表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/251

20

「痛いっ!」


優花梨が突然、右肩を抑えた。何かで強く打ったような、そんな様子だった。


「大丈夫?」


新藤は慌てて彼女の横に屈み、肩の状態を確かめた。触った感じだと、酷く腫れている。まるで、鉄パイプで殴られたかのようだ。


「たぶん…もう一人の私に、何かあったんだと思う」と優花梨は言う。


新藤が最初に思い浮かべたのは、例の殺し屋だった。しかし、飯島のアリバイを作るために、すぐに百地を殺すことはないはずだ。そこまで考えて、新藤は百地を狙う人間が、もう一人いることを思い出す。


「成瀬さんか…」


同時に、今日の午前中、成瀬が新藤の目の前で、堂々と如月に迫った勝負とやらを思い出した。不平等な勝負を押し付けられたのだ、と思うと怒りが込み上げてくる。


「優花梨さん、百地さんの場所は分かる?」


「うん、大体だけれど…」


「お願いだ。そこまで案内してほしい。僕は百地さんを助けなければならない」


「でも、ヒロが…」


「木戸くんなら大丈夫。彼の頑丈さは、君が一番分かっているはずだ」


優花梨は倒れた木戸を見て、新藤を見た。迷っているらしい。彼女は決断できず、俯いてしまった。新藤がどう説得すべきか考えていると、優花梨は呟くように言った。


「きっと…あの女は、危険な目に合っているんだよね」


「うん、だから…助けに行かないと」


優花梨はまた黙り込んでしまった。


「優花梨さん?」


新藤の声に反応せず、彼女はただ震えている。それは、先程見せたような、恐怖からの震えとは違うようだった。


「私は…私は行かない」


優花梨の震えた声。新藤は彼女の考えを理解する。


怒りだ。恨みだ。復讐だ。


「あの女は、ヒロのことも、私のことも、裏切ったんだ。だから、苦しんで死ねば良いと思っている。どこの誰かは知らないけど…あいつを苦しめて殺してほしい。私は絶対に、あの女を助けたくない。助けたくなんかない!」


優花梨は拳を作ると、それを新藤の胸に叩き付けた。


「新藤くんは、あのとき私を助けてくれなかったくせに、どうしてあの女を助けようとするの! さっきは私の力になってくれるって言ったじゃない。だったら、助けてよ。今、あの女を見捨てて、私を助けてよ!」


顔を上げる優花梨。

だが、そこには優しさも迷いもない新藤の表情があるばかりだ。


それを見た優花梨は、再び涙を流す。


別々の道を歩き出してから、約十年。優花梨がどんな人生を歩んだのか、新藤には知る由もない。だが、彼女は戻れないところまで、来てしまったのだろう、と思った。


彼女を助けたい、という気持ちはある。だけど、新藤が今やるべきことは、それではないのだ。彼女にかけるべき、最善の言葉は何だろう。新藤は自分の狡猾さに少し罪悪感を覚えながらも、口を開いた。


「百地さんに何かあったら、たぶん優花梨さんも無事では済まない。木戸くんが目を覚ましたとき、優花梨さんがいなかったら、彼にとって辛いことだよ。それに、優花梨さんだって、木戸くんに労いの言葉くらい、かけたいはずだ」


優花梨は一度視線を落としてから、倒れたままの木戸を見た。ぼろぼろの彼を見て、彼女は何を思っただろうか。優花梨は覚悟を決めたように小さく溜め息を吐くと、新藤に言った。


「……わかった。新藤くん、私を連れて行って」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ