表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/251

薬の飲み過ぎで、陽菜ちゃんと芳次が頻繁に頭痛を訴えるようになった。それから少し遅れて、孝弘くんも体の痛みを感じ始める。一番薬を控えていた私ですら、軽い症状が見られた。


陽菜ちゃんと芳次はそれでも薬を辞めなかったし、孝弘くんも続けようとした。薬は絶対に、私たちの体を蝕んでいるのに…


いや、心だって異常をきたしているのに、誰もやめようとしなかった。


このままではいけない。

薬を飲み続けたら、体も心も、いつか駄目になってしまう。


陽菜ちゃんと芳次はどうでも良い。

むしろ、このまま薬を飲み続けて、イカれてしまえ、とすら思っていた。


でも、孝弘くんには、これ以上は薬を飲んでほしくない。


だから、私はこれ以上、協力はできない、と彼に伝えた。


「セミナーも、次からは行かない。薬も飲まない」


一緒に…辞めて欲しい。


薬のことがなくても、私を必要として欲しい。彼は薬だけでなく、私にも依存しているのだ、と信じたかったのに…。彼の答えは、そんな私の期待を否定するものだった。


「そうか…今まで、ありがとう」


私は必要がない。そういうことらしかった。


「まだ続けるの…?」


と私は聞く。


「一度で良い。プシヒーの力で、陽菜と共感する。そうすれば…すべてが元通りになるはずだ」


「……そう」


あれだけ私のことを使って、まだ陽菜のことしか考えていない。もう元通りになるものなんて、どこにもないんだ。新しい形を受け入れれば良いじゃないか。でも、彼はそれを認めてくれはしない。


何日か離れれば、孝弘くんも私という存在の意味に、気付いてくれるかもしれない。そう思って、私は日常に戻った。


一週間、私は一人で普通に生活した。

大学には、陽菜ちゃんも孝弘くんも顔を出さない。何をしているんだろう、と気にはなかったが、ここで連絡してしまったら、私は孝弘くんを救えなくなってしまう気がした。きっと、お互い薬漬けになって、身を滅ぼすことになるだろう。


だが、ある日の夜、孝弘くんが突然、私の家にやってきた。


もしかしたら、彼は理解してくれたのかもしれない、と部屋に迎え入れたのだが…。彼を乱暴に私を引き寄せると、無理矢理に薬を飲ませた。そして、彼自身も薬を飲むと、いつものように自分の衝動を私にぶつける。すべてを受け止めた私は、立っていられず、横になったまま出て行く準備をする孝弘くんの背中を見ていた。


「もしかしたら、一カ月後のイベントでメシアに会えるかもしれない」


と彼は私に背を向けたまま言った。


「メシア?」


「セミナーに参加して、評価され続ければ会える、凄い人なんだ。メシアは薬で得た力を安定させることもできるらしい。そうすれば、副作用にも困らないし…力の相性も変更できるって聞いた」


「相性も…? じゃあ、孝弘くんはプシヒーに?」


彼は頷いた。


「…駄目だよ」


何が駄目なのか、説明はできなかった。でも、それが引き止めるための、精一杯の言葉だった。彼は部屋を出た。それから、孝弘くんは姿を現してくれなかった。


このままでは、孝弘くんはプシヒーの力を手に入れてしまうかもしれない。


そしたら、私はどうなるんだろう。

本当に彼と陽菜ちゃんの相性は、合うのだろうか。


そんなことは、絶対に許されない。


陽菜ちゃんのせいだ。

芳次のせいだ。


あいつらが、孝弘くんを巻き込んだ。薬漬けにした。どんな手を使ってでも、孝弘くんをあいつらから遠ざけなければ。


そして、私は如月探偵事務所のことを知る。




事件を終え、私も孝弘くんも、力を失った。薬はもうないし、体に残っていた副作用も、如月という人に触れられてから、嘘みたいになくなった。私と孝弘くんは、普通の大学生に戻った。陽菜ちゃんの姿は、まだ見ていない。


孝弘くんは、私に話しかけてくることはなかった。だから、私も距離を取ることにした。それでも、同じ教室で一緒に授業を受けることもある。私は後ろの方の席に座って、彼の背中を遠くから眺めた。


まだ、陽菜ちゃんのことを考えている。


それがよく分かった。きっと、まだ長い時間、忘れることはない。彼はあの女のことを思い出す度に、傷口が痛むのだろう。私の中には、彼に対する失望がないわけではない。


でも…知ってほしい。

彼には、私しかいないのだ、と。


私こそ、貴方と相性の良い女なんだ、と。私は授業で使われるプリントの裏面に、躊躇いながらも、自分の気持ちを短く綴った。


「私は大丈夫。いつでもおいで」


そして、授業が終わっても、教室から出ようとしない彼の傍らにそれを置いた。私は無言で立ち去り、教室を出るとき振り返って、彼の様子を見た。何を考えているのか、私のメッセージを見つめ、彼は動かないままだった。


その日の夜、彼は私の家を訪ねてきた。


私は黙って迎え入れ、何も言わず泣き出す彼を抱きしめた。何を思って泣いているのか…知りたくはない。


でも、今はこれで良い。

いつの日か、身も心も、私だけを求めるように、きっとなる。


そのときまで、こうして私の胸の中で泣けば良い。許してあげる。貴方を手に入れられるなら、支配できるなら、何度だって許してあげる。


あの探偵事務所に依頼して…本当に良かった、と思う。


だって、すべて私が願った形になったのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ