表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/251

考えがまとまると、私の足取りは軽くなった。軽やかに、舞うように、私は如月探偵事務所に向かう。古臭い等々力ビルに入り込もうとしたが、先程偵察にきたときは止まっていなかった車があった。中の様子を見ると、妙なファッションをした金髪の女が乗っている。何となくだが、他の人間よりも警戒心が高く、ビルの入り口を見守っているようだ。


これでは、侵入しにくいではないか…と躊躇っていると、ビルから誰かが出てきた。赤い髪の女…如月葵だ。一人であれば、ここで始末できたかもしれないが、スーツ姿の男が二人も傍にいる。一人は気の弱そうな男で、もう一人は長身の男。体格からして、どちらもそれなりの戦闘力を持ち合わせ、経験も積んでいるように見えた。


如月葵は気の弱そうな方と、駐車場に止められた車に乗り込む。残された長身の男は、金髪の女が乗っていた車に乗り込むと、移動を開始した。


長身の男と金髪の女は、もしかして異能対策課…というチームだろうか。だとしたら、既に警察と合流されてしまったことになる。隠れ家に向かうとしたら厄介だが、移動先くらいは把握しておきたい。チャンスがあれば、そのときはそのときだ。私は如月葵たちの追跡を始めた。




如月葵は、どうやら食事を取るらしかった。日本ならでは、という外観の建築物の中に入って行った。確か、料亭…という場所ではないか。私は店の裏側に回り、従業員用と思われる入り口から中に侵入した。そこは厨房らしき場所で、何人もの料理人たちが右へ左へと移動している。下手に侵入して見つかって、大騒ぎになるだろう。そこで、私は能力を発動させた。


私は身を低くしながら、できるだけ料理人たちの視界に入らないよう移動する。料理人は何人もいるので、その視界に入ることなく厨房を抜けることは難しいことだ。しかし、私の能力を持ってすれば、それはちょっとした注意を払うだけで可能となる。私は誰にも見つかることなく厨房を抜けて、広めの廊下に出た。日本特有の襖という扉がいくつも並んでいる。


廊下を進むと、奥の部屋に護衛らしい男が二人立っていた。どうやら、あの部屋に如月葵がいるらしい。その証拠に、見張りの一人は、如月葵の助手らしき、あの気弱そうな男だ。


私は使われていない客室に入り、窓から中庭が広がる外に出た。ここから如月葵が使っている部屋まで移動できそうだ。能力を発動させたまま、中庭を移動する。途中、スーツ姿の長身の男が周囲を警戒するように、視線を巡らせていた。確か如月葵と一緒に等々力ビルから出てきた、もう一人の男だ。だが、どんなに警戒したとしても、能力を使っている私をその目で捉えることはないだろう。


その証拠に、問題なく如月葵の部屋の前に到着できた。中を覗き込み、如月葵を確認する。彼女の正面に男が一人。その男を挟むように、護衛が二人立っている。恐らく、如月葵は正面にいる男と会うために、ここへやってきたのだろう。私たちが如月葵の命を狙っている、という情報は既に漏れていて、隠れ家まで用意されているらしい。それにも関わらず、こんな場所で悠長に食事を取っている、ということは…どうしても外せない面会だった、ということだ。


だとしたら、それが終われば、如月葵はどこに行くのだろうか。その隠れ家に向かうに違いない。そうなったら、今以上にセキュリティは高く、屈強なボディガードも増えるだろう。先生であれば、そんな状況であっても問題ないが、私一人では無理だ。


しかし、現状はどうだろうか。室内には合計で四人。狙いを如月葵だけに定めれば、私だけでも十分仕事を達成し、ここから離脱も問題なく可能だろう。


私は覚悟を決めて、懐に忍ばせていたナイフを取り出す。そして、慎重に如月葵がいる部屋の窓に近付いた。如月葵と正面の男が何やら会話をしていて、私の接近には気付いていない。私は音を立てないように、如月葵に一番近い窓を開けてみることにした。ここの鍵がかかっていなければ、窓を開くと同時にナイフを投擲し、一瞬で如月葵を仕留められるはず。


しかし、そう上手くは行かず、窓は開かない。隣の窓はどうだろうか。如月葵からは少し遠くなり、角度の問題もあって、窓を開けると同時にナイフで彼女を仕留めることは不可能だ。その代りに、護衛を一人排除できる。その後、部屋に乗り込んで如月葵を捕らえ、首をへし折ってやれば良い。あれは細い女だ。抵抗されても、大したことはないだろう。


タイミングを見て隣のの窓へ移動し、鍵を確認する。この手応えは、鍵がかかっていないようだ。運が味方している、と私は確信した。


窓を開ける。いくら私の能力が発動しているとは言え、室内にいる全員が、音に反応してこちらを見た。だが、私は既にナイフを投げている。ナイフは真っ直ぐ飛び、窓から一番近かった男の首に突き刺さる。男が崩れると同時に、もう一人の護衛らしき男が、如月葵の面会相手を守った。


「新藤くん!」


如月葵が叫んだ。助けを呼んだのだろう。だが、私は構わず飛び掛かった。如月葵へ飛びかかろうとするとき、私は妙な感覚に襲われる。能力を発動させているはずなのに、その手応えがない。だが、それは今この瞬間、どうでもいいことだ。すぐに首をへし折ってやる。そして、先生が待つホテルに戻るのだ。きっと怒られるだろうが、あの人を生かすためなのだから、大したことではない。すぐに終わらせてやる。


次の瞬間には如月葵を捕らえ、その首をへし折るはずだった。しかし、私が思っているほど、これは簡単な仕事ではなかった。先生の言う通り。この仕事は、予想もしていなかったことが起こるらしいのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ