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新藤は、少女を捕らえている部屋を一度出て、成瀬に現状を聞いた。


「異常って、何があったんですか?」


「下のフロアから定時連絡がない。一階から順に連絡が途切れていることを考えると、こちらに向かっているみたいだ。なぜ、この場所が分かったのか不明だが、それよりも噂以上に恐ろしいやつだと実感させられるよ。まるで死神が着実にここまで昇ってくる恐怖がある」


成瀬は怖れていると言うよりは、スリルを楽しむような笑みを浮かべている。


「乱条さんは?」


「様子を見に行ったきり、連絡がない」


「まさか…」


格闘戦で言えば、無敵を誇る乱条すら、ホン・ウーヤーの前に破れたのか、と新藤は想像するが、成瀬は首を横に振る。


「いや、乱条に限ってそれはない」


それは、当然のことであると確信しているらしい。ただ、と付け加える成瀬。


「ホン・ウーヤーの力は想定の範疇を遥かに超えている。ここで、俺と新藤くんで迎え撃つのも…心許ないな」


「僕が下に降りて、様子見てきましょうか?」


「それですれ違ったらどうする? ここは一時撤退だ。第二の隠れ家に移動しながら、対策を考えるとしよう」


「しかし、下手に動くのも危険ではありませんか?」


「確かにね。ただ、ここで待っていて追い詰められたら逃げ場がない。僕の能力を十分に発揮できる場所じゃないしね」


「だとしたら、すぐ移動した方が良さそうですね」


方針が決まったところで、新藤は如月の様子を見た。如月は、窓の横で壁にもたれ、まるで他人事のように外を眺めている。


「如月さん、大丈夫ですか?」


「ん? ああ、うん」


どこか気のない返事である。


「どうしたんですか…?」


心配する新藤に、如月は溜め息を吐いた。


「いや、何か…今回の私、役に立ちそうもないな、って」


新藤はどんなコメントを返すべきか分からず、ただ笑って誤魔化した。




「ここを出ます」


新藤は戻るなり、少女の拘束を部分的に解いて立たせた。


「先生が、来たのか…?」


少女はどこか怯えているようだった。師が助けに来たのだから、普通は喜ぶべきところだ。しかし、何を思っているのか、その目には安堵ではなく不安の感情が濃く滲み出ている。


「分かりません。ただ、下のスタッフと連絡が取れなくなっています。状況が掴めない、不確定要素が多すぎるので、一度ここから離れることになりました」


「……そうか」


少女は特に追及することはなかった。


「あの、やっぱり名前だけでも教えてもらえませんか?」


新藤は場違いな質問であると思ったが、聞かずにはいられなかった。しかし、少女は自分の中に閉じこもるように、虚ろな目をして、反応を返すことはない。


手首の縛りを確認してから、少女を歩かせる。彼女は抵抗することなく、それに従った。部屋を出ると、成瀬が廊下を警戒し、その後ろに如月が立っている。如月は、新藤に何か言いたげな視線を送ってきた。


「どうしたんですか?」


如月は小さく頷いた。


「何か嫌な予感がする。新藤くん、絶対に死ぬなよ」


「頼りがいがあるところ、見せますよ」


流石の如月も、冷静な顔をしているが、この状況に怯えているのだろうか。新藤の微笑みに眉一つ動かすことはなかった。


「よし、行こう」


成瀬の合図で部屋を出た。廊下は不気味なほど静まり返っている。ワンフロアを貸しきっているので、当然と言えば当然なことだが、やはり不気味な感じは否めない。


早歩きでエレベーターに向かうが、廊下が異様に長く感じる。突き当りで右に折れれば、エレベーターだが、先頭の成瀬が止まるように手で合図したため、全員が足を止めた。


「エレベーター前、状況を報告しろ」


どうやら通信機を使って、エレベーター前の安全を確認したらしいが…。


「成瀬さん、それ以上…進まない方が」


止めたのは新藤だ。成瀬は、振り返ることなく、後退りする。


「そのようだな」


二人は、明らかに異様な何かが、角の向こうに存在していることを感じ取っていた。大型の獣が野放しで歩いているような、そんな重圧が迫っている。新藤の横で、少女が顔を上げた。


「嘘だ…」と呟く。


そして、それは現れた。白髪の老人。だが、背筋は伸びて、無駄のない動作でゆっくりと歩き、新藤たちの前に立った。新藤は、それが発する圧力に、思わず固唾を飲む。


「せ、先生…」


少女は震えていた。何を恐怖するのか、新藤には理解できないことだが、彼女とあれを引き合すことは、間違ったことだと感じた。


「成瀬さん…如月さんを連れて、非常階段から降りてください。ここは僕が」


新藤が前に出る。


「しかし、俺一人では人質の女まで連れて行けないぞ」と成瀬は眉を潜める。


「大丈夫。僕が連れて行くので」


「……わかった。安心しろ、新藤くん。葵さんは必ず俺が幸せにしてみせるから」


「いや、それはきちんと阻止させてもらいます」


飽くまで真剣な面持の成瀬に、新藤は苦笑いを浮かべる。ただ、成瀬は新藤の顔を見て、一度だけ頷いた。エレベーターとは、反対の方へ成瀬は歩き出すが、如月は止まって新藤の背中を見つめる。


「葵さん、行きますよ」


何か言いたげな如月だったが、成瀬に手を引かれ、走り出した。


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