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新藤は、一度教会に戻った。

インターフォンを押すと、先程の女性が顔を出した。


「何度もすみません。あっちにある小屋、もしかしたらこの子の友達が閉じ込められているかもしれなくて…申し訳ないのですが開けてもらうことってできますか?」


この女性が異能力を使って、ドアを強固なものにしているのかもしれない。新藤はそんな疑いを抱きつつも、単刀直入に彼女に尋ねてみた。


「小屋、ですか?」

しかし、女性は心当たりがないらしい。

「えっと、割りと古そうな、しっかりと鍵がかかっている小屋で、あっちの方にあります」


新藤が小屋の方に指をさすが、女性は何も知らないようだ。


「すみません。実は私…つい最近、ここにやってきたばかりで、何も知らなくて。ここを管理している神父さんに聞かないと」

「そうですか。では、神父さんはどちらに?」

「近所の人の手伝いがあるから、と出掛けて行ったので、その辺にいるとは思います」


新藤は、少女佐藤と二人で周辺を歩くことにした。神父は、カソックを着ているから、目立つとのことだ。




新藤は最初に目に入った、近所に住んでいるだろう老人に声をかけた。

「すみません、神父さんを探しているのですが、見ませんでしたか?」

「今日は見てないよ」

短く答える老人だったが、僅かに笑みを浮かべると、今度は新藤に尋ねてきた。


「あんたも、教会の調査に来た人? あれ、びっくりしたでしょ?」

「びっくり?」

「教会のドアだよ。何をしても、開かなかっただろう?」

「教会のドアですか? すぐ近くにある小屋ではなく?」

「小屋?」


老人は首を傾げる。しかし、老人は話が噛み合わないことなど関係ないといった調子で、自分の語りたいことを語った。


「あれ、この町の名物なんだよ。絶対に開かない、奇跡の教会って。ちょっと昔に、取り壊す予定があったんだけれど、今の神父さんが来てから暫くして、ドアがまったく動かなくなったんだ。裏口も窓も開かなくなって、中に入ることができなくなってね。騒いでいるうちに、今の神父さんが管理することになったから、今もドアが開かないまま残っているんだ」


奇跡の教会は、つい先程、何事もなかったかのようにドアが開いていた。新藤はそれを指摘してもいいものか判断できず、ただ笑顔で相槌を打つことにとどめた。ただ、神父を見なかったか、と別の人間に尋ねても、出てくる話題は奇跡の教会のことだった。誰も教会のドアが開くことを知らないらしい。その奇跡は今も起こり続けている、という前提で話すため、新藤はその辺りを指摘する気にはなれなかった。




神父を探して周辺を歩いたが、それらしい人物は見つからなかった。結局、新藤と少女佐藤は教会に戻ることにした。

「奇跡の教会って、どういうことなんだろうね」

新藤は少女佐藤に意見を求めてみた。


「神父に会えば分かることだと思う。その神父がやってきてから暫くして、という話だから、十中八九、その男が怪しい」

「……ごもっともだね」


新藤は冷静な少女佐藤のコメントに、感服するだけだった。

教会に戻って、再び例の女性を訪ねる。奇跡の教会と言われ、絶対に開かないはずのドアを、当然のように開けて、その女性が顔を出した。


「すみません。神父さんと会えなくて…ここで待たせてもらっても良いですか?」

「あ、はい。お茶を用意しますので、少しお待ちください」

「いえ、お構いなく。それより、聞きたいことがあるのですが」

「……なんでしょう?」


女性の表情がやや曇ったような気がした。


「ここ、奇跡の教会って言われて、ドアがまったく開かないって聞いたのですが…。開いてますよね?」


新藤の質問に、女性はドアを確認すように目を向けた。そして、戸惑った様子で視線を戻すと、どこか気まずそうな顔で言うのだった。


「開いて、ますね」

「ですよね」


新藤も困惑し、ただそう言うことしかできない。新藤は少女佐藤に助けを求めるかのように、彼女を見たが、その目はたった一つの方法を無言で示していた。神父が現れるまで待て、と。


「やっぱり、お茶…用意しますね」


女性は逃げるように教会の中へ消えてしまった。

新藤はその背中を見送りながら、自分がどんな状況にいるのか、ますます困惑してしまった。すると、そんな新藤に助け舟を渡すかのように、如月から電話があった。


「あ、新藤くん。今、どこにいる? もしかして、山の上?」

「はい、そうですよ。例の少女に案内されて、山の上にある町を調査中です」

「もしかしてなんだけどさ、そこに教会ってある? それか、神父がいたりする?」

「え?」


「例の女子大生失踪の件で、色々と追っていたらさ、山の上の神父がその子を誘拐したって話を聞いてね。それで、君の依頼人が山の上がどうのこうのって言っていたことを思い出したんだ。流石に、そんな偶然はないよね?」

「……あるかもしれません」

「え?」

「ちょっと待ってください。確認します」

「待て、もう少し詳しく…」


新藤は電話を切って、少女佐藤に尋ねた。


「ねぇ、佐藤ちゃん。あのお姉さんの名前、知っている?」

「うん。瀬崎さん。下の名前は、知らない」


それで十分だった。もちろん、女子大生失踪の件は、新藤も途中まで調査に協力している。調査対象の名前くらいは、頭に入っていた。

新藤が教会へ入ると、ちょうど奥から女性…瀬崎ありすと思われる人物が姿を現した。


「すみません、お茶を…」

「あの、瀬崎ありすさん…ですか?」


女性の表情を見れば、本人であることは間違いなかった。

「もしかして、貴方は誘拐されてここに?」

瀬崎ありすの顔はみるみるうちに青くなる。新藤は確信した。


「私、その…どうすれば良いのか、分からなくて」

新藤は、混乱する瀬崎ありすの手を取った。

「話は後で聞きます。今はここから離れましょう」


新藤と瀬崎ありす、それから少女佐藤は教会の外に出た。しかし、カソックを着た男が、すぐそこまで迫っていた。


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