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矢田朱里の事件を終えてから、如月探偵事務所にはまともな仕事は入ってこなかった。つまり、新藤も如月も暇を持て余す日々ばかりを送っていた。


欠伸を噛み殺しながら、新藤は如月探偵事務所が少しでも多くの人に知られるよう、何か良い宣伝方法はないか、と考えていた。それに対し、如月は今朝郵便受けに入っていた、駅前のハンバーガーショップの新メニューが描かれたチラシを眺めている。


「お、新藤くん。これを見たまえ」


「いえ、大丈夫です」


自分のデスクから手招きをする如月だが、新藤はそれを一蹴した。どうせ新作のハンバーガーが気になる、という話に違いない。


下手をしたら、買ってこい、という話になるだろう。新藤は、それなりに忙しく働いているつもりだ。そんな用事は、暇そうにしている如月自身が勝手にやってくれれば良い。


「ねぇ、新藤くん。これ、見てってば」


「今、ちょっと忙しいので」


「忙しくないじゃん。パソコン見て、うんうん言っているだけでさ」


「色々と考えることがあるんですよ」


「そうだったとしても、別に良いじゃん! 仕事する時間はたくさんあって、その中の一分や二分、私のこと構ってくれたって良いじゃん!」


「……」


「おい、無視するんじゃないよ。来月の給料、半分だぞ」


「今月も給料半分だったじゃないですか」


「むぅ…」


「それで、なんですか? チラシを一緒に見るだけなら良いですけど、買いに行けって言うのはなしにしてくださいよ」


「分かった。見るだけでいいよ。取り敢えず、見るだけ」


取り敢えず、という言葉が気になったが、新藤は溜め息を吐き、席を立って如月の方へ移動した。


「どうこれ、新作のハンバーガー。気にならないかい?」


「……焼きバナナとホイップクリームのモッツアレラチーズバーガー?」


「うん。斬新だろ? どんな味するのかな」


「……最近も言ったと思うのですが、如月さんって甘いもの苦手なんですよね?」


「ああ、苦手だよ。でもね、関係ないんだよ。要は冒険心。新作のハンバーガーがあれば、それを食べてみようと思う。美味しくないかもしれないよ? でもね、本当に美味しくないかどうかは、実際に食べてみなくてはならないわけだ」


「念のため、忠告しておきますが…絶対、如月さんとは相性が良くないと思いますよ」


「だから、相性なんて何かのきっかけで変わるもんなんだって。この新作バーガーがね、何かのきっかけで私と甘いものの相性を結び直すかもしれないじゃないか」


「ご自身のタイミングで試してみてください」


「今食べたいよぉ。買ってきてよぉ」


「だから、嫌ですって」


新藤が自分のデスクに戻ろうとしたとき、ドアがノックされた。新しい依頼が舞い込むか…と思われたが…。


「やっほー。如月、いるかい?」


顔を出したのは、寝癖だらけの髪に、牛乳瓶の底みたいなメガネをかけた女性だった。


「あ、重田博士。おはようございます」


と新藤は挨拶する。


「やぁ、新藤くん。おはよう」


「あれ、重田博士が来るの、月に一度ですよね。前回から、まだ二週間ほどだったと思いますが」


「私が呼んだ。まぁ、約束の日は明日だったはずだけどね」と如月。


「そうだったっけ? まぁ、今日も明日も変わらないでしょう」


重田はヘラヘラと笑い、応接用のソファに腰を下ろす。


「新藤くん、アイスコーヒーをお願い」


「分かりました」


まるで、喫茶店にでもやってきたような態度だが、新藤は笑顔を返してコーヒーを準備した。少し談笑が続いたが、やがて如月が言った。


「新藤くん、悪いけど席を外してくれないかな」


「はい、分かりました」


重田がやってくると、たまに如月の指示で席を外すことがある。いつものことなので、自然と外に出ようとする新藤だったが、その背に向かって如月が付け加えた。


「あ、どうせ外に行くなら、新作バーガー、テイクアウトでお願いね」


「……それが狙いだったんですか?」


不満を漏らしながらも、新藤は言われるがまま、外へ出て行った。

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