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13

時間を遡ること五分ほど。目出し帽の侵入者を追う新藤と反対へ走る如月の前に、奇妙な人魂らしきものが宙を移動していた。決してそのスピードは速いものではないが、如月から絶妙な距離を保っている。


そして、その人魂は高月のコレクション部屋に入って行った。あれに意思があるのは間違いない。そう推測しながら、如月はコレクション部屋を覗く。すると、人魂らしきものは数並ぶ高月のコレクションの一つに近付くところだった。


そのコレクションとは、一目見たときから如月が気にしていた、妙な形をした石である。何が気になったのか。それはシンプルに異能力の気配に近しい何かが付着していたからだ。そして、今その石は激しく輝き、異能の気配を激しく放っていた。


人魂らしきものが、自らの根城へ帰るように、その石に潜り込むと光が薄れ、もとの暗い部屋に戻っていく。闇夜を忘れさせるくらい、眩い光が消えると、静寂で耳が痛いような気がした。


如月は光を失った石を眺めるが、既に異能力の気配は消えている。いや、初めて見たときと同じように、僅かな気配だけがそこにあった。


「気のせいではなかったか」


如月は一人呟き、これからの対処について頭を巡らせた。




「つまり、人形を操る霊魂らしい物体の本体は、その石なんだろうね」


如月の説明を聞いて、新藤は一つの疑問が浮かんだ。


「あの、如月さんがその石に宿った異能力を消してしまえば、事件は解決ではないでしょうか?」


「いや、その通りなんだよ。ただね、あの石は誰かの記憶、もしくは意識を形にしたものだと思うんだ。だから、私があの石に触れて異能力をデリートしてしまったら、誰かの意識に大きな影響をもたらす恐れがある。下手をしたら、殺してしまうかもしれない」


「下手に扱えないってことですね…」


それから、新藤と如月は部屋の前で見張りを続けたが、人形による襲撃はなかった。




朝、スーツを着込んだ高月が、姿を現した。


「家を出ます。昨日の夜に起きた出来事を五分で説明してください。特に、私のコレクション部屋が酷い状態になった経緯については、詳しくお願いします」


高月のコレクション部屋は、綺麗に並んでいたはずの人形が、朝方に見かける酔っ払いのように倒れている。それに巻き込まれ、何個かのコレクションが床に落ちてた。


新藤は言われた通り、五分で説明を終える。


「だから、あの石は非常に危険です。一度、こちらで預からせてもらえないでしょうか」


高月は説明を終えた新藤を見つめる。

無感情に見えるが、確実に突き刺すような鋭さが確かにあった。


「つまり、あの石の中に誰かの魂が込められていて、それが人形を操って妻を襲う危険性があるから、あれを寄こせと言っているわけですか?」


寄こせと言っているつもりはないが…。


「概ね、そういうことです」


高月は鼻を鳴らす。

一目で信じていないことが分かる。


「そんな馬鹿な話を信じる人間がいると思いますか? それより、私が追い払った黒い帽子をかぶった人物が犯人だと考える方が自然です。違いますか?」


彼女は違います。

そう言いかけて、一瞬だけ焦る新藤。すぐに別の言葉を用意した。


「しかし、我々は見たものをそのまま説明しています」


「もし、あの泥棒が犯人ではないのであれば、私は貴方たち以上の容疑者はいないと思っていますが」


新藤は思わず頬を引き攣らせる。


「では、せめてあの石をどこで手に入れたのか教えてもらえないでしょうか?」


「お断りします。私にとって大事な取引先ですから、貴方らのような怪しい人物に情報を与えると思いますか?」


「本当に危険なんです。次は奥さんを狙うのではなく、高月さんを狙うかもしれませんよ?」


「何度も言いますが、私は貴方たちがこの家にいることの方が危険に感じて仕方がない」


沈黙が流れる。新藤は言葉を探すが、何も見つからず背後の如月に視線だけで救援要請を送ったが、彼女は肩をすくめるだけ。お手上げの意味に違いなかった。


「何をしているのです? 私は仕事へ行くと言ったはずですが」と高月は言う。


家を出て行け、ということらしい。


「警察を呼んでも良いのですよ?」


説得を試みようと口を開きかける新藤だったが、これ以上、誤解を解くことは難しいと判断せざるを得なかった。



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