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「今回、如月葵を守っただけで、あたしたちは何の得もなかった気がするぜ」

病院のベッドで横になる新藤は、見舞いに顔を出した乱条の不満を耳にして、苦笑いを浮かべた。

「やっぱり、成瀬さんは損得勘定で如月さんを護衛していたんですね」


「当然だろ。なんであんな女、異能対策課が全力をあげて守らなければならねぇんだよ。ホン・ウーヤーを捕らえて、功績を認められれば、異能対策課は動きやすくなる。予算が出るようになれば、さらに成果が上がるだろうし、そうなればボーナスだって出るかもしれない。それがお前たちのせいで、骨折り損だ」


乱条はそう言うが、成瀬の本心はそれだけでないだろう。彼は彼で如月を本気で守るつもりだったに違いない。単純にホン・ウーヤーを捕らえるだけが目的であれば、もっと極端な方法だってあったはずだ。本来なら自分が如月を守りつつ、ホン・ウーヤーを捕らえるつもりだったのではないか。そうすれば、如月からの評価を上げ、同僚たちの評価も上がる。だが、その狙いはどちらも中途半端に終わった。今回、如月からの評価が上がったのは、誰よりも自分であるはずだ…と考えると、新藤の頬は緩んでいた。


「何だよ、何か言いたげだな」

「いえ、別に…」


緩む頬を引き締めようとすればするほど、新藤の表情は不自然となった。それを見た乱条は目を細める。


「お前、如月葵と何かあったのか…?」

「ありませんよ」

「言え。言わねぇと、傷口のところ、殴るぞ?」


流星会の二代目に撃たれた傷に、乱条が拳を近付けた。新藤は「ほんと、何にもないですから」と言いながら、ついに緩み切った表情を見せ、秘めていた細やかな喜びを告白した。


「ただ、ちょっと誉めてもらったって言うか」

「……それだけ?」

「はい」


新藤は頷く。乱条は「それだけなわけがない」と追及するか、呆れた顔を見せるだろう、と思ったが、意外な言葉が返ってきた。


「そうか……羨ましいな」

「え? 誉めて欲しい人でも、いるんですか?」

「な、なんでもねぇ。聞かなかったことにしろ。いいな?」


乱条は顔を赤らめて動揺を見せたかと思うと、今度はドスの利いた声で脅してきた。新藤は「何も聞いていません」と言いながら、どうやら乱条も苦労しているらしい、と心の中で同情した。


「それにしても、新藤よう」と乱条はまた別の不満を思い出したのか目を細めた。

「何ですか?」

「このあたしに、お礼の一言でもあるんじゃねぇのか…?」


「え? あー、その、ご協力ありがとうございました?」

「条件反射で礼を言うな。忘れるなよ。あのホン・ウーヤーを倒せたのは、誰のおかげだと思っているんだ?」


確かに、新藤がホン・ウーヤーに勝てたのは、乱条のおかげだった。乱条はホン・ウーヤーと拳を交えただけで、彼の唯一の弱点を見抜き、新藤であればそれを突けるだろうと指摘した。激しい性格のように見える乱条だが、ことに戦いにおいては、どこまでもクレバーなところを見せるのである。


「ああ、そうですね。乱条さんのおかげです。ありがとうございました」

新藤の礼に得意げな顔を見せる乱条。だが、すぐに厳しい表情を見せた。

「あの女、逃がしたらしいな」

「……成瀬さんは、彼女に対して何か?」


新藤が逃がした少女は、暗殺者である。警察である成瀬や乱条にとっては、自由を許してはならない相手だ。もしかしたら、既に追跡中なのかもしれない。しかし、乱条は肩をすくめた。


「いや、何も。今回、あたしたちの成果と言えば、流星会のゴロツキどもを捕らえたことだ。そのために、囮として役立ったやつがいたとしたら、成瀬さんはわざわざ追い回すつもりはねぇんだろ。それに、そもそもホン・ウーヤーに助手やら弟子がいたって話はない。最初から、女なんていなかったんだよ」

「そうですか」


新藤は心の中で胸を撫で下ろす。そんな彼の表情を見届けることが目的だったのか、乱条は微かに微笑むと、立ち上がった。


「まぁ、怪我が大したことねぇなら何よりだ。あたしは帰るぜ」

「はい。ありがとうございます」


軽く手を挙げ応えると、乱条は病室を去った。

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