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いや、そんな風には思っていない。自分は、気に入らないタイプだからって殴るような粗暴な性格ではないはずだ。穏便に…。適当にあしらってから、この場を去れば良いじゃないか。そもそも、高月を気に入らないタイプだ、とも思っていないのだから。


「このクズが! 逃げられると思うな!」


新藤が躊躇っている間に、高月は振り返って攻撃を再開していた。左、左、右とリズムよく突き出す拳。新藤はそれを距離を調整して躱す。


新藤は高月の攻撃パターンを完全に把握してしまった。その気になれば、いつでもタイミングを合わせてカウンターの一撃だって入れられるだろう。


しかし、新藤はただ回避に徹していた。それは、彼の意地でしかない。


そんな新藤の心情を知ることなく、高月は泥棒を追い詰めている、と確信してどんどん前へ出てくる。おまけに何を思ったのか、罵倒の言葉まで吐き始めた。


「お前らみたいな弱者は、俺の前に平伏していれば良いんだよ! どいつもこいつも無能で何もできないくせに、知ったような顔しやがって」


高月の拳を捌きながら、少し意外に思った。自信に溢れ、常に自分こそが正しいと思っているように見えた高月だが、本当に大きなコンプレックスとストレスを抱えているらしい。


「俺がその気になれば、一瞬で潰せるんだよ。この前の、二人組の探偵もそうだ! あの野郎、木偶の棒のくせに、俺の前で委縮しないとは何事だ」


あの野郎、とは新藤のことで間違いないだろう。やはり、と言うべきか、新藤のことを気に喰っていなかったらしい。


これだけなら、新藤も穏便な対処を続けられたかもしれない。もちろん、殴ってしまおうか、という誘惑がなかったわけではないが、続く罵詈雑言は新藤の理性を奪うものだった。


「あの赤い髪の女も! 俺のことが気になって仕方ないくせに、色目くらい使って見せろって言うんだ!」


高月の思考に何が過ったのか、一瞬だけ低俗な笑みを見せた。


「ああいう女、絶対に俺の前で――」


その後も、言葉が続いたが、すぐに途切れた。新藤の拳が高月の鼻っ柱を叩いたからだ。


「あ、あれ?」


高月は何が起こったのか、理解できなかったようだが、遅れてきた痛みと滴る赤い血を見て、自身に何が起こったのか気付いたらしい。ただ、それでも自分の立場は分からないようだ。


「たまたま当てたくらいで、調子に乗るな!」


再び踏み出そうとする高月だったが、足場を失ったように転倒する。すぐに立とうとするが、足に力が入らない。それは、新藤の蹴りを脹脛に受けたことが原因だった。高月は、ただ混乱した眼差しで新藤を見上げる。


新藤は、そんな高月の顎を爪先で蹴り上げるのだった。

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