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それから、優花梨の指示を受けて、一人目の男を襲った。後ろから肩を組んで、相手が混乱しているうちに、無理矢理に人気のないところへ引っ張り込む。抵抗されたが、殴れば相手は大人しくなった。


そして、木戸は自分にとって、暴力がどれだけ簡単なことであるのか、改めて実感した。やはり、自分の意思を通したいのであれば、これが端的で最速の方法だ、と思わずにいられなかった。


二人目。同じ方法で誘い出し、殴った。最初の男より抵抗が激しく、少しだけ苦戦したが、結果的には圧倒していた。やはり簡単だ。


自分に比べると、人は脆い。これこそ、自分が人よりも秀でた部分であり、才能と言うべきものだ。だとしたら、この才能を優花梨のために振るえることは、幸運とも言える。まさに、自らの生きる目的を見つけたかのようだった。


三人目。今度は上手く行ったものの、警察に追われ、顔も見られてしまった。そのせいか、家に帰ろうとすると、警察が張り込んでいた。幸い気付かれるよりも先に、その場を離れられたので、捕まることはなかったが、警察はそんなに甘くはない。自分が優花梨のために何かできる時間は、残り少ないのだ、と感じずにはいられなかった。


四人目。ついに百地の夫である、飯島という男だった。このときは、百地の前に姿を現さなくてはならなかった。それが優花梨の要望だったからだ。あの女の前でやってほしい、と。できれば、手を出したくなかったので、直前に警告の手紙を出してみたが、意味はなかった。


仕方なく、百地の家に乗り込む。


百地は木戸の顔を見て、酷く慄いていた。口には出さなかったが、表情を見ただけで、彼女がどれだけ木戸へ嫌悪感を抱いているのか、よく分かった。


こうやって木戸を拒絶する彼女こそが、本来の百地優花梨なのだろう。分かっていながらも、少しだけ木戸は心が重くなった。その瞬間、木戸は動きを止めてしまい、彼女らを逃がしてしまう。動揺と落胆を隠し切れない木戸に、優花梨は言った。


「大丈夫だよ。ヒロ。私はヒロならできるって信じているから。だから、もう少し頑張って」


そんなことを言われ、優花梨に口付けされると、木戸の揺らいだ決意は、再び確固たるものになる。優花梨が何をしたいのか、分かっている。どのような過程を辿ることになるかは分からないが、結果的に彼女は自滅することになるのだろう。木戸もそれに巻き込まれるに違いない。


それでも、この復讐をやめるわけにはいかない。


地獄に落ちるまで。




奪った車で、逃げた百地と飯島を追う。自分たちは警察に追われていると言うのに、優花梨は楽しそうだった。


「ヒロとこうやってドライブするの、初めてじゃない? しかも、こんな遅い時間。なんだか、ロマンチックだね」


確かに二人で遠くまで出かけるなんて、初めてのことだった。彼女が辿った人生は、きっとこちら側とは違うものなのだろう。そちらでは、自分と優花梨はどんな関係なのか、知りたかった。


だけど、そんなことを口にしてしまったら、彼女が求める「ヒロ」という存在から遠退いてしまう気がした。それに、彼女がこれだけ復讐心に身を焦がしているのであれば、きっと自分は幸せを与えてやれなかったに違いない。


このとき木戸は、全部を忘れて、どこか遠く二人で暮らす…最後のチャンスではないか、と思った。どこまでも遠くへ逃げてしまえば、警察にだって見つからないかもしれない。そして、今度こそ…優花梨を幸せにするのだ。そんな選択肢があるのではないか、と。


だが、それを見透かしたかのように、優花梨が言うのだった。


「ヒロ、ごめんね。たぶん、私はここに存在すること自体、間違っていると思う。だから、何かの拍子で消えてしまうかもしれない。それなのに、付き合ってくれて、本当に感謝してくれる。私は、ヒロがこんな風に私を見ていてくれること、ずっと夢だったのかもしれない。それとも、これは夢なのかな」


「夢じゃない」


彼女は自分を信頼している。だったら、最後までそれに応えるべきだ。高速を降りて、別荘地の方へ向かう。正確な位置までは分からないが、優花梨は百地の場所を把握できるようだ。優花梨の指示に従って、山道を進んだ。


「そろそろ…近いと思う」と優花梨は言った。


二人は無言になった。お互い、終わりが近いと感じたのかもしれない。もしくは、緊張感がそうさせたのかもしれない。だけど、それだけではなかった。この復讐が終わったら、優花梨は消えてしまうかもしれない。そう思うと何を喋って良いのか、分からなかった。


山道を進めば進むほど、二人は闇に包まれるかのようだった。二人で朝日を見れたら良い。雨が止んだことに気付いた木戸はそんな風に思った。




だけど、それを叶えることは、簡単ではなかった。


十年前、小虫のように蹴散らした新藤晴人が、自分の前に立ちふさがり、木戸から何かを奪おうとしている。


ここで、倒れるわけにはいない。木戸は、揺れる膝に力を込めるのだった。

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