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如月は車を止める。施設の正面玄関。新藤が大原結衣を連れて出てきたら、すぐに走り去れる位置だ。見張りがいる様子もなく、今のところは順調である。


しかし、如月はどこか落ち着きがなく、車を降りて、もう一度辺りを見回して確認した。空を見上げると、月がこちらを見下ろしていた。如月は、睨み返すようなつもりで月を見つめたが…嫌な予感に背筋を撫でられる感覚があった。


その感覚の正体を知るために、正面玄関の方に視線を向け、何か異変はないかと様子を窺う。すると、近付いてくる人影が見えた。如月は身を隠そうと、その場を離れようとしたが…消えない嫌な予感に促されるようにして目を凝らす。


人影はゆっくりと、しかし確かな意思を持って、こちらに向かってきていた。これ以上は不審人物として認識されてしまう、と身を引こうと思ったが、如月は足を止める。なぜなら、近付いてくる人物の顔が月明かりによって、露わになったからだ。そして、その顔は如月のよく知る顔であった。


「野上麗…」


因縁の相手を前にして、如月は身を隠すことを忘れ、自らも月明かりの下に出た。そして、野上麗の方へ詰め寄るように、接近する。野上麗が、接近する如月に気付いたのか、微笑みを浮かべた。


「あら、やっぱりいらしていたのですね、如月さん」


野上麗は、まるで散歩中に知人に出会ったかのような調子であるが、如月はその真逆の表情である。


「よくも護衛も付けずに、私の前に立っていられるな」


如月の攻撃的な言葉を受けても、野上麗の表情は変わらない。飽くまで、友好的、好意的であると言いたげだ。それは、余計に如月の感情を逆なでるものでもある。


「逃げるつもりもないなら、すぐにデリートしてあげる」


「私はまだやるべきことがあるので、消えるわけにはいきません」


「こんな施設まで作って、またこの世界を解放するなんて言い出すつもりか?」


如月は嘲るように鼻で笑って見せるが、その表情は余裕がなく、むしろ焦りが色濃く出ているように見えた。それに対し、野上麗は子供の強がりを聞くような、母性すら感じさせる表情を見せている。如月にはそれが気に喰わなくて堪らなかった。野上麗は言う。


「この施設は私が作ったものではありませんよ。知人が作ったものです。目的としては、私を守らせる異能力者を用意するためらしいのですが…」


「お前がどんなゲスにちやほやされているかなんて、どうでも良い。すぐデリートしてやるから、そこを動くな」


如月がさらに距離を詰め、手を伸ばした。後数歩でその手は野上麗を捕らえるかのように見えたが…。


「私をデリートするには、少し時間がかかることでしょう。その間に、貴方の大事なパートナーがどうなってしまうか、心配ではありませんか?」


如月の手が止まる。新藤の身に何かが起こっているらしい。


「……何をした?」


「何もしていません。ただ、彼は大原結衣を連れ出すために、ここに潜入したのでしょう? 彼では、大原結衣の異能を打ち破ることはできません。如月さんが助けなければ、再起不能になってしまうかもしれませんよ」


如月は、穏やかに微笑む野上麗を見つめれば見つめるほど、負の感情が込み上げ、混ざり合っていくのを感じた。野上麗は消し去らなければならない。すぐにでも。


しかし、そんな感情は今の彼女にとって、抑えるべきものでしかない。なぜなら、野上麗が如月に嘘を吐くことは有り得ないからだ。この女が言うなら、新藤は危機的な状況に追い込まれているのだろう。


如月は、野上麗に向かって伸ばしていた手の平を握りしめると、施設の方へ走り出す。背中には野上麗の空虚な笑顔が張り付いている気がした。




如月は運が良いことに、施設のどこに新藤がいるのか、殆ど迷うことはなかった。それは、新藤の絶叫が彼女の耳に届いたからでもある。新藤は、これまでいくつもの修羅場を潜り抜けてきた男だ。それが、これほどの危機感を露わにするとは、ただことではない。


それだけに、如月は必死に彼を探そうと、集中力を極限まで高めたのだ。結果、彼がいる部屋をすぐに見つけることができたのだが、そこで見た光景は彼女の想像とは、やや異なるものだった。


その部屋は、椅子も机もない、ただ広い部屋だった。そのほぼ中央に立っているのは、写真で見た大原結衣の姿。そして、その足元に、新藤が横たわっている。いや、のたうち回っている。


まるで、体中を駆け回る激痛に耐えるように。それを見下ろす大原結衣は、楽し気に笑っているが、彼女の仕業であることは間違いなかった。


大原結衣は、ドアが開く音に気付いたのか、すぐに如月を見た。そして、すぐに歪んだ笑みを消し、緊張感ある表情で問いかけてくるのだった。


「貴方、見ない顔ね。…分かった、この男の仲間?」


大原結衣は、こちらを警戒してはいるが、どこか勝気である。それだけ、自分の異能力に自信があるのだろう。そういう人間こそ、如月にとっては御しやすい相手ではある。


「その男から離れたまえ」


異様な状況であるにも関わらず、堂々とした如月の態度が気に喰わないのか、大原結衣は僅かに目を細めた。


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