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「ホン・ウーヤーだ。常識知らずの君だって、その名前くらい聞いたことあるだろう」


事務所に姿を現した成瀬は、新藤を威圧するように人差し指を向けてきた。


「うーやー? 外国の方ですか?」


「まさか知らないのか? 葵さんの助手、失格だな」と成瀬はあからさまな溜め息を吐く。


新藤は頬を引きつらせながらも、下手に出る。


「勿体振らず教えてくださいよ。何者なんですか?」


「全く葵さんの身に危険が迫っていると言うのに、本当に呑気なやつだよ。いざというとき、彼女を守れるのか? どうなんだ?」


ここぞと責めてくる成瀬に対し、新藤は反撃の手段がなかった。しかも、つい先程、如月本人から「頼りない」と言われたばかりだから、余計にだ。ここに成瀬の部下である、乱条がいたら多少は状況が違うのだが…。成瀬の皮肉はさらに続いたが、憂さが晴れたのか、大きく息を吐くと、ホン・ウーヤーについて語り始めた。



「ホン・ウーヤーは、もう四十年以上、その存在が囁かれる暗殺者だ。確実に依頼をこなすが、受けるのは難易度が高いものばかり。要塞みたいなセキュリティに住む富豪や、屈強なボディガードを付けた要人など。普通の暗殺者なら投げ出すような仕事を好んで受ける、酔狂な暗殺者としても知られる。


しかも恐ろしいことに、ホン・ウーヤーは殆ど素手で仕事をこなすことが特徴だ。百人の護衛があったとしても、一夜のうちにそれを壊滅させる。あまりに強力過ぎることから、裏社会ではホン・ウーヤーに依頼することは禁じ手、という暗黙の了解ができるほどだったが…


それでも大金を積んで殺したいやつがいる、という人間は少なくない。今も年に何度か、ホン・ウーヤーによるものと思われる殺しは起こっているわけだ。そして、そのホン・ウーヤーが日本に向かっている、という情報をキャッチした」


「日本に、ですか…?」


なぜ、そんな伝説の暗殺者というべき人物が日本に訪れるのか、と首を傾げる新藤だったが、それを成瀬に鼻で笑われる。


「相変わらず察しが悪いな、新藤くんは。どうして、僕がここに駆け付けたと思う?」


新藤は数秒考え、すぐに結論に至り、如月の方を見た。如月は特に動揺を見せなかったが、新藤の方は顔を青くする。


「どうして、如月さんを?」


その質問を待っていたのか、成瀬は頷く。


「最近、異能対策課は多忙でね、多くの事件に関わってきた。中には厄介なものもあって、苦労もしたが、そういった事件を解決したあと、色々と調べると、なぜか一つの名前に辿り着いた。すべて、というわけではないが、どの事件も面白いくらいに、その人物の名前だ出てくるんだ。今のところ関係がないと思われる事件も、さらに調べれば、その名が出てくるんじゃないかってほどにね」


成瀬の話を聞いて、新藤の頭には自然と一人の人物の顔が浮かび上がっていた。でも、そうであってほしくない。なぜか、そんな不安を抱きながら、新藤は尋ねた。


「その名前…って言うのは?」


成瀬は如月を見て、その人物の名を口にする。


「野上麗、という人物だ」


如月はやはり顔色を変えない。成瀬は、如月と野上麗の関係を探るために、あえてその名前を出したようだが、期待外れだったことだろう。


「葵さん、この名前に身に覚えはありますか?」


如月は平然と答える。


「私たちも、異能関係の事件を日々追っています。その中で何度か」


「何度か、ですか。先日、取り逃したセミナーの事件も、裏で動いていたのは、野上麗でした」


「そのようですね」


「野上麗に命を狙われる理由に、心当たりはありますか?」


「さぁ、分かりません。単に私の存在が気に喰わないだけでは?」


「ちょっと待ってください」


新藤が二人の会話を遮った。


「野上麗が、そのホン・ウーヤーという暗殺者に依頼を出したのですか?」


成瀬は煩わしそうに、新藤を一瞥し、すぐに如月に向き直った。


「野上麗は、多くの異能犯罪の裏に存在している。だが、すべてが彼女の指示によるものではない。多くの異能者は、自発的に何らかの事件を起こす。まるで、野上麗の期待に応えたい、といった具合に。ホン・ウーヤーの依頼もそうだ。ある異能犯を捕らえたところ、彼は野上麗に酔心していた。その男について、色々と調査をしたら、ホン・ウーヤーに連絡を取ったと思われる痕跡が見つかって、その中に葵さんの名前があった。依頼が野上麗による指示なのかどうかは、今のところは分からない」

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