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如月は、光の扉の解析を終え、大原結衣はこの中にいる、という結論に至った。


「あいつ…この扉を使って、向こう側に入り込むつもりか。そのために、大原結衣を実験に使っている。相変わらず、嫌なやつだ」


如月は呟き、もう一度扉に触れた。恐らく、自分でも扉の向こうに入り込むことは可能だろう。如月は瞳を閉じて、中の様子がどんなものか、そのイメージを吸い出した。


それを見て、覚者の噂は嘘ではない、と理解する。確かに、この扉の向こうに長時間いれば、こちら側の世界の住人として形を失い、帰ってこられなくなるだろう。依頼を果たすには、そうなる前に、如月の意識を向こう側に飛ばし、彼女という存在をこちら側に復元するしかない。


「やるか」


如月は大きく呼吸をした後、意識の移行を始めようとした。そのとき、誰かがプレハブ小屋に入ってくる気配があった。どうやら、新藤が外の厄介事を終えたらしい。如月は少しだけ安心する。意識を向こう側に飛ばしている間、新藤が傍にいてくれるのであれば、何かあったとしてもある程度の安全は約束されるのだから。


「如月さん、大丈夫ですか?」


と新藤の声。


「うん。でも、大原結衣はこれから…」


言いながら振り返って、如月は新藤の方へ目をやった。そして、思いもしなかった光景を目にして、絶句してしまう。


「どうしたんですか、如月さん」


新藤は、顔面蒼白の如月を見て、その異変に気付く。異変には気付いたが、その原因に対しては無警戒であった。


「新藤くん、なぜその女と一緒にいる…?」


恐る恐る尋ねる如月。新藤の背後に、如月がもっとも脅威とする存在が立っていた。しかも、新藤と親しい間柄であるかのような距離感だ。新藤は、当然のようにその存在が何者なのか、説明しようとした。


「ああ、この人は下内さんです。施設から出ようにも出れない状態らしくて、一緒に外へ出ることを提案したんです。そしたら…」


「馬鹿、すぐに離れろ!」


「え?」


如月が警告するが、新藤はその意味を理解できなかった。


そのとき、新藤の後ろで、女が笑みを浮かべる。この瞬間を狙いすましていたかのように。如月の警告は意味がなく、女は新藤の背後から、恋人にするように、二本の腕で彼を包み込んだ。


「新藤さん、動いではいけませんよ」


「あ、れ…そう、だ。どうして、僕の名前、を」


何が起こったのか、理解できず混乱しながらも、心のどこかで抱えていた違和感の正体に気付いたらしい新藤だったが、女による拘束によって、その表情が少しずつ固まっていった。女の拘束力は、特別強いわけではない。しかし、それは新藤の自由を完全に奪っていた。


今は辛うじて喋れるようだが、拘束力が増したのか、新藤の視線が少し持ち上がり、体の所々で痙攣を起こし始めた。それは、強制停止命令を出された、壊れたロボットのようにも見える。彼の意識があるのかどうかも、怪しいところだ。


「新藤くんから離れろ、野上麗」


如月の言葉に反応したかのように、女…野上麗の目が、怪しい月光のように青く輝き出す。


「離しませんよ。私、この方が気に入ってしまいました。ここ数日、とても良くしてくれましたから」


野上麗は、新藤の体に自らの手を這わせた。それは、新藤は自分のものであるとアピールするかのうだ。


「お前は、またそうやって…」


如月は出かかった言葉を飲み込む。


「そうやって、なんですか?」


野上麗は、感情を押し込む如月を、嘲笑うかのようだった。


「人って不思議ですね。感情と言う特別なものがあるのに、それを抑え込もうとする。抑え込むと、それはストレスとなって、思考回路に負担をかけるのに。それを知っていて、そうするしかない。本当に不思議です」


「死にぞこなって得た教訓がそれか? だとしたら、やはりお前は、この世界に必要のないものだ。新藤くんから離れて、ここを出ていけ。そしたら、今回だけデリートは勘弁してやる」


「人質を取って有利なのは、こちらですよ」



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