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成瀬と乱条が二人で如月を守り、新藤が戻ることを待った。議員秘書は挨拶もなく、いつの間にか如月の前から消えている。やはり、成瀬たちには顔を見せたくなかったらしい。


「ホン・ウーヤーは女だった?」


乱条の報告に、成瀬は眉を寄せた。


「本当だよ、成瀬さん。あれは若い女だった。金髪の白人で目の色も、たぶん緑だった」


「葵さんも見たのですか?」


成瀬の質問に頷く。


「気付いたら、窓を空けて立っていました。私から離れた方の窓は、鍵がかかっていなかったみたいで…。こちら側の窓に鍵がかかっていたことは、本当に運が良かったと思います。そうでなければ、あのナイフは今頃、私の首に刺さっていました」


そう言って如月が視線を向けたのは、議員秘書が残したボディガードの遺体である。深々と首に突き刺さったナイフが痛々しい。成瀬もそれを見て低く唸り、視線を落とした。


「中庭ですか…。すみません、僕が直前まで中庭を見回っていたのですが」


如月は首を横に振った。


「いいえ、成瀬さんのせいではありません。相手は何らかの異能力を使ったと思われます」


「そうだと思ったぜ。そうじゃなければ成瀬さんが、見逃すわけないからな」


あからさまにフォローを入れる乱条だったが、なぜか成瀬に一睨みされ、肩を落とす。成瀬はそんな乱条を放って、如月の方を見た。


「しかし、どのような異能力なのでしょうか?」


「そこまでは分かりませんが、きっと暗殺に適した能力の持ち主なのでしょう」


「やっぱり、あのガキがホン・ウーヤーってことか」


不敵な笑みを浮かべる乱条を、またも成瀬が睨み付ける。


「そんなわけがないだろう。助手か、弟子に決まっている」


またも肩を落とす乱条。


「とにかく」


成瀬は腕を組んで続ける。


「葵さんが狙われていることは確かなことになった。本物のホン・ウーヤーを捕らえるまで、我々が用意した、隠れ家で大人しくしてもらいます。良いですね?」


頷く如月の背後で、乱条は不満そうに顔を曇らせる。


「では、今すぐお送りしますので、車に」と成瀬は促す。


「いえ、まだ新藤くんが戻ってません。深追いして厄介な状況になっていなければ、そろそろ戻ってくるとは思うのですが…」


「彼のことだ。下手したら、暗殺者の身の上話を聞いて、同情した結果、彼女の仲間になっているかもしれない。無駄に情が厚いところがありますからね。いや、この場合は薄情と言うべきか…」


新藤の悪口を言うのが楽しいのか、薄ら笑いを浮かべる成瀬を見て、如月は少しばかり呆れたのか、小さく溜め息を吐いた。


「新藤くんに限って、そんなことはありませんよ」


「そうだぜ、成瀬さん。如月葵と意見を合わせるつもりはないが、新藤はこの女の犬だ。帰ってこないってなら、今ごろぶん殴られて、その辺で転がっているんだろうよ」


「逃げた女は、お前から見ても新藤くんに勝る実力があるのか?」


成瀬の質問に、乱条は鼻を鳴らした。


「新藤のやつがあの程度で負けるとしたら、あたしはここの飯代を如月葵に奢ってやっても良いですよ」


だとしたら、と成瀬は考える。その少女を捕らえて、ホン・ウーヤーの情報を聞き出した方が、後々有利になるかもしれない。


「おい、乱条。すぐに新藤くんを追え。その外国人の女とやらを捕らえるんだ」


我ながら良い手だ。ホン・ウーヤーの助手か弟子の女を捕らえるだけでなく、乱条がいなくなれば、如月と二人きり。ここで恩を売って、色々と次に繋げられるかもしれない。仕事に関しても、男女の関係としても…。


「嫌だよ」


しかし、乱条は瞬時に命令を拒否する。


「……なんだって?」


「嫌です。だって、成瀬さんが如月葵と二人切りになっちまうじゃないですか」


「お前な、そんな理由で俺の命令を無視するんじゃねぇよ」


「そうは言ってもですね、この状況で本物のホン・ウーヤーが現れたらどうするんですか? 成瀬さん一人で相手するんですか?」


「お前なぁ、俺をなめているのか? 暗殺者一人くらい、どうとでもなるに決まっているだろうが」


見栄を張る成瀬だが、心の内では意外に冷静な乱条を評価していた。


「どっちにしても」


言葉を挟んだのは如月だ。


「新藤くん、手助けは入らなかったみたいですよ」


成瀬と乱条が如月を見ると、彼女は入り口の方に視線を向けていた。


そこには、金髪の少女を担いだ新藤が立っていた。

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