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6

新藤は、ボディガードの男と二人で、廊下に立っていた。

中の様子が気になる。何者かが如月を襲撃するとしたら、きっと中庭から窓を開けて入ってくるだろう。窓を開こうと誰かが近付けば、中のボディガードがそれに気付くだろうから、暗殺者の侵入は簡単なことではないはずだ。それでも心配だった。


落ち着きのない新藤に、ボディガードの男から煩わしいという視線が。新藤は苦笑いを浮かべながら、頷いてみせた。分かっている。半分は自分に言い聞かせるための動作だった。


「おう、新藤。様子はどうだ?」


声をかけてきたのは、乱条だ。いつもより、彼女の警戒心が高いことは、新藤にも感じ取れた。


「如月さんはこの部屋の中です。もし、この入り口を避けるとしたら、中庭から窓を開けて入ってくることになります」


「そうか。成瀬さんが中庭を見に行ったから、どんな暗殺者でも、このタイミングで仕掛けることは難しいはずだぜ」


「そうですか」


新藤は納得するように頷くが、内心では不安でたまらなかった。成瀬が有能であることを知っているし、乱条が無敵の強さを誇ることも知っている。いくら伝説の暗殺者であったとしても、このタイミングで如月を襲うことは不可能なはずだ。それなのに、妙な胸騒ぎが止まらない。


「安心しろよ、新藤」


新藤の心内を気付いたのか、乱条が笑いかける。


「伝説の暗殺者が出てきても、このあたしが相手にするんだ。どんなに達人だろうが、ぶちのめしてやるからよ。まぁ、守る相手が如月葵っていうのは、気に入らねぇことだけどな」


笑いかける、と言っても彼女の場合は獣を思わせる血なまぐささがある。敵意を持っていない状態とは言え、新藤もできるだけ彼女の正面には立ちたくないと思わせられた。


「心強いですね」


心の底から出た言葉ではあるが、その不安が完全に消えるわけではない。確かに、乱条であれば伝説の暗殺者と正面からやり合うことがあっても、後れを取ることはないだろうが…。いつまでも顔色が変わらない新藤を見て呆れたのか、乱条は深く溜め息を吐くのだった。


一分か二分…何事もなく時間が過ぎ去ったが、新藤の不安が現実となる瞬間がやってきた。


「新藤くん!」


如月の声。入り口の傍に立っていたボディガードの男よりも早く、新藤は部屋の中に飛び込んだ。


瞬時に、如月の姿を確認するが、同時に彼女へ襲い掛かろうとする見知らぬ女の姿があった。新藤は二人の間に割って入り、拳を放って襲撃を止めようとしたが、襲撃者は最低限の動きでそれを躱した思うと、瞬時に反撃に移った。新藤のこめかみを狙う、振り回されるような拳。新藤は身を反らして躱し、すぐに拳を連続で放つ。これには襲撃者も近距離で捌くことはできず、身を退いた。しかし、新藤はそこに回し蹴りで追撃する。襲撃者は両腕でそれを防いだが、威力に体が流れ、壁に叩き付けられた。


ここで決める、と新藤は判断し、タックルで襲撃者を押し倒そうとしたが、相手の反応は速い。姿勢を低くして、新藤の突進を受け止めると、それをいなし、さらに突き放してみせた。新藤よりも小柄だが、かなりの力と技術が備わっているらしい。


驚愕する新藤に、足を刈り取るような蹴りが飛んできた。その一撃により、新藤の体が僅かに沈むと、襲撃者はさらに飛び込んで拳を放つ。それでも冷静に、新藤は頭を横に移動させてそれを躱し、渾身の拳を襲撃者の腹部へ入れた。


襲撃者が小さく呻く。カウンター気味に入った一撃は、相手の動きを鈍らせるほど、強烈なダメージを与えたに違いない。実際に、暗殺者の動きは止まり、反撃の様子はない。今度こそ、と新藤は次の一撃の体勢を取ったが、襲撃者は大きく後ろに飛んだ。そこで初めて新藤は襲撃者の姿をまじまじと見た。女性であることは理解していたが、その姿は伝説の暗殺者という言葉から連想させるものとは、あまりに違った。


襲撃者は金髪碧眼の少女だったのだ。

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