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「あの、佐藤さん」

探偵を名乗る男…新藤と神父が格闘している間、瀬崎ありすは自分がどういった状況に置かれているのか、少女佐藤に確認しようとしていた。

「やっぱり、私は誰かに追われているの?」


「知らない。瀬崎がここにいるってことすら、私は知らなかった」

「なら、あの探偵さんは、なぜここに来たの?」

「私が雇った。三郎と妃花がいなくなったから」


「誰?」

少女佐藤はその質問に答えることはない。瀬崎ありすは自分が気になっていることを聞く。

「じゃあ、錠本さんが悪い人って思われているわけじゃない…よね?」


「錠本?」

「うん、あの神父のおじさん」


少女佐藤は、新藤と対峙する神父の背を見つめたが、すぐに首を傾げた。

「さぁ? でも、新藤は正義感の強い男。錠本が悪いやつ、という可能性は少なからずあると思う」

「少なからず…」

どこか年齢に合わないような、少女佐藤の表現に、瀬崎ありすは同じ言葉を繰り返した。


「でも、この件は…」

何かを切り出そうとする少女佐藤の真っ直ぐな瞳に、瀬崎ありすは少しばかり身構えた。

「神父が悪いやつかどうか、それは分からない。でも、神父とは別に悪いやつが動いていることは、間違いない」


瀬崎ありすは気付いた。少女佐藤の瞳は、自分に向けられたものではなく、その背後にある何かだ、ということに。振り返ってみると、教会に忍び寄っている、目出し帽を被った男たちの姿があった。


「あれって…この前と同じ人たち?」

「この前?」と少女佐藤が首を傾げる。

「うん、この前も、あんな帽子を被った人たちが、家の前にいて…」


そのときの状況を説明しようとしたところ、目出し帽の一人が、こちらを見た。そして、何やら声を掛け合い、全員が少女佐藤と瀬崎ありすの存在を確認したようだった。すると、彼らは新藤と錠本神父の目を盗むようにして、こちらに接近を開始する。


「……逃げた方が良いかも?」と呟く少女佐藤。

瀬崎ありすは確信した。あの男たちは、どういうわけか、自分を狙っている。

あれだけ怪しい男たちだ。傍にいる少女佐藤を巻き込みかねない。

「佐藤さん、こっち!」


瀬崎ありすは少女佐藤の手を取り、走り出した。

「新藤、助けてー!」

少女佐藤が助けを求める。だが、新藤と神父は、目出し帽の男たちの奥にいたため、彼らとは反対の方向へ逃げるしかない。


瀬崎ありすは教会の敷地から出て、町の方へ走るが、すぐに追いつかれてしまうことは明白だ。瀬崎ありすは空き家と思われる敷地に入り、身を隠した。


塀の影から外の様子を窺うと、目出し帽の男たちが自分たちを探していた。最初、彼らを見たとき、三人だったはず。しかし、今は五人に増えている。これでは、先に新藤が見付けてくれたとしても、勝ち目はないように思えた。


絶体絶命と言える状況だが、瀬崎ありすは少女佐藤の手前、弱気なところは見せられない、と自分に言い聞かせた。ただ、少女佐藤はそんな彼女の心配をよそに、あくまで冷静である。


「あいつら、全員異能力者みたい」

「異能力者?」

「うん。たぶん、あの薬を使って一時的に力を手に入れている」

「ねぇ、佐藤さん。なんのこと? あの薬って……分からないのだけれど」


少女佐藤の言葉に、瀬崎ありすは首を傾げるが、説明はなかった。

そんな中、目出し帽の男の一人が、こちらを見た。瀬崎ありすと少女佐藤の存在に気付いたわけではないようだが、怪しんでいることは間違いない。


「このままだと見つかる。移動しないと」

「でも、移動したら逆に見つかってしまうんじゃないかな? もし挟み撃ちにされたら、逃げられないよ」

「……大丈夫」


何を根拠に言っているのか、少女佐藤は確信しているようだった。


「五人は少し大変だけど…やってみる」

「大変? 何をするつもりなの?」


少女佐藤は、瀬崎ありすの質問に答えず、目を閉じたと思うと大きく深呼吸した。そして、目を開く。その瞳は、どこか光を宿したかのように、力強いものに見えた。


「一人、二人、三人……四人、五人」

「佐藤さん?」

「……把握。こっち」


少女佐藤は敷地の裏側へ移動する。瀬崎ありすは何が起こっているのか理解できないまま、ただ彼女の後を追った。


「そっちは危ない。二人目がいる。こっちなら誰もいない」


瀬崎ありすが角を曲がろうとすると、少女佐藤に止められる。彼女の誘導に従うと、不思議なくらい目出し帽の男たちに遭遇することはなかった。まるで、彼女は男たちの居場所を完全に把握しているかのように。これが運によるものなのか。そう思う方が自然なのかもしれないが、少女佐藤の言動を見聞きする限り、偶然とは思えなかった。


十分ほど町中を移動し回って、男たちを避け続けたが、少女佐藤の顔に僅かな焦りが出ていることに気付く。


「少しずつだけど、囲まれている。あいつら、それなりに訓練しているのかも」

「どうして分かるの?」

「新藤と合流できれば良いけど…その前に、私の体力が持たない」


少女佐藤の額が汗に濡れていた。ここ十分はゆっくり移動しているはずだが、瀬崎ありすに比べると激しい運動を強いられているように見える。よく見ると、顔は真っ青だ。


「佐藤さん、大丈夫? 具合が悪いんじゃないの?」

「倒れるかもしれない。こうなったら、一点突破を狙うしかない」


瀬崎ありすの言葉に耳を貸す気はないのか、少女佐藤は歩き出す。


「あと十秒くらいしたら、正面から一人やってくるから、そのタイミングでこっちの道に迂回する。そうすれば、やり過ごせるはず」


十秒後、確かに正面から目出し帽の男が歩いてくる様子が見えた。まだ、こちらには見えていないらしい。


「こっち」と少女佐藤に従って、迂回路を進む。


しかし、前を行く少女佐藤の足取りが、覚束なくなった…と思えば、彼女の膝が折れて、倒れるように膝を付いてしまった。


「佐藤さん!」

驚きのあまり、瀬崎ありすは声を上げてしまった。

「少し眩暈した……だけ」


そう言いながら、立ち上がろうとする少女佐藤だが、やはり顔は青く、足に力が入っていないようだ。


「それより、見つかってしまった、かも」

少女佐藤の呟きに、瀬崎ありすが振り返ると、目出し帽の男が一人、こちらに向かってきた。

「逃げないと!」


瀬崎ありすは、少女佐藤に肩を貸そうとしたが、彼女の体は異様なほど軽かった。重みがない。いや、そうではない。彼女の体は、そこになかったのだ。


瀬崎ありすは、動揺しつつ辺りを見回すが、やはり少女佐藤の姿はない。だが、呻き声らしいものが聞こえ、彼女がどこへ消えたのか、すぐに理解できた。ただ、理解できたというだけで、それは彼女の力ではどうしようもできない場所である。


少女佐藤は、宙に浮いていた。瀬崎ありすが手を伸ばしても僅かに届かないような位置に、彼女の爪先がある。


「ど、どうして…!」

混乱する瀬崎ありすに、少女佐藤は何かを訴えようとしていた。

「に、げ……て」


だが、声が上手く出ないのか、苦し気に顔を歪めている。もしかしたら何らかの力で首を圧迫されているのかもしれない。だとしたら、すぐに助けなくては。

何とか飛び付いて、せめて彼女に触れられないか、と膝を屈めたとき、その声が聞こえた。


「動くな。動いたら、その子供の首を曲げる」

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