた。そして、頭頂部から地面へ叩き付ける。



今まではすぐに反撃に出た人形だが、ダメージを感じたのか、その動きは鈍い。新藤は素早く人形の首を踏み付けると、腕を取って関節をへし折る。いや、折ってから無理矢理に引き抜くと、人形の腕を遠くへ放り投げた。



それでも尚、表情を変えない人形だが、確かに焦燥感が浮き出ていた。無理にでも立ち上がり、新藤の拘束から逃れようと動き出す人形。だが、新藤は許しはしない。人形の首を踏み付けて動きを制止しつつ、もう一方の腕を捩じってへし折ると、引っこ抜く。その一方的な破壊行為に、人形は絶望を抱いているように見えた。



だが、それはまだ諦めていなかった。次は足を、と新藤が手を伸ばしたが、人形はそれを蹴り払うと、踏み付けれた首を自らへし折ってでも、立ち上がろうとした。



音を立てて人形の首が肩口から離れる。新藤は人形を腰に腕を回して組み付こうとしたが、それは僅かに遅かった。首と両腕を失った人形が走り出す方向は、言うまでもなく、文香がいる。


「クレア!」


新藤は人形の背を追いつつ叫んだ。


クレアは文香と瀬崎を庇うように前へ出た。緊張を顔に浮かべながらも、人形を抑える瞬間を見計らい、腰を落とす。


十分に距離が縮まり、クレアは人形の腰を目がけて飛び付いた。スピードもタイミングも絶妙なタックルだ。が、人形は人間を遥かに凌ぐ跳躍力を見せて、クレアの頭上へ。そして、クレアの肩を踏み付けると、さらに跳躍する。


人形から文香を守れるものは、もう誰一人していない。と、思われたが、人形の動きが僅かに揺らぐ。同時に、文香の前に立っていた瀬崎が倒れた。彼女が最後の力を振り絞って、人形の動きを一瞬だけ止めたのだ。


これにより、クレアが振り返るだけの時間ができたが、再び人形へ飛びかかるためには、十分ではない。今度こそ、人形と文香を遮るものはなくなった。


しかし、人形は文香に触れることはなかった。文香に襲い掛かろうとする人形に、横から飛びかかった存在が。


それは人形をしっかりと掴んで、転がるようにその身をコンクリートの上に投げ出した。それだけではない。再び立ち上がろうとする人形に覆い被さると、完全に抑え込んだ。


思いもしない援軍に目を瞬かせる新藤だったが、すぐに視線をクレアに送る。クレアは自分の役割を理解して頷くと、文香と瀬崎の方へ駆け寄った。


新藤は何が起こっているのか確認するため、人形と何者かへ近付く。そして、新藤は人形を制した存在が何者か知る。



それは…いや、それも人形だった。



高月文也のコレクション部屋にあった人形。それを見た新藤は思わず呟いた。



「二体いたのか……?」


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