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16

それから、各々が自由に時間を過ごしたが、新藤は再び両手を拘束された少女と、部屋の隅で話していた。


「お前、もう一度先生と戦うなんて…本気で言っているのか?」

「本気ですよ」


笑顔で答える新藤だが、その頬は強張っている。その緊張は少女にも伝わっていた。

「なぜ意地になる? お前が命を賭ける必要はないはずだ」

「……貴方はどうして二代目を殺さなかったのですか?」

質問に質問で返す新藤。少女は不快感を露わにし、鋭い目付きで睨み付けてきたが…。


「それは…」と呟く。

答えを探しているらしかった。

「子供が死ぬ必要はない…そう思っただけだ」


「でも、貴方は暗殺者なのでしょう? 殺すべき状況だったのでは?」

少女は反論するための言葉を探すが、そこに確かなものはない。口籠る少女に新藤は言う。

「昼間もそうだった。僕の背後に子供がいたから、ナイフを投げられなかったのでしょう。違いますか?」


少女の瞳が小さく揺らめく。それは、必死に自分の内側に助けを求めるようだった。しかし、これまでの人生を正当化するための言葉は見付からなかったらしい。

「私は…先生に育てられた。そういう生き方しか知らないんだ」

「安心してください。僕は負けません。貴方を殺しの世界から救い出して見せます」

新藤の自信に満ちた言葉に、動揺していた少女も、冷静になる。


「次は死ぬぞ?」

「心配してくれるんですか?」

「……馬鹿が。先生に殺されろ」


少女の殺意がこもった視線に笑顔を返し、新藤はホン・ウーヤーと呼ばれる老人と、対峙する瞬間をイメージした。老人の得意とする技は、普通では考えられない距離を、たった一歩で潰し、超至近距離から高い破壊力を誇る一撃を放つこと。それは、一度見たものだから、次は躱しきることもできるだろう。しかし、それを躱した後が重要であることは、彼と乱条の戦いを見て理解した。


近い距離で戦えば、超至近距離から強烈な一撃を受けることになる。距離を取ってそれを避けようとすると、あの踏み込みに乗せた一撃を放たれる。近距離で戦っても、距離を取って戦ったとしても、老人の得意とする間合いになってしまう。

このパターンによって、あの乱条ですら攻略法を見い出せず、防戦一方になってしまった。あのように、体力を削られた後、死に至る一撃を受けてしまったら、次はどうなるか…。勝敗は考えなくても分かる。絶望的だ。それでも、逃げる気はない。あくまで一対一で、彼を倒すと決めていた。


それから、新藤と少女の間に沈黙が流れた。だが、二人を包む空気は、決して険悪なものではない。新藤はそれを感じていたし、少女は久しく忘れていた他人からの関心に戸惑っていた。そんな沈黙を破ったのは、新藤でもなく、少女でもなかった。


「おい、新藤。こっちに来い」

声をかけてきたのは、乱条だ。

「何ですか? やっぱり乱条さんが相手をする、なんて言わないでくださいよ」


乱条は呆れたように溜め息を吐く。

「馬鹿か、お前は。何も対策を立てないで、あのジジイとやるつもりか?」

「対策、ですか?」

意外な言葉に呆然とする新藤に、乱条は不敵な笑みを見せた。


「おう。戦いってものは、始まる前に勝ちが決まっていることが理想だ。どうやって、あのジジイを泣かせるか、二人で考えるんだよ」

「それは心強いですけれど…」


新藤の返事を聞いた乱条は、胸の前で拳と手の平を合わせて言った。

「だったら、作戦会議、始めるぞ」

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